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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第三章

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第2話 ヴォイダーの女リーダー現る

「は、はい! わかりました! 静かにします!」


 大きく頷くとアンナは両手を、自身の口に押し当てる仕草をした。

 しかし何処か芝居がかった、その動きに大介は眉を顰めつつも苦笑する。


「……次に奴らの縄張りには、サプライズ感覚で罠が張り巡らされている。地面だけじゃなく、建物の中にもな。まあ、見た目だけじゃ分からない事もある。だから俺が歩く場所を、しっかりとついて来い」

「はい! グールさんの後ろに、ぴったりと付いて歩きます!」


 軽く片手を挙げて、アンナは敬礼の仕草を披露した。


「ふざけている暇はないぞ、ったく。……それと奴らに目を付けられたら、逃げる事を第一に考えて動け。殺し合いになれば長引くうえに色々と面倒だからな」

「……わ、わかりました」


 一瞬、戸惑うように彼を見つめたが、すぐに真剣な表情に変わりアンナは小さく頷く。

 そして大介は注意事項を伝え終えると、止めていた足を二人は動かす。

 

 アンナも、その後を追うように歩き始めた。

 ――そうして二人は暫く足を進めて、廃ビル群を抜けた先で、ヴォイダーたちの縄張り(歓楽街)へと足を踏み入れる。


 そこは地図上では旧長野県、旧下伊那郡に位置する場所だ。

 その歓楽街は、まるで別世界のように煌めいている。


 廃墟に囲まれた都市の中で、この一角だけは過剰なまでの光と音に満ちているのだ。

 ネオン菅は赤や紫、青や緑という毒々しい色を放ち、壁に取り付けられている電飾は点滅を繰り返している。


 舗道は酒と吐瀉物、安物の香水が混在する臭いに満ち、空気そのものが濃厚で湿り気を帯びていた。

 人の声、音楽、喧騒の怒号、女の笑い声が入り混じり、雑多で混沌とした喧騒が絶え間なく続いている。


 通りには酔いつぶれた中年の男が壁にもたれ、腕を引く娼婦が媚びるような視線を晒す。

 彼女らは胸元を大きく開いたドレスや、体の線を強調する衣装を身に纏い、艶やかに光を反射する化粧で顔を飾り立てていた。


 その瞳には虚無と計算が入り混じり、甘やかな笑みを浮かべながらも、客の懐を見抜く冷ややかさを失ってはいない。


 さらに路地の奥では荒れ果てた装備を身に付けたヴォイダーたちが煙草を吹かし鋭い目で往来を監視している。


 建物は、どれもが廃墟を再利用して使われているようで、外壁が剥がれ落ち崩れかけているが、入り口には煌々とした看板が掲げられ、扉を開ければ赤い絨毯が敷かれていた。


 内部からは甘い香水と煙草の匂いが漏れ、時折男女の嬌声が響き聞こえる。

 人々は、そんな猥雑な雰囲気に引き寄せられるように行き交い、お金と欲望と暴力が渦巻く光景が広がるようだ。


 歓楽街全体が一つの巨大な獣のように蠢き、訪れる者を飲み込み、磨り減らし、そして吐き出していく。


 この街は生きる為の理性も死への恐怖も、全て忘れさせる退廃の園そのものだ。

 しかし二人が歓楽街に足を踏み入れて数分が経過すると、何かを暗示するかのように先程まで晴れていた空は、途端に黒く分厚い雲に覆われ僅かに射す光も地上に届かず霧散している。


 唐突に吹き荒れる風は肌を刺すように冷たく、電飾が派手に施された街を抜ける度に、建物の間からは哀れな音が鳴り響く。


 湿り気を帯びた土の匂いが漂い、遠くで雷鳴が小さく響いていた。

 アンナは肌寒いのかネオテックススーツを着直すが、その個性的なスーツのデザインは、この街では目立ちすぎる。


「グールさん……。ここを通るのって、本当に大丈夫なんでしょうか……。なんか橋の上の出来事を思い出します……」


 歓楽街を警戒しながら歩くアンナは小声で問い掛けるが、その口調には明らかに不安の色が滲む。

 

「大丈夫かどうかで言えば大丈夫じゃねえ、まったくな。だがこの街を避けるとなると、目的地まで随分と遠回りになる。それは普通にめんどくせぇ。……あと馬鹿みてぇに周りを見るんじゃねぇ。こういう時は敢えて堂々と歩いていた方がマシだ」


 低く抑え気味の声で大介は応じた。


「……でも、どうしてこんなに荒れた場所が好きなんでしょうね。普通はもっと綺麗な場所に住みたがるものじゃないですか?」


 頭を傾けながらアンナは軽い口調で呟く。


「それが普通の人間ならな。ヴォイダーは違う。アイツらにとって、この荒廃こそが生きる理由なんだ」


 歓楽街に住む住民たちから、奇怪な視線を多く向けられつつも、大介は彼女の単純な疑問に答えた。

 しかし、そんなやり取りをしていると前方から、不気味な笑い声が聞こえてくる。


 それは徐々に近づき数人分の足音が、瓦礫や地面を踏み締める音と共に響いた。

 二人が息を潜める間もなく、電飾まみれの眩い歓楽街の奥から現れたのは、一人の若い女性を先頭にした集団である。


 彼女は堂々と歩みを進め、その存在感だけで周囲の空気を支配していた。

 その女性は大介の記憶が正しければ、この地区のヴォイダーを束ねる、リーダー的存在の”桜井ジェシカ”である。


 彼女は身長が百七十ほどで外見的な年齢は二十五歳ぐらいで、その存在感は一目見ただけで恐怖と魅惑を同時に抱かせた。


 艶やかな赤みを帯びたストレートのロングヘアは腰まで届き、その毛先は不自然に整えられている。

 細部まで手入れされた髪は、血に染まるかのような輝きを放ち、風に揺れる度にジェシカの残虐さと、艶めかしさを強調するようだ。


 瞳は金に近いアンバーで、まるで標的を選定する冷徹な、スナイパーのような視線を放つ。

 鼻筋は通っており口元はしなやかで、唇の形が非常に整えられている。


 ジェシカの身体は女優のようにスリムで引き締められているが、その中でも特に目を引くのは脚の線だ。


 足元に至るまで完璧に鍛えられた筋肉が隠されているが、服装の選択により必要以上の露出をさせない。


 この慎ましさが逆に彼女の色気を倍増させる要因ともなる。

 そして今現在、ジェシカの装いは、機能性と官能性を両立させたもの。


 軍服を基調とした黒色のロングコートを肩に羽織り、その下には肌に密着したレザーの襯衣を着用している。


 襯衣の全面はジッパーで閉じられているが、意図的に胸元を少しだけ開け、控えめながらも誘惑的な印象を与えた。


 下半身にはスリムフィットの黒色のレザーパンツを履き、動き易さを重視しつつも彼女の脚の美しさを最大限に引き立てている。


 膝上までのタクティカルブーツには、細やかな装飾や擦れた痕が見られ、それがジェシカが戦い抜いてきた年月を物語るかのようだ。


 腰には拳銃嚢が二つ、両側にトンプソン・サブマシンが収められている。

 そのトンプソンの銃身やフレームには血のように赤い装飾が施され、無数の傷やへこみが、その銃がどれだけの命を奪ったかを物語るかのようだ。


 そして彼女の首元には、自身の拷問趣味を象徴するかのように、風変わりなチョーカーが巻かれている。 


 一見して、そのチョーカーは単なるアクセサリーではないようで、相手を拘束する為の細い金属チェーンが仕込まれている特殊仕様のようだ。

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