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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第三章

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第16話 ミュータント狩り

「五キロって簡単に言うけどな……夜中に泥道を歩きながら五キロって、結構な地獄だぞ」


 愚痴を零しつつも大介は、足を止めることなく前へと突き進む。

 ――そして汗水垂らしながら泥の道を越えると、大介の視界には廃墟街の影が映り始めた。


 朽ち果てたビル群は闇の中に黒いシルエットが浮かび上がらせ、その中には無数の窓が口を開けているように見える。


 まるで何かを訴えるかのような不気味な光景に大介は一瞬だけ立ち止まった。


「おい、この臭い、なにかの罰ゲームか? 俺のナイスな鼻が、そろそろ仕事を放棄しそうなんだが」


 風に乗せられて漂う刺激臭を、不覚にも吸い込んでしまうと、大介は鼻を抑えつつ顔を顰める。


「覚悟しておいた方がいい。これからもっと醜い光景と臭いが漂っている」


 冷静な口調で返しカナエは、首から下げた双眼鏡を手に取った。

 彼の鮮やかなカフェオレ色の髪は夜風に揺れ、その静かな青い瞳は双眼鏡越しに、一棟の廃墟ビルを見据えている。


 大介も双眼鏡を取り出して廃墟街を見渡す。

 すると廃墟街の一角では、全身が緑色で筋骨隆々とした異形の巨人、ミュータントたちが群れを成して動き回っていた。


 かつては人間であったであろう姿は、もはや人間性の欠片も残していない。

 そもそもミュータントとは、旧世界の生物兵器計画の副産物として生まれた人類の異形。


 元は人間だが戦争中に投下された『強制進化因子(FEV)』と、放射性物質が複合的に作用した結果、遺伝子が異常進化を遂げて怪物と化した。


 ミュータントたちは自らを『新たな人類完成系』と信じて疑わず、旧人類を弱者として蔑み、徹底的に敵視している。


 平均で三メートルを超える巨体を誇り、皮膚は厚く硬化し色は緑や灰褐色に変色している。

 筋肉は異常な程に肥大化し、骨格さえも変形しており、人間の頃の面影は殆ど残されていない。


 衣服や防具は繋ぎわ合わせただけの粗野なもので、鉄板や錆びた鎧を身に纏い武器としては、旧世界の火器や巨大な棍棒を振るう。


「なあ、カナエ。アイツらが元人間って言われて素直に信じられるか?」


 双眼鏡越しにミュータントを眺めながら大介は些細な質問を投げる。


「素直に……と言われると難しいかな。でも、元人間であることは紛れもない事実。過度な薬物投与や放射能による突然変異で、あんな姿に……」

「まぁまぁ、その辺りの悲惨な過去は、どうだっていい。そんな事よりも今は、アイツらを殺すことだけを考えようぜ」


 カナエの話を遮るようにして、大介は上から声を被せて一方的に話し始めた。

 そして二人は周囲の偵察を終えた後、ミュータントのアジトである廃墟ビルへと向かう。


 足元の瓦礫を踏み締める音すら抑えながら影に紛れて進む。

 廃墟ビルに近づくほど腐敗した肉や動物の死体、そして不衛生な排泄物が大介の視界に入る。

 天井から吊るされた肉袋からは、腐った血液が雨のように滴り落ち異臭を放つ。


「歓迎されている気がしねぇな。なんだよこれ、肉屋の悪夢か?」


 不満と愚痴を吐き捨てるように大介は呟いた。


「油断しないでください。ここからが本番ですよ」


 暗視装置を目元に装備して、カナエは消音器付きの突撃銃を構える。

 大介は、そのまま前に進みつつ意識を集中させている時にのみ使える、グール特有の夜間視力を生かして周囲を見渡す。


 暗闇の中でも、その目は光を捉え、小さな動きも見逃さない。

 廃墟ビルの一階に足を踏み入れると、床は粘ついており腐敗した液体が滲み出ている。


 カナエが指で合図を送り、二人は慎重に前進した。

 だが突如、物音が大介の耳に届く。


 目の前には警備のミュータントが二体。

 巨体な体躯を揺らしながら廃墟内を巡回している。


「お楽しみタイムだな。静かに行こうぜ」


 口角を上げると大介は、消音器付きの突撃銃を握り締めた。

 そしてカナエと息を合わせてミュータント達の背後に忍び寄る。


 その数秒後、銃声が小さく響き、一体目が静かに崩れ落ちた。

 もう一体が反応する間もなく、カナエが正確な射撃で頭部を貫く。

 

「よし、次だ」


 小声で大介が告げて、更に奥へと進む。

 二人はビル内を進みながら同じように、警備のミュータントや雑魚寝している個体を次々と仕留めた。


 狭い廊下や崩れた部屋を抜ける度に、死体と血の跡が増えて行く。

 ミュータント達の寝床には食い荒らされた動物や、人間の骨が散乱し異様な光景が広がる。


「これが本当に、元人間だったってか? 死んだ後でも胃がもたれそうだぜ」

「感傷に浸る時間はないですよ。今はミュータントを根絶やしにする事が先決です」


 眉を顰めつつ言う大介に対して、カナエは冷たい眼差しを晒し、低い声で返す。


「……ったく、お前の言い分は冷静すぎて逆に怖ぇよ」


 ぼやきつつも大介は、手際よく先へと進む。

 そんな二人の制圧は効率的だ。一階から徐々に階を上がり、最上階を目指す。

 その過程で時折現れる大型のミュータントや、激しい抵抗も二人の緻密な連携で押し切っていく。

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