第11話 平和守護隊
「おいおい、こりゃぁ一体どういう事だ?」
筋骨隆々な中年の男が周囲を見渡して困惑しつつも、視線を大介に向けながら疑問を口にする。
「おい、ちょっと待て! 見ろよ! リーダーが殺されてんぞ!」
一人の細身の若い女性が床に倒れて、微動だにしないジェシカを発見すると、甲高い声を響かせながら指をさす。
「てめぇら……よくも俺達のリーダーを! ぜってぇ、ぶっ殺してやる!」
低身長の若い男が握り拳を固めながら、全身を震わせて仲間思いな事を呟くと、瞬時に粗末な銃を構えて銃口を大介の顔に向けた。
「へっ、グールのおっさんに価値はねぇ。おい、野郎共! あの白髪の女は出来るだけ生かしとけ! 俺達の便器のしてやるぜ! ひゃひゃひゃひゃっ」
目の焦点が合わない白髪の生えた年配の男が口を開くと、彼はアンナを捕らえて性的な玩具にしたいようで、下品な笑い声を上げて二本の手斧を両手に構える。
「ちっ、気持ち悪いクソジジイ。……ねぇ、グールさん。今から私が、これから成す事を黙って何もせず、ただ見ててください」
年配の男が口にした言葉を聞いて、アンナの眉が僅かに動くと口からは、強気の言葉が漏れ出ていた。
その手にはトンプソンが強固に握られており彼女の目には躊躇いの色がない。
「おっと、随分と怖い顔だな。大丈夫なのか?」
軽口を叩きつつも大介は、彼女の意思を尊重するように、一歩後ろへと下がる。
――そして次の瞬間、アンナが動いた。
彼女は失われた指を庇うように、器用に中指で引き金を引き、連続した銃撃音を室内に鳴り渡らせる。
その突然の発砲に、対応が遅れた筋骨隆々な男は、喉を押さえながら後ろへ倒れ込んだ。
「次は誰ですか? 誰が……あの世に行きたいんですか? あはっ!」
アンナの口元に狂気的な笑みが浮かぶ。
その笑みは依然の世間知らずの軽いものとは違う。
狂気と嗜虐心が滲み出た、戦いの飢えた表情だ。
彼女は絶えず引き金を引き、室内を埋め尽くす敵に反撃の隙を与えることなく、次々と蹂躙してゆく。
「……へっ、この世界に漸く順応したようだな。ネオテックスガール」
アンナの行動を一歩引いた場所から見ていた大介は静かに呟き苦笑した。
そしてトンプソンの弾倉が空になる頃には、室内の床は再び血の池状態と化して、ヴォイダーたちの無惨な肉塊が浮かび散乱している。
「……あぁ~、すっきりした! こういうのも、たまには必要ですね! 心晴れ晴れですよ、グールさん!」
空のトンプソンを適当な場所に投げ捨てると、アンナは憑き物が取れたかのように返り血まみれの状態で、向日葵のように眩い笑みを彼に向けたが、その瞳は依然と狩人のように鋭い光を宿していた。
「あっそう。じゃあ、そろそろ行くか。旧東京が俺達を待っているぜ」
肩を竦めながら反応すると大介は、肩に下げた人肉ジャーキーを揺らすように歩き始める。
それに対してアンナは小さく頷き、破損した衣服を何とか無理やり着て、彼の後に続くように室内を出てゆく。
――――そしてヴォイダーと揉めてから、瞬く間に数日が経過した。
荒廃した世界であろうとも、昼間の空には太陽が、その存在感を示している。
重い鉛色の雲が所々で割れ、太陽光が鋭い筋を描きながら地上に差し込む。
その光景は美しいというよりも寧ろ儚いもので、この破壊し尽くされた大地を救うには余りにも頼りない光だ。
大介はアンナの前を堂々と歩き、足元の瓦礫を踏み締めて進んでゆく。
彼の顔は何時も通りの無表情であり、態度も何処か軽いものだ。
一方でアンナは、あれだけ破損していた衣服を、綺麗に縫い合わせて修復した物を着ており、無邪気な笑みを浮かべながら欠損した自分の指を軽く振り、あまり気にしていない様子を晒す。
「ねぇねぇ、グールさん。この指、本当に治るのかな?」
僅かに気の抜けた様子の声を出してアンナは問い掛けた。
「治すんだよ。じゃねぇと、なにか起きた時に、不便だろうが」
その声は低く、大介の言葉に迷いの類は、一切感じられない。
そんな、やり取りをしながら街道を進む二人の目の前には、荒廃した街並みのみが広がる。
かつては賑わいを見せていたであろう建物が、今までは見る影もなく崩れ落ち瓦礫と化していた。
壁には落書きが描かれ、赤錆びた鉄の扉が風に軋む音を立てている。
その中には今も、生き延びようとしている人々の姿が、ちらほらと見えた。
一軒の崩れた商店の中からは、汚い下着が諸見えの雑巾のような服を着た、細身の女性が目を光らせて、こちらの様子を伺う光景を大介は見逃さない。
その彼女の目は、生き残る為に他人を犠牲にする覚悟を秘めたものであり、この弱肉強食の世界では珍しくないものだ。
そして大介とアンナは、他者とのコミュニケーションを一切取らず、只管に足を進めて歩き続ける。
二人は小道を抜けて瓦礫の山を超えると、放置されて朽ち果てた車の大群の横を通りながら足を進めてゆく。
そうして数時間が経過すると、大介はアンナの指を治す為に、”平和特区”と呼ばれる争いが御法度の街に辿り着いた。
その街の入り口には、高さ五メートルほどの、鉄製の扉が聳え立つ。
錆びつきながらも堅固な作りを保ち、門の上には手製の見張り台が設置されている。
見張り台の上に立つ数人の武装した中年の男たちが、大介たちを睨むように見下ろしていた。
そして街を守護している彼らは、”平和守護隊”と呼ばれる隊員たちの一人である。
平和守護隊とは、あつて戦闘と疫病、そしてミュータントによる跳梁により荒廃した大地に、平和の旗を掲げて誕生した組織だ。
彼ら彼女らは、無秩序と暴力に抗う為に集いし、義勇の人々である。
全員が共通して腕に抱く信念はただひとつ――”助けを求める声を決して見捨てない”だ。
彼ら彼女らの活動は多岐に渡る。
平和特区の設立と維持、集落や避難民への物資補給、野盗やミュータントからの防衛戦、時には橋や井戸の修復など。
その姿は兵士でありながら、同時に農夫や職人でもある。
――だが、彼ら彼女らは完璧な戦士ではない。
しかし「見捨てない』という一点において、彼ら彼女らは揺るぎなく強靭である。
その姿勢こそが人々から『最後の砦』と呼ばれる所以だ。
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