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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第三章

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第20話 ケルベロス

「ここがラストだな。よう、準備は出来ているのか?」


 一瞬その扉を睨みつけ大介は、肩越しにカナエへと振り返る。


「ええ、もちろんです。終わらせましょう」


 穏やかな口調でカナエは応じ、消音器付きの突撃銃を握り直した。

 その態度は冷静そのものだが、自身の青い瞳の奥には、緊張感が滲んでいる様子。


 やがて大介が静かに扉を押し開けると、中から漏れ出る明るい光が暗闇を裂いた。

 その光源は焚き火である。


 燃え盛る炎が壁や天井に奇妙な影を躍らせ、部屋全体に不気味な雰囲気を与えていた。

 空気は鉄臭さと腐敗した肉の臭いで満ち、胸が詰まるような重苦しさが支配している。


 最上階の部屋は、まるで原始的な戦士たちの王宮のように、装飾されていた。

 壁には人間や動物の骨が組み合わされ、不規則に張り巡らさている。


 天井からは朽ちた角灯や革袋が吊るされ、暗い光と影を複雑に交差させていた。

 中央には大きな焚き火があり、その周囲には骨で作られた、椅子や机が無造作に並んでいる。


 その中心に君臨していたのは、骨で組まれた玉座に悠然と腰掛ける巨体なミュータントだ。

 通常のミュータントよりも遥かに大柄で、筋肉は銅のように隆々としている。


 肌は緑色に腐食した金属のような硬さを持ち、無数の傷痕が、その戦歴を物語るかのようだ。

 両腕にはミニガトリングが装備され、銃口が静かに揺れる度に威圧感が部屋全体に広がる。


「おう……まじかよ。お出迎えが随分と派手だな」


 ガトリングを視界に捉えながら大介は小声で呟いた。


「気を付けてください。あの武装、正面突破は危険過ぎます」


 冷静に忠告を入れるカナエ。

 しかし、このミュータント(ボス)の隣には、放射能の影響を受けて突然変異を起こした、二頭の異形の番犬すらも控えていた。


 その姿は、まるで地獄から這い出てきた、ケルベロスそのものである。

 三つの頭部が、それぞれ異なる方向を向き、鋭い牙を剥きだしにして、唸り声を上げていた。


 体躯は異常なほど筋肉質で、焼けただれた皮膚が剥き出しである。

 鼻腔を大きく広げ、侵入者の臭いを嗅ぎ取ったのか、咆哮を上げながら立ち上がった。


「人間が……この地に……何の用だ?」


 ミュータントのボスは低いながらも、響き渡る声で二人に問い掛ける。


「お前を殺しに来た。悪いな、朽ちた城で王様気取りは今日までだぜ」


 相手の問い掛けを聞き流すかのように、大介は肩を竦めながら、僅かに笑み浮かべながら応じた。

 その軽口にミュータントの目が一瞬光を増し、番犬たちの唸り声が強くなる。


 だがカナエは冷静そのものだ。

 いつも穏やかな表情を崩さない、彼の顔が今だけは怒りに満ちている。


「お前たちのせいで、家畜は荒らされ。罪なき人々が攫われた……」


 一歩前に出てカナエは、ミュータントに向けて、冷たい視線を向けた。


「ここに来るまでに、お前の仲間を全て殺してきた。その証拠を見せてやろう」


 そう言うと彼は、自身のコートの衣嚢に手を入れて、何かを取り出す。

 それは――ミュータントの眼球だ。

 水分を失い乾燥した球体が、いくつもカナエの手の中に収められている。


 その眼光をカナエは、一つずつミュータントの足元へと投げ捨てた。

 眼球が地面に落ちる度に鈍い音を立て、それを目にしたミュータントの表情が僅かに歪む。


「お前……まじかよ……」


 目を見開き、大介は全身に鳥肌が立つ感覚を受け、大きく後退る。


「ミュータントの眼球を、衣嚢に詰めていたとか、正気じゃねえだろ! 気持ち悪いったら、ありゃしねぇ!」


 顔を顰めると彼は、腕で自分の体を抱き締めるようにして震えた。

 ミュータントは、足元に散らばる仲間の眼球を見下ろし、その醜い顔を更に歪める。

 赤く輝く片目が燃えるように輝き、全身の筋肉が怒りにより膨張していく。


「よくも兄弟たちを……俺の家族たちを……ッ!」


 その声は咆哮に近く、焚き火の揺れる炎を掻き消すほどの、怒気に満ちていた。

 骨の椅子から立ち上がると、ミュータントは片足を高く振り上げて、眼球を力強く踏みつぶす。

 熟れた果実が潰れるような、奇妙な音が広がり、床に少量の血の飛沫が散る。


「殺せ! アイツらを!」


 ボスのミュータントが二人を指差して命令を与えると、番犬である二頭の三つ首の犬が低く唸り声を上げた。


 ケルベロスのような、その異形の番犬は鋭い牙を剥き出しにし、地を前脚で蹴る事で威嚇を行う。

 その三つの頭それぞれが、獲物を貪るような目付きで、大介とカナエを睨みつけていた。


「来るぞ!」


 短く叫び大介は即座に突撃銃を構える。一方でカナエも突撃銃を持ち上げ冷静に照準を定めた。


「俺達二人相手に、この犬までもけしかけるか。やる気満々ってことだな」


 皮肉を込めた呟いたが、その目は一瞬たりとも敵の動きを離さない。

 犬たちは低い咆哮と共に、床を強く蹴りながら、一直線に突撃してきた。

 その速度は尋常ではなく、大介とカナエが発砲するまもなく、距離を詰めてくる。


「死になさいッ!」


 叫び声を上げながらカナエは、突撃銃の引き金を引き撃ち続けた。

 銃弾は焚き火の明かりに照らされて閃光を放つが、その弾道を見切るように犬たちは身を捩じらせて回避する。


 その動きは、まるで影のように滑らかで、異様に鋭敏だ。

 

「おい……ちょっ、ちょっと待てよ! なんでこっちばかり狙うんだ!」


 半ば叫びながら大介は連射を試みるが、犬たちは素早く体制を変えると、途端に狙いをカナエに絞り込んでゆく。


「くそっ! それは急すぎるだろ!」


 相手の急な方向転換に、カナエは抗議するように叫びつつも、弾倉を空にする勢いで撃ち続けた。

 しかし犬たちは執拗にカナエを狙い、大介の攻撃には目もくれない。


 その動きは、あらかじめカナエが驚異であると、判断されているかのようだ。

 そして、ついにその瞬間が訪れる。


 一頭がカナエの左腕を、もう一頭が右腕に勢いよく噛みついた。

 鋭い牙が防弾革製の服(ジャケット)を、もろともせず肉に食い込む。

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