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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第三章

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第18話 囚われの人間たち

「お怪我はありませんか? 今は安全です」


 低く落ち着いた声でカナエは問い掛けた。

 女性は震える唇を噛み締めながら、涙で濡れた顔を彼へと向け視線を合わせる。


 長い黒髪が乱れ、額に張り付いていた。

 青ざめた肌が月光の灯かりに照らされ、痩せた肢体は無防備に晒されている。

 細身ながらも曲線的な身体は、何処か痛ましい程の脆さを感じさせるようだ。


「ほ、本当に私は助かったんですね……。あ、ありがとうございます……」


 彼女の声は細く、恐怖と安堵が入り混じる、色を帯びている。

 上半身が曝け出されたまま身を寄せて震える女性に、カナエは自身のコートを脱いで優しく彼女に掛けた。


「どういたしまして。ですが、まだ安心はできません。下の階のミュータントは全て片付けましたが、まだこの建物には危険が潜んでいます。取り急ぎ、僕たちが戻るまで安全な場所で、お待ちください」

「わ、わかりました……」


 彼の言葉に女性は小さく頷くが、その顔には不安の色が濃く残されていた。

 その様子を見た大介は、大袈裟に溜息をつきながらも口を開いた。


「なぁおい、カナエ。お前、少しばかり冷静すぎんだろ。ミュータント殺しの影響で感情が麻痺してんのか? こんな状況で脆弱な女一人に”待っててね”って言うだけで済む訳ねぇだろ。身を守る武器も無しで、この野獣の檻に放置する気か?」


「確かにホロコーストさんの仰る通りです。少しばかり考えが足りなかったようですね、申し訳ない。では、これを持っていてください。万が一の場合、引き金を引くだけで大丈夫です」


 大介の指摘にカナエは、一瞬だけ考え込むように目を伏せると、懐から小型の拳銃を取り出す。それは見るからに女性でも扱いやすいようだが、それなりの威力を持つ。


 そして彼は、その拳銃を丁寧に女性へと手渡した。

「ありがとうございます……」


 震える手で彼女は、拳銃を受け取りながら、感謝の言葉を呟く。

 その声は未だに恐怖を引きずっていたが、それでも彼女の目には微かな決意が宿る。


「……おい、それで解決か? 俺達がミュータントの親玉を片付けている間に、こいつがミュータントに襲われて殺され掛けたら、どうすんだよ?」


 皮肉交じりの言葉を吐き捨てながら、大介は眉を顰めてカナエに問い掛けた。彼が女性の身を案じる理由は偏に、苦労して助けたのに結果的に死なれたら、ただの無駄骨だからである。

 つまり大介は無駄な行為というものを何よりも嫌うのだ。


「安全を考えるのであれば屁に動かず彼女には、この部屋で大人しく待機して頂くしかありません。何故なら僕たちには、ミュータントのボスを一刻も早く倒す必要がありますから。……ホロコーストさん、この状況での最適解を選びましょう」


 カナエの言葉は非常に冷静なものであり、一切の迷いが感じられない。


「……ったく、お前の正論ってのは、時々ムカつくほど正しいな」


 舌打ちを一つ鳴らし、大介は消音器付きの突撃銃を持ち直した。


「……頑張ってください……そして、ありがとうございます……」


 二人のやり取りを見ていた女性だが、やがて大介の方へと向き小さな声で呟く。


「やめてくれ。礼なんて必要ない。俺達はこっちの仕事を片付けるだけだ」


 少しだけ間を置いてから大介は、片手を振りながら返した。そして女性の不安げな顔を背に、大介とカナエは部屋を出ると、再び薄暗い廊下を突き進む。


 廊下を突き進んでゆく二人は、更に階上を目指して足を走らせた。

 歩く度に足元で瓦礫が不気味な音を立てるが、二人は細心の注意を払いながら進む。


「上の階に進む度に空気が、ますます腐っていやがる。一体どんな地獄が待っているんだが」


 独り言を吐き捨てるように大介は言い放つ。彼の声には倦怠感と皮肉が混じりながらも、その眼光は冷静に周囲を見張っている。銃を握る手は、微動だにしない、確かな力が宿るようだ。


「気を緩めないでください。まだミュータントが何処かに、潜んでいる可能性があります」


 穏やかな声でカナエは諭すように答える。その口調には揺るぎない落ち着きがあり、彼の青い瞳は暗視装置五指に、前方をしっかりと捉えていた。


 そして二人が辿り着いた次の階層には広い空間が待っている。そこには鉄製の檻が幾つも並んでおり、無数の人間たちが、その中に閉じ込められているのだ。


 檻の中には老若男女が混在しており、全員が意気消沈の表情を浮かべ、肌は埃と血で汚れている。

 衣服を剥ぎ取られた者も多く、その多くは丸裸の状態で身を寄せ合い、寒さと恐怖に震えていた。

「これは……」


 カナエが眉を顰める。その視線は檻の中で怯える人々の姿に釘付け状態である。


「見ろよ、この地獄絵図。まるで肉屋の倉庫だな」


 吐き捨てるように、大介は言い放つ。彼は周囲を警戒しながら、檻の一つに近づいた。

 そこに収容されていたのは、十代後半と思われる少女と、年老いた老夫婦である。

 少女は震える手で、自分の体を隠しながら、怯えた瞳で彼を見上げた。


「皆さん、落ち着いてください。僕は平和特区から派遣されたリーダーの加藤カナエです。貴方方を助けに来ました。安心してください」


 深呼吸をしてからカナエは、檻の中の人々に向き直る。その言葉を聞いた瞬間、檻の中に居た人々の表情が変化した。


 恐怖に歪んでいた顔が、徐々に安堵の色を帯び、次第に涙が溢れ始める。老人たちは震える声で感謝の言葉を口にして、若い女性たちは顔を覆い嗚咽を鳴らした。

 檻の中で抱き合う親子の姿も見受けられる。

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