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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第二章

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第34話 発作再び

「はっ、その勢いだ! やっと一皮剥けたじゃねぇか!」


 怒りの感情に身を任せて発砲を続けるアンナを横目で見ると、大介は気分を上げて軽口を叩きながらも器用に、マグナムピストルとダブルバレル(ソードオフ)ショットガンを交互に使い絶えず攻撃を続ける。


 ――それから数時間にも及ぶ攻防戦が続くと、夜の森の中には銃撃による軽い銃声音と、フェラル・ゴウルの群れによる重たい呻き声が鳴り渡り、発砲による閃光が僅かに周囲を照らすのみ。


 そして長時間に及ぶ戦いの影響により、段々と平常な精神を蝕まれたのか、突如としてアンナに異変が起きた。


「ひゃっはー! 病原菌で生きながらえている屍共は全員皆殺しだァ! うひゃひゃッ!」


 最初こそ恐怖で震えていたアンナだが、数時間にも及ぶ危機的状況により精神が歪んだのか、今は別人のように攻撃的な性格を前面に出すと、獣のような瞳をぎらつかせながら大口を開けている。


 彼女の射撃は次第に、その勢いを増していき、暗闇を切り裂いてゆく。

 そして今現在のアンナは、自身が着ていたネオックススーツのジッパーを引いて上だけ脱ぐと、それを腰に巻き付けて身軽な装いだ。


 薄手のインナーシャツが汗で体に張り付く様子は、彼女の無意識な覚醒を象徴しているのかのようである。


「おい、まじかよ! 最高だな! その調子で頼むぞ!」


 叫びながら大介はショットガンを放つ。

 至近距離で放たれる弾丸が、フェラル・ゴウルの頭部を粉々に吹き飛ばし、腐敗した血液と骨片が四方に飛び散る。


 彼の背中には次々と倒れるフェラル・ゴウルの群れがあり、その光景がアンナの心に一種の安心感をもたらした。


 だが、その平穏も束の間である。

 暗闇の向こうから更に多くのフェラル・ゴウルが現れ数は増え続けた。


「くそ、これじゃぁキリがねぇ! おい、アンナ! 弾を無駄に消費すんなよ!」

「そんなの無理! もう止まれない! うらあああああっ!」


 彼女の口調は狂気じみており次々に引き金を引く、その姿には恐怖と興奮が混ざり合う奇妙な美しさがある。

 ――やがて全ての弾薬が尽きかけた事に気づいたアンナは息を荒げながら彼に向けて叫ぶ。


「どうするの!? もう弾が無い!」

「だったら素手で行くしかねぇだろ!」


 大介の言葉は冗談とも取れるが、その表情は真剣そのものだ。

 アンナは顔を歪めながらも、鞄から一本の小型のサバイバルナイフを取り出すと、柄を握り締めて構える。


 ――だがしかし、その戦闘の最中に、一つの異変が生じた。

 突如として大介の動きが急に鈍くなり彼の顔が大きく歪む。


「くそっ……! こんなところでかよ……!」


 その言葉と共に、大介は膝をつき頭を抱えた。


「グールさん! 大丈夫ですか! わ、私は一体どうすれば……?」


 驚愕しながらもアンナは、フェラル・ゴウルへの攻撃を止めて、彼に駆け寄ろうとする。


「近寄るなッ! 俺は……俺は……ホロコーストだ! ホロコーストだ!」


 自分の名前を、何度も叫びながら、彼は体を震わせた。

 だが、その声は次第に弱くなり、獣じみた唸り声へと変化していく。

 眼は血走り、牙を剥き出しにして唸る大介の姿は、既に知性の宿るグールのそれではない。

 

「グールさん! 戻って来て下さい! 私を一人にしないで!」


 彼の隣でアンナは必死に声を掛けて、正気を取り戻させようとする。

 だがそんな声も、もはや彼には届かない。


 大介は完全に自我を失い、奇怪な呻き声を上げながら、フェラル・ゴウルの群れに向かい突進を仕掛けた。


 その動きは異常な程に遠く、まるで風そのものが姿を保つかのようである。

 フェラル・ゴウルを殴り倒し、噛みつき、引き裂く。


 彼の力は圧倒的であり、フェラル・ゴウルの群れを次々と粉砕していく。

 だが、その姿は余りにも異様で、アンナは恐怖心ゆえに、その場を動けずにいた。


「どうして……こんな……」


 狂気的な光景を目の当たりにし、彼女の瞳から涙が溢れると、その雫が頬を伝い落ちる。

 大介は発作を起こし、圧倒的な力を発揮すると、最後の敵を殲滅し静かに膝をつく。

 彼の呼吸は荒く、全身が血と泥にまみれていた。


 ――月は分厚い雲に覆われて、森は黒闇に包まれている。

 夜露が草葉を濡らし、冷えた空気が息苦しさを覚えた。


 風が木々の間を抜ける音は、まるで遠くから響く獣の呻き声のようで、不気味さを際立たせている。

 そして発作を起こした大介は、糸が切れた操り人形のように地面へ倒れ伏すが、その姿は異形そのものだ。


「……ホロコースト……ホロコースト……ホロコースト……」


 全身が痙攣し、手足を虫のように地面に這わせながら、彼は自分の名前を繰り返す。

 その声は、か細く途切れ途切れであり、不気味な執拗さを持ち、森の静寂に響く。

 

 濁りにまみれた赤黒い瞳が虚空を彷徨うように動き、皮膚は汗で光りながらも異常なまでに青白く変色している。

 血管が肌の下で動き出し、張り詰めた縄のように脈打つ。

最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。

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