第22話 帰還
「くそったれが! 逃げ回るしか能が無いのかッ!」
激昂しながらもミュータントは、射撃の精度を上げようと弾道を調整する。
しかし大介は、その一瞬の隙を見逃さない。
彼は倒壊寸前の柱の陰に身を潜めながら、コートの衣嚢から一つの手榴弾を取り出した。
「なにも馬鹿正直に銃でやり合う必要はねぇ。時には派手な爆発が正義な事もある」
そう言うと大介は、手榴弾のピンを引き抜き躊躇なく、それをミュータントの足元に投げ込む。
手榴弾は回転しながら滑らかな軌道を描き、ミュータントの巨大な深靴の脇に転がり込んだ。
「なっ……!」
ミュータントは反射的に手榴弾を見下ろす。
相手の瞳に一瞬の恐怖が宿るが、それもすぐに怒りに変わる。
「返してやる……!」
そう言うとミュータントは、巨大な足を蹴り上げて、転がった手榴弾を弾き返した。
その動作は驚くほど素早く正確である。
手榴弾は空中で回転し、再び大介の方へと向かう。
その間にガトリングの斉射は一旦止まり、ミュータントは再び攻撃態勢を整えようとしていた。
しかし大介は、その一瞬の隙を見逃さない。
「悪くない蹴りだ。ああ、中々のものだ。けどよ、これで終わりだぜ」
身を曝け出すように飛び出し、大介は正確無比な銃撃を放つ。
弾丸は一直線にミュータントの額を貫き、その後ろの壁にちと骨片を飛散させる。
「ぐっ……人間ごときが……!」
最後の力を振り絞るように、ミュータントは苦し気な声を漏らした。
「くそがっぁ……お前達人間は……弱いくせに……なぜだ……」
瞳から光が徐々に失われていく中、ミュータントの巨体は崩れ落ち、無機質な音を立てて床に倒れ込む。
轟音が消え、静寂が室内を包み込んでゆく。
そして大介は床に転がる手榴弾を拾い上げると白い歯を晒す。
「悪いな、これはただのブラフだ。中身は少々の砂と小石だ。それと、勘違いするなよ。俺は生憎と人間じゃなくてグールだ。まあ、おつむの弱いお前さんじゃ、分からんだろうけどな」
そう言うと彼は手榴弾を懐へと入れて、ミュータントの死体から意識を外した。
「それで――お前は何時まで休んでいる気だ? おい、生きてんだろ。さっさと起きやがれ」
無造作に振り返ると大介は、瓦礫の上で倒れているカナエを見下ろすように声を掛ける。
すると、その言葉が届いたのか、カナエは体が僅かに動き出す。
次いで大きく咳き込みながら体を起こした。
彼の粋は荒く咽る音が、耳に痛いほどである。
「ぐっ……なんてタフなミュータントだ……」
しばらく苦し気に咳き込んだ後、ようやくカナエは腰を上げて立つ。
彼の服は、あちこちが裂け、そこから血が滲んでいる。
しかしカナエの胸を覆う特注の防弾ベストは、まさに生還の証だ。
ベストにはガトリング弾の跡が無数に刻まれ、表面がへこみ焦げた痕まで見える。
「この特注のベストが無ければ即死でしたよ。ああ、戦前の技術に感謝ですね」
苦笑いしながらカナエは背中についていた砂埃を払いつつ、大介に向けて防弾ベストを誇らしげに軽く叩いてみせた。
「へえ、大したもんだな。そのベストがなけりゃ、あのミュータントの犬っころの餌になってたわけだ」
皮肉的な笑みを浮かべながら言うと大介は、突撃銃の弾倉を外して残弾の確認を行う。
「まあ俺としては、ここでお前が死んでくれても、良かったんだがな」
大介の口元は不敵に歪むが、それと同時に弾倉を改めて装填し、銃の点検を終えた。
「ははっ、ご冗談を」
少しだけ眉を顰めたカナエだが、それを軽く笑い飛ばすと、傷だらけのベストを脱ぎ捨てる。
引き締められた体が露わとなり、その表面には無数の古傷と新しい傷が交錯していた。
「さてと。取り敢えず、この廃墟に住まうミュータントは、全て倒し終えたな。あとは助けた人たちと合流して、平和特区に帰還するだけだ」
そう言いながらカナエは、床に倒れているミュータントの亡骸へと近づく。
「念のため、こいつの首を持ち帰って、晒し首にしましょう。他のミュータントたちへの警告の意味を込めて」
ナイフの刃が鋭い光を放ち、カナエは躊躇うことなく、ミュータントの太い首筋に刃を刺し込む。
骨と筋肉が刃を押し返そうとする感覚を確かめながら、力を抜いて引き裂いてゆく。
やがてミュータントの首が完全に切り取られると彼は、その巨大な生首を持ち上げ軽く振り回しみせた。
――そして全ての戦いが終わり、東の地平線から日が昇り始め夜明けの気配が漂う中、大介とカナエは救助した人間たちを連れて、安堵と疲労が入り混じる表情を晒しながら、平和特区への帰還を果たしたのである。
周囲は柔らかな朝日の光に包まれ、戦闘の汚れや傷痕さえも、どこか神聖な雰囲気を帯びていた。
平和特区の門を潜ると、待ち構えていた住民たちが一斉に声を上げ、大介たちの帰還を祝福する。
「俺達のリーダーが無事に帰ったぞ」
そんな声を誰かが上げると同時に、人々が次々とカナエや、救助された人間たちへと駆け寄った。
そして救助された者達が次々に安心感からか泣き崩れ、その中には家族と思しき人間たちと抱き合う光景も広がる。
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