第21話 ガトリング銃
「ぐっ……!」
カナエの顔が苦痛に歪んでゆく。
彼は何とか銃口を向けようとするが、左右の腕を強く噛みつかれ、身動きが取れない。
「ちっ! カナエ!」
大介が叫び、犬たちの頭部を狙い発砲するが、犬たちは得物を放す素振りを見せない。
むしろ、その三つの頭のうち二つが彼の方へ、威嚇するように唸り声を上げた。
だが、その時――ミュータントがガトリングの銃口をカナエに向け、不敵な笑みを浮かべる。
その笑みは勝利を確信しているようで不気味だ。
「俺の仲間を殺した罪だ……死ね、人間!」
そう言うとミュータントはガトリング銃の引き金を引き、耳を劈くような轟音が室内全体に響き渡る。
ガトリングの銃身が物凄い速さで回転し、無数の弾丸がカナエを襲う。
銃弾の雨が彼の腹部に直撃し彼の体は、まるで人形のように後方へと吹き飛ばされた。
「くそっ、まじかよ!?」
一瞬の光景に唖然としながらも大介は、すぐに態勢を立て直す。
カナエの倒れた方向へと視線を向けると、彼は地面に横たわり微動だにしない。
そして三つ首の異形のケルベロスは主である、ミュータントから命令を再び受け止めると、床を蹴り上げて今度は大介へと襲い掛かる。
それぞれの頭が獰猛な牙を剥きだしにし、血走る眼光を大介へと向けていた。
その圧倒的な殺気は、一瞬でも気を抜けば飲み込まれそうなほど。
「おいおい、お前ら俺を本気で殺す気かよ? せめて名前ぐらい聞かせてくれよな。どの頭に呼びかけりゃいいのか分からねぇ」
犬たちに意識を向けると彼は、いつも通りの軽薄な笑みを浮かべたまま、冗談とも挑発とも取れる、その言葉を投げる。
しかし、その言葉は犬たちに通じるはずもなく、三つの頭が一斉に唸り声を上げて、その巨体を低く沈めて跳躍の準備を行う。
「来やがるな……ッ!」
そう呟くと大介は、突撃銃を構えて、反撃の姿勢を整える。
最初の犬が稲妻のような速さで飛び掛かると、空気を切り裂くような鋭い音が鳴り響く。
反射的に大介は、突撃銃の引き金に添えた指に力を込め、轟音と共に銃弾が放たれてゆく。
すると次の瞬間、一頭の犬の中央頭部が爆ぜる。
鮮血が宙を漂い、犬の体が一瞬だけ怯んだ。
「おっ、一匹目の顔は頂きだな」
軽口を叩く大介だが、尚も撃たれた犬は倒れない。
残る二つの頭が怒りに満ちた咆哮を上げ、さらに速度を上げて彼の元へと迫る。
その間にも二匹目の犬が、側面から狙いを定めて襲い掛かった。
「おっとっと、ちょっと待てよ。二対一なんて卑怯じゃないか?」
そう言いつつも大介は、軽やかにな身のこなしで跳躍し、犬の攻撃を紙一重でかわす。
その際、足元の瓦礫を蹴り飛ばし、敵の視線を惑わせる小細工も忘れない。
「お前ら獲物を食う前に、せめて料理ぐらいしろよな。生食厳禁だぜ。特にグールはな」
冗談めいた口調を交えつつ、大介は突撃銃の引き金を引くと、再び重たい銃声が響き渡る。
二発、三発と正確に放たれた弾が、一匹目の犬の左の頭を吹き飛ばす。
脳漿が床に飛び散り、犬の動きが一瞬だけ鈍る。
その隙を逃さず、大介は素早く位置を変えて残る、一つの頭に狙いを定めた。
「はい、これで三つ揃っておしまいだ!」
引き金を引くと同時に、最後の頭が破裂し、巨体が崩れ落ちる。
だが安堵するまもなく、二匹目の犬が鋭い爪を振りかざして、飛び掛かってきた。
その迫力は、まさに猛獣そのものである。
「くっ、こっちは急かすなっての!」
その場で転がるようにして、距離を取りながら大介は、素早く弾倉の交換を行う。
「よう、ワンころ。こっちも負けられないんだよな。お前達を一掃しないと色々と面倒でな、契約的に」
そう言うと彼は引き金を引き、銃口から再び火花を散らせ、放たれた弾丸が犬の胴体を貫く。
だが、その傷は致命傷にはならない。
三つの頭のうち一つが鋭い声で吠え、他の二つの頭が大介に狙いをすました動きで追い詰めて来る。
「お前ら連携力は凄いが、そろそろ大人しくしてくれ」
冷静さを失わず大介は、動き回りながら次々と銃弾を放つ。
そして最後の弾丸が、一匹目と同じように、犬の頭部へと突き刺さった。
瞬く間に三つの頭が全て破壊され、ついに二匹目の犬も力尽きて床に崩れ落ちる。
荒い息を吐きながら大介は、血に塗れた銃を持ち直して、犬の死体を見下ろした。
「おいおい、せめてもう少し俺を楽しませてくれよ。これじゃ物足りないぜ」
余裕を装いながらも彼の目には次なる獲物を見据えている。
目の前には犬の指示を出していたミュータントが、鬼の形相で黄色く歪な歯を剥き出しにしていた。
「さぁて、いよいよ大将戦だな。準備はいいか? おっぱじめようぜぇ!」
再び空の弾倉を交換しながら大介は、不敵な笑みを浮かべて挑発を行う。
「よくも……よくも……俺の番犬をッ! 死ね”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”え”!」
廃ビル全体を揺るがすような咆哮を上げながら、ミュータントは犬の仇を討つべく両腕のガトリング銃を構えた。
そして次の瞬間、轟音と共に無数の弾丸が放たれる。
その弾道は、まるで嵐のように散らばり、周囲の壁や床を粉砕してゆく。
床板が砕け、鉄筋が剥き出しになる中、大介は一瞬も動きを止めることなく、その場を駆け抜けた。
「おいおい、もうちょっと冷静になろうぜ。そんなに弾をばらまいて、あとでお片付けするのは、お前なんだぞ」
軽口を叩きながらも大介は、ガトリングの弾幕を巧みにかわしてゆく。
その動きは俊敏でありながらも無駄がなく、まるで生まれ持った本能のように最適な経路を選んでいた。
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