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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第三章

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第1話 ヴォイダーの縄張り

 東の空が薄紅色に染まり、夜の帳が静かに引かれてゆく。

 森の中で点在していた影は、次第に明るみを増す陽光により、その輪郭を顕わにし始めた。


 小鳥たちの囀りが木々の間を飛び交い、夜を耐え忍んだ大地に新たな息吹をもたらしている。

 大介とアンナは、その朝を迎えた。


 夜の戦闘と、それに伴う恐怖は未だに二人の記憶に鮮明に残るが、自然の美しさが一瞬だけ彼らに安らぎを与えている。


 アンナは森の小道に膝をつき、小さな炎の残り火で、金属製のマグカップを温めていた。

 その蒸気の立ち昇る様子は、彼女の顔をほんのりと赤らめ、優美な印象を引き立てる。


「ふぁぁ……生きているのが、もう奇跡って感じだな」


 表面が荒い木の幹に背中を預け、頭上を通り過ぎる小鳥を、ぼんやりと大介は眺めていた。

 彼の顔には深い疲労が刻まれ、眉間の皴が取り払えない。

 しかし、その口元には微かな笑みが浮かんでいる。


 そう粒きながら、大介は軽く自分の頬を叩いて、なんとか意識を保とうとした。

 一方でアンナは焚き火の近くに屈み込んだまま、水が注がれて温められているマグカップを眺めている。


 彼女の状態は一見して落ち着いてはいるものの、その表情には疲労と不安の色が滲んでいた。

 昨日の戦闘で傷んだ襯衣の袖から覗く白い腕には、いくつもの傷痕がつけられている。

 髪は夜露の影響で湿り気を帯び、陽光に照らされて艶やかな光を放つ。


「本当に余裕がありますね……。とても死に掛けた人の台詞とは思えないですよ」


 冷ややかに言い放ちながらも、アンナの目は何処か安堵の色を浮かべている。


「おいおい、ちょっと待て。俺だって余裕はねぇよ。柄にもなく必死って奴だぜ」


 彼女の言葉に顔を顰めつつも、大介は半分だけ笑い、残りは真剣な口調で言い放つ。

 ――そのあと二人は身支度を簡単に済ませると朝食の代わりに、冷え切って味気のない非常食(シリアルバー)を口に押し込み再び旅の準備を整えた。


 アンナは鞄を肩に掛け、すらりとした脚で木々の間を進み始める。

 だが、そんな軽やかな動きの中にも、緊張が感じられるようだ。


 陽光が差し込む度に彼女の襯衣から覗く肌が微かに輝いて見え、昨夜の疲れを隠し切れないながらも、その姿は艶めかしさを失わない。


「おいおい、アンナ。その歩みは一体なんだ? そのうち街灯のポールにでも絡みついて、踊り出すんじゃねぇよな? どっかのモデルみたいに見えるぞ」


 少し離れた位置から、大介は彼女の姿を見て口笛を吹いた。


「……本当に余裕がありますね。まあ、そんな変なことを言ってると、また理性を失い掛けた時に、助けてあげませんけどね!」


 彼の冗談にアンナは肩越しに冷ややかな視線を投げるが、その言葉には少しだけ本気の部分が混じる様子。


「へっ、冗談だ、冗談。本気にすんなよ」


 両手を挙げながら大介は、降参の仕草(ポーズ)を取る。


 それから二人は、そんな軽いやり取りをしながら歩き続け、朝の日差しが昇るにつれて、森は次第に薄れていき、目の前には荒廃した都市の風景が広がり始めた。


 舗装された道路はひび割れ、そこかしこに雑草が生い茂る。

 ビル群は瓦礫と化し、窓硝子は尽くが砕け散っていた。


 荒廃の象徴とも言える光景は、かつての平穏な日常を大介に思い起こさせながらも、現在の過酷な現実を突きつける。


「……あ、グールさん! 今日は何か良い事が起きる気がします! ほら、こんなにも空が綺麗ですよ!」


 肩に掛けていた鞄を少し直しながら、アンナは楽し気な声で話し掛けた。

 それを聞いて大介は、目を細めて空を見上げる。


 朝焼けの美しさが、ほんの少しだけ彼の心を軽くした。

 しかし、次の瞬間には険しい顔に戻り、短く溜息を吐く。


「アンナ、お前のそのポジティブな所は嫌いじゃねぇ。だがな、ここから先は笑っていられないかも知れないぞ」

「えっ、どういう事ですか?」


 アンナが小首を傾げる。

 その仕草には年相応の無邪気さが漂い、彼女の白色の髪が揺れて朝日を反射して艶やかに輝く。


「こっから先はヴォイダー連中の縄張りだ」


 徐に大介は立ち止まり周囲を一瞥した。

 廃墟と化したビル群が不気味に聳え立ち、割れた窓が彼らを無言で見下ろしている。

 ヴォイダーは秩序や道徳を完全に捨て去り略奪や破壊、殺戮を目的とした集団だ。


 彼ら彼女らは廃墟と化した街や橋や地下施設などを拠点とし、通り掛かる旅人や集落を襲撃しては奪えるもの全てを収奪する。


 その中には人間の血で塗られた装備や、頭蓋骨を装飾に使う者もおり、その容姿や行動は悪夢そのものだ。

 

 ヴォイダーの中でも統率が取れている集団は稀で多くの場合、彼ら彼女らは単純な暴力衝動や事故の欲望に従い動く。


 それでも彼らの残忍さと、無秩序な戦闘スタイルは、旅人や小規模の集団からすれば、致命的な脅威となる。


 世界が崩壊して尚、ヴォイダーたちのような存在は、この荒れ果てた地に更なる混沌をもたらしているのだ。


「……いいか、アンナよく聞け。ここらを縄張りにしている連中(ヴォイダー)は、最初に出会った連中とは段違いでレベルが違う。ここらの奴には何の理屈も通じないうえに、交渉なんてもってのほかだ。見つかれば略奪されるか、最悪命を落とすことになる」


 僅かに緊張を帯びた口調で大介は、ここら一帯を支配しているヴォイダーたちの事を話す。

 

「そ、そんなに危険なんですか……」


 口をへの字に曲げつつ、アンナは眉を顰めた。

 

「ああ、そうだ。だから注意事項を今から、お前に幾つか伝えておく」


 途端に表情を引き締めると大介は、両腕を組みながら彼女を見つめる。


「まず、ヴォイダーの縄張りでは大声を絶対に出すな。物音ひとつで奴らに目をつけられると思え」


 人差し指を立たせながら彼は言い放つ。

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