第10話 人肉ジャーキーの作り方
「……あっ、グールさん……。っ”! あ”あ”あ”あ”あ”っ”! 私の指が! 指があああああッ!」
先程まで気絶していた彼女が目を覚ますと、拘束から解放されると同時に指を失くしたという、耐え難い現実に精神が襲われたようで、震える手を見せながら大粒の涙を流した。
人差し指が失われた両手は無惨であり、切断面には赤黒い血の塊が出来ていて、自然と止血されているが非常に痛々しい状態。
「それくらいで泣くな。命拾いしたんだから、寧ろラッキーだったろ?」
軽く肩を竦めると大介は、彼女の手を雑に掴んで傷口を確認する。
「あー、こりゃぁ……放っといたら腐るな。ちっ、しゃぁねえ。応急処置ぐらいはしといてやるか」
そう言うと彼は、自身の腕を縫合した際に使用した、医療箱を懐から取り出した。
そこからアルコールが満たされた小瓶と、黄ばんだ布を手に取ると、一切の躊躇いなくアンナの傷口へと押し当てる。
「い”っ”……痛いっ! やめて!」
「これくらい我慢しろ。俺なんか自分で腕を繋ぎ直したんだからな」
応急処置を進める大介の手際は、何処か慣れているようで乱暴だ。
傷口を弄る度にアンナの顔が苦痛で歪み、重たくも鈍い悲鳴が口から漏れてゆく。
そして数分が経過して処置を終えると大介は、全身が脂汗まみれで過呼吸気味の彼女を、椅子に座らせたまま立ち上がると、改めて部屋の全体を見回した。
「……さて、次は非常食の確保だな。腐敗が進む前に手際よく済まさねぇと」
そう言い放つと大介は鼻歌を交えながら腕を捲り上げ、汚れたナイフを片手に床に転がるヴォイダーたちの死体へと歩み寄る。
「非常食……? ま、まさか……」
恐る恐るアンナは口を開いた。
その声には不安と疑念が混じる。
「その”まさか”だ。女はな、脂身が多くて食えたもんじゃない。だから、こいつらの方が役に立つってもんだ」
小さく肩を竦めて大介は、ナイフの柄を握り締めて屈み込むと、最も筋肉質な男の死体を掴む。
そんな彼の行動にアンナは、顔を蒼白に変えて絶句した。
震える手で止血用の布を押さえながら、なんとか目を逸らそうとするが、音だけは避けようがない様子。肉を裂く鋭い音、骨が折れる鈍い響き、それらが広場に響き渡る中、大介は飄々とした態度を崩さない。
「ふむ、この肉の質感は悪くないな。こいつぁ良いジャーキーになるぞ」
そう言いながら作業を進める大介の手際は驚くほど鮮やかである。
死体から余計な服や装飾を剥ぎ取り、筋肉のついた部位を丁寧に切り出してゆく。
その一連の動きに無駄はなく、まるで長年の技術を誇示するかのようだ。
解体が進むにつれて、空気中に漂う鉄臭さが更に濃くなる。
「グールさん、そんなこと……なんで本気でやるんですか……?」
声を震わせながら問うアンナの目には、懇願にも似た光が宿されていた。
「本気も何も、これが生きるっつーことだ。お前も分かるだろ? ここじゃ理屈よりも胃袋がものを言うんだぜ」
軽い口笛を吹きながら大介は、彼女の問い掛けに答えながら、淡々と作業を続ける。
その言葉を聞いてアンナは言葉を詰まらせ拳を握り締めるが、患部が痛むのか力が徐々に抜けていく様子を晒す。
「さて、これで一晩乾かせば立派な人肉ジャーキーの完成だ」
満足そうに頷きながら大介は生肉の香りを嗅いで微笑むと、朝の紐で肉を幾つか縛り上げ、それらを自身の肩に下げた。
そして、やるべきことを終えた大介はアンナを連れて移動を開始しようとするが、その瞬間――突如として重たい金属の靴底がコンクリートを叩く音が無数に聞こえ始める。
だが、その騒々しい音と共に激しい怒声や、遠くで何かが爆発したような鈍い音も同時に響いた。
それらの騒音が意味する事を大介は思案すると答えは一つであり、それはヴォイダーたちが異変を察知して動き始めた証拠である。
「グールさん……。どうやら他の人たちが、私たちを殺しに来るみたいですよ。どうするんですか……?」
外部から聞こえる音の存在と意味に、アンナも気づいているようで、血の抜けた青白い顔を晒しながら問う。
「どうするも、なにもねぇさ。お出迎えというものを、してやるまでさ。お前も指を失った分、やり返せばいい。この世界は、それぐらい寛大だ」
そう言いながら静かに立ち上がると大介は戦闘準備を整える為に、マグナムピストルを拳銃嚢から取り出して空薬莢を回転弾倉から排出し、新たな弾を装填してダガーナイフすらも片手に握り締めた。
そしてアンナは指を奪われた事に相当な怒りを抱えているようで、椅子から立つと床に落ちていたジェシカのトンプソンを拾い上げて、失われた指を庇いつつ器用に構えて彼の隣に立ち戦闘の意志を見せる。
やがて騒々しい足音と怒鳴り声が大介たちの前に迫り、次々に狭い室内にヴォイダーたちが雪崩れ込むように乱入してきた。
その中には体格の良い男や、傷だらけの顔をした女などが混ざる。
彼ら彼女らの目の前には憎悪と狂気が宿り、手には錆びたナイフや粗末な銃が握られていた。
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