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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第三章

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第4話 半殺しに合うグールさん

「大人しくしていなさい。逃げても無駄よ、ふふっ」


 目を細めながら彼女は、女帝のような威圧的な雰囲気を晒す。

 そしてアンナの目に、より一層の恐怖の色が浮かぶ。


「おいおい、俺を殴るのは構わねぇが、そいつには手を出すな。この馬鹿(アンナ)は人一倍気が弱いんだ。ほら、俺様みたいにタフじゃないからよ」


 霞む視界でアンナの様子を見て、大介は血の味しかしない口を開いた。

 

「ふぅん、まだ喋れる元気があるのね」


 静かに彼へと視線を向けると、ジェシカは軽く指を鳴らす。

 するとヴォイダーの一人が命令を受けた兵士のように大きく頷き、手にしていた突撃銃を持ち直して大きく振りかぶると、大介の後頭部に目掛けて振り下ろし強打させた。


「か”っ”……!」


 大介の体が再び地面に崩れ落ちる。


「やめて――ッ! グールさんを殺さないで!」


 彼の痛々しい姿を見てアンナは声を上げた。

 その叫びは空気を震わせ、一瞬だけ場の空気を静止させる。

 だが、その静寂はジェシカの冷たい笑みにより打ち破られた。


「……そうね、もうそこのヒーロー気取りに用はないわ。貴方(部下)たち、そこのグールを適当な場所に破棄しておきなさい。アタシはこれから、このネオテックスガールちゃんと、ちょこっと過激なお茶会(尋問)をしてくるわ」


 興味を喪失したかのように地に伏せる大介から視線を外すと、ジェシカは両手を軽く叩いて命令を下すが矢継ぎ早に意識をアンナへと向け表情を緩める。


 彼女の口元に浮かぶ冷笑と、その瞳に宿る狂気がアンナを精神的に縛り、肉体を硬直させた。

 そしてジェシカは彼女の肩に腕を乗せて組む事で逃げ場を封じると、数人の部下を連れて歓楽街の道を歩き始め暗い路地の中へと姿を消す。


 ――それから数時間が瞬く間に経過すると、鋭い光がぼんやりと差し込む中、大介は冷たい地面の感触と腐臭で目を覚ました。


「っ……ここは何処だ?」


 荒んだ声が彼の口から放たれる。

 大介が周囲を見渡すと、ここは歓楽街の裏手に位置する、ゴミ捨て場である事が分かった。


 錆びた鉄屑や破れたポスター、果ては使用済みのコンドームや整理品など、液体が滴るゴミが無造作に積み上げられている。


 彼が視線を上げると、細い路地の先に見えるネオンの残光が揺れていた。

 空気は何処か湿り気を帯びて重く、遠くから泥酔した男達の笑い声や、吐瀉音が微かに聞こえる。


「ったく……最悪だな」


 山のように積まれたゴミ溜めに埋もれた状態で愚痴を吐き捨てながら、ゆっくりと身体を起こすと大介は頭や肩に乗せられたままの、コンドームや生理用品のゴミたちを手で払い除けた。


「くそっ……。一体誰が俺を、こんな場所に送り込みやがった……ぜってぇ殺してやる……」


 その場に立ち意識が段々と鮮明と化すと、鈍い痛みが後頭部を襲い彼は思わず顔を顰める。

 暫くして痛みが治まると大介はコートの裾に染み付いた泥の存在に気がつき、手で払い落そうとするも乾ききらないぬかるみが邪魔をして上手くいかない。


 数分の格闘の末、コートの染みは気にしない事にして諦めると、彼は適度に悪態をつきながら散らばるゴミを掻き分けて、この環境衛生が最悪なゴミ溜めから脱出しようとした。


 しかしその瞬間、大介の右手がゴミ箱の中で特徴的な何かに触れる。

 それが一体なにかと考える間もなく、彼は反射的に掴みゴミ溜めから引き抜いた。

 そう、大介がゴミ溜めの中から取り出したのは、薄汚れた煙草の吸殻である。


「へっ、神様ってのも案外、気が利くじゃねえか」


 苦笑しながらも彼は吸殻を新品の煙草のように持ち、懐からライターを取り出して火を点けた。

 細く上がる煙を深く吸い込み、ゆっくりと歩き出す。


「……こんなところでも、一服の価値は変わらねぇな」


 そう言うと大介は暫く、その場に腰を下ろして頭の中を整理し始めた。

 鮮明に蘇る記憶としては数時間前の出来事、ヴォイダーという野蛮な集団に蹂躙されたアンナを連れ去られたという事実。


「ちっ、あの馬鹿(アンナ)……」


 彼女の名前を呟いた瞬間、彼は自身の胸を置くがざわつくと同時に、記憶に残るジェシカの最後の言葉を思い出し、最悪の予感が頭をよぎる。


 ヴォイダーという非道の連中の事を考えればこそ、拉致されているアンナの身が危険であることは明確だ。


「俺の仕事を邪魔する奴は、誰であれ絶対に許さねぇ。例え全知全能の神であろうとな。……へっ、このツケは高くつくぜ」


 一服を早々に終えると煙草を地面に投げ捨て、コートの襟を正し大介はアンナを探す為に行動を開始する。


 今現在の歓楽街の空気は湿気含み、どこか薄暗い雰囲気を纏う。

 時刻は既に日が沈み掛けている夕方頃。


 無数のネオンが至る所で輝き、赤や青の光が小さく左右に揺れている。

 軒先には歯で衣装を縫うホステスや、通りを見張るヴォイダーたちが、ちらほらと見受けられた。


 建物の外壁には古びた看板が所狭しと掲げられているが、その多くは片方の文字が欠け何を意味するか判断がつかないものばかりである。


 通りの至る所に置かれたゴミ袋や、錆びたドラム缶からは強烈な異臭が漂う。

 大介は路地を抜けながら周囲に目を配る。

 

 アンナが連れて行かれた先を探し出すには、まず手が掛かりを見つけなければならない。

 だがその時、運よく通りの角に立つ、一人の男の姿が彼の視界に入る。


 その男は肩に手製(ジャンク)の銃を掛け、胡散臭い笑みを浮かべながら、通行人に目を光らせていた。

 大介は慎重に距離を詰め、衣嚢に手を入れながら、旅人を装い彼に声を掛けた。


「おい、兄ちゃん。ちょっと道を教えてくれねぇか?」

「……誰だ、お前? ここはただの観光地じゃねぇぞ」


 男は警戒するように眉を顰めている。


「観光? はっ、そいつは良い冗談だ。……それよりも俺は、桜井ジェシカって女に用があってな。心当たりは?」


 軽く肩を竦めながら大介は、無防備を装う表情を浮かべた。

 すると桜井ジェシカという名前を聞いた瞬間、男の顔が僅かに強張る。

 だが、それを悟られまいとするかのように、すぐさま彼の表情は不愛想な笑みに戻った。

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