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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第三章

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第19話 繁殖行為

「ありがとう……ありがとう……!」

「こんな地獄から助けてくれるなんて……」


 次々と感謝の声が上がり、檻の中の空気が一瞬だけ和らいだ。しかし、そんな場面にも大介は、何処か冷たい態度を崩さない。彼は銃を手に檻を見回し、やや苛立つように口を開いた。


「悪いが、感動の再会は後にしてくれ。ここにいるだけで時間が無駄だ。さっさと済ませるぞ」


 言葉を投げ捨てるように彼は言うと、手にした突撃銃で檻の鍵を撃ち抜く。乾いた銃声が響き、鍵が床に転がり落ちる。檻の扉が重々しく開き、その中に閉じ込められていた人々は、再び自由を得た。


 そして解放された人々の多くは、裸体のまま震えている。それは寒さだけでなく、ミュータントにより受けた恐怖が、全身に染み付いているかのようだ。


 特に若い女性たちは薄汚れた肌と涙の跡を晒しながら、震える手で自分を抱き締めるようにして身を守る。


 その中の一人、艶やかな黒髪を肩口まで垂らした若い女性は、青白い肌に艶めかく汗が滲み、怯えた瞳で周囲を警戒していた。


「下の階は安全です。降りて待機していてください。僕達は更に上の階へと向かい、全てを終わらせてきます」


 穏やかな声でカナエは告げると、近くに居た中年の男性に指示を与える。

 そんな彼の声は冷静でありながらも、どこか人を安心させる響きを持つ。


 そして中年の男性は無言で頷き、他の人々に指で合図を送る。

 大介は両腕を組みながら、それを一歩離れた所から見ていた。


 鼻腔をつく悪臭と、助けられた人々の啜り泣きが混ざり合う中、彼の目は自然と若い女性たちの方に向いている。

 緊張した背中や丸みを帯びた臀部が視界に入り、彼は思わず溜息を吐いた。


「……ったく、この状況で何を考えてんだか」


 大介は小さく呟くと、視線を逸らそうとして、足元の瓦礫を蹴る。

 だが、その横でカナエが若い男性の尻を凝視しているのに気づき、思わず大介は眉間に皴を寄せた。


「うほっ……良いおケツをしていますねぇ」


 穏やかな笑みを崩さないまま、カナエは舌なめずりをして小声で呟く。

 しかし、その言葉を聞いた瞬間、大介の背筋に冷たい感覚が走る。


「おいおい……勘弁してくれよ。こんな地獄みたいな状況で、余計に悪寒がするだろ」


 全身の毛穴が開くような鳥肌と共に彼は、無意識にカナエとの距離を取り顔を引き攣らせた。

 カナエは、その反応を楽しむかのように、微笑むだけである。


「お前……こんな所で変な趣味暴露すんなよ……」


 彼の余裕のある態度に、大介は溜息を吐き捨てつつも、苛立ちを隠すことなく歩き出した。

 カナエは彼の言葉に何も答えず、ただ軽い足取りで彼の後を追う。


 そして二人は互いに無言のまま階段を駆け上がり次々と敵を排除してゆく。

 廃墟ビルの構造は単調ではなく階層ごとに異なる様相を晒しており、場所によっては異様なまでの悪趣味さが漂う光景が広がっていた。


 ある階層に足を踏み入れた瞬間、大介とカナエの鼻をついたのは、これまで以上に強烈な血と腐肉の臭いである。

 そこは、まるで悪夢から引きずり出されたような光景だ。


 無数の骨が床一面に散らばり、壁や天井にも血痕が飛び散る。

 人骨、犬や猫の骨、それに混じり何か分からない異形の骨までもが山積みにされていた。


「うわぁ……やってんな、ここ……」


 肩を竦めて大介は周囲を見渡す。

 皮肉めいた笑みを浮かべつつも、どこか眉間に不快感を漂わせている。


「ここは……どうやら彼らの食料加工場のようですね。ですが今は動いていないようです」


 冷静な目でカナエは周囲を観察し、食肉処理のような設備が稼働していないことを確認した。


「加工場か……まあ、普通に考えて人間も含まれるよな? ったく……頼むから、こいつらの残飯になる前に話しを終わらせようぜ」


 うんざりとしたように大介は、足元の骨を蹴り飛ばしながら息を吐く。

 二人は腐臭が漂う、その室内を慎重に進む。


 奥へ進むにつれて床の粘り気が強くなり、靴底にまとわりつく不快感が増してゆく。

 壁には、かつて人間だったと思われるおのが荒々しく吊るされており、すでに原形を留めていないものも多い。


「想像以上ですね……」


 眉を顰めてカナエが低く呟いた。


「まあ……俺に言わせりゃぁ、地獄絵図そのものだな」


 鼻を摘まみながら大介は、手にした消音器付きの突撃銃を握り直す。

 そして更に階段を駆け上がり次の階層に足を踏み入れると、今度は異様な音が大介の耳に飛び込んできた。


 それはぎこちなく低い声と高い声が混じり合った……なんとも言い難い音である。

 大介が音の発生原に目を向けると、そこにはミュータントたちが何とも醜悪な光景(繫殖行為)を繰り広げていた。


「おいおい……なんだこれはよ。目が腐る処か溶けて落ちるんじゃねぇのか?」


 その場で足を止めて大介は目を逸らす。

 

「このようなことを……。許すわけにはいきませんね」


 目を伏せつつもカナエは素早く武器を構えた。

 

「そりゃあ、ごもっともだが……お前がそんな真面目な顔で言うと逆に笑えるな」


 半ば呆れながらも大介は、容赦なく引き金を引く。

 そしてカナエも彼と同時に引き金を引くと静かな銃声が連続し、繫殖行為に夢中で無防備なミュータントたちは次々と頭部を撃たれて動きを止めた。


「排除完了っと。……さて、次だ次。こんなもん、いつまでも見ていたら正気を失う」


 空の弾倉を交換しながら、大介は深く息を吐き捨てる。

 その後も二人は手際よく、ミュータントたちを排除しながら進み続けた。


 気がつけば既に制圧した階層は、全体の九割に達していたのである。

 激しい戦闘の連続で、二人とも汗と血に塗れながらも、緊張感を保ち続けていた。


 そして大介とカナエは暗い階段を上がりきると、最上階への扉が重々しい存在感を放ちながら目の前に現れる。

 錆びついた鉄製の扉には深い傷跡が無数に刻まれ、まるでこの先に待つ異形の世界を予告しているようだ。

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