第28話 人肉フルコース
「お二人とも、どうぞお座りください。ここは私の最も大切な場所ですの。それは……そう、私の体の一部で例えるならば、ずばり子宮ですわ! そして今から貴方方の為の空間でもありますの」
両手を叩いて二人を取り囲むブラッド・パックたちを下がらせると、サロメは優雅に手を差し出して大介たちを席へと案内した。
だが一方で、その洗練された空間にアンナは目を丸くしながら、控えめに大介の後ろをついて歩く。
「こんな美しい場所が地上に、まだ残っているなんて……本当に凄いです……」
小さな声でアンナが呟く。その声には驚きと興奮が混じるようだ。
彼女の頬はほんのりと紅潮し、艶やかな肌の色が燭台に灯る光を受けて、より一層に輝いて見える。
「楽しんで頂けて光栄ですわ、ネオックスガールさん。……それでは料理を、お楽しみくださいませ」
目を細めて微笑みを浮かべるサロメは、二人が席に腰を落ち着かせた所を確認すると、徐に手を軽く叩いて従者たちに指示を出すと、次々に若い女性たちが料理を抱えた状態で部屋の奥から現れた。
そして従者たちは料理や飲み物などを、慣れた手付きで次々に机の上へと並べ置いていく。
その中には嘗ての文明を思わせる珍しい食材や、廃墟の中で得られるとは思えないような贅沢な品が並んでいた。
「これが、お前達の誇りってわけか」
興味深げに料理を見つめながら、大介は冷静な態度を崩さない。
微笑みを浮かべたままサロメは、一歩と彼の元へと近づいてゆく。
そんな彼女の瞳には狂気と胸酔が混じり合い、まるで神に仕える巫女のような崇拝の念が宿る。
「私たちブラッド・パックは、力と美を尊ぶ集団ですわ。そして貴方は、そのどちらも持ち合わせていらっしゃる。私は、そんなホロコースト様の全てを手に入れたい……いえ、その一部でもいいですわ」」
サロメの声には微かな震えが混じり、その感情が本物であることを物語っていた。
しかし大介は彼女を冷たく見つめるだけで何も言わない。
まるで試されているかのような静寂が場の緊張を更に高めていた。
「……さぁ、お食事を楽しみましょう」
沈黙を破り優雅に笑みを浮かべたままサロメは、机上に置かれているワインを手に取り、コルク栓を抜いて彼の前に差し出す。
その動作一つ一つが洗練されており、彼女の底知れない余裕と自信が感じられるようだ。
そして、その背後では従者たちが、一糸乱れぬ動きで給仕を続けている。
そんな中で大介は机上に置かれていた銀色の洋盃を手に取ると、サロメにワインを注いで貰い、匂いを堪能してから無言のまま一口だけ飲む。
そのあとアンナは恐る恐るという感じで、空の洋盃に手を伸ばすと彼と同様に、彼女にワインを注いでもらい唇を濡らす。
「ここに居る限り、貴方方は私たちの特別なお客様ですの。どうか遠慮なさらず、心ゆくまでお楽しみ下さいませ」
彼女の初々しい反応に、サロメは満足げに微笑み、さらに話を続けた。
その言葉に隠された意図が何なのか、まだ大介は測りかねていたが、少なくとも今はこの場を利用するしかないと判断している。
「さて、特注のお料理を堪能なさってくださいまし。ここに並ぶ全ての料理は、この橋の上では最高級のものですの」
机上に置かれている純白の皿の上には銀色に煌めくナイフが添えられており、それを手に取るとサロメは軽く舌なめずりをしてから、視線を机の中央に鎮座している、こんがりと焼かれた肉の塊へと向けた。
そして彼女はナイフを使い器用に肉を切り分けると、それぞれの皿へと丁寧に盛り付けて二人の前に差し出す。
大介の目の前には芳ばしくも、焼かれた肉の一部が大きめに切られて皿の上に置かれており、その肉の隣には真っ赤なソースが大量に掛けられ、それはまるで人間の血のようにも見える。
「はぁ……いいか、アンナ。こういう場所では、食事を無碍にすると角が立つ。だから何も言わず、何も疑問を抱かず、何も考えず、ただ食せ。わかったな?」
皿に盛りつけられた肉を一瞬だけ見つめると、大介は溜息をついて隣の席に座る彼女に話し掛けながら、ナイフとフォークを手に取る。
「無理です! すみません! あの……サロメさん! 失礼ですが、この料理のお肉は、いったい何肉ですか……?」
ナイフとフォークを手に取る処か彼の忠告を拒否し、アンナは席から僅かに腰を上げて右手を挙げると、目の前の皿を強く睨んだまま動かず、全力の勇気を振り絞り問い掛ける。
いつもの柔らかい敬語は少し震えており、その表情は明らかに困惑と恐怖の色を含んでいた。
それに対して大介は顔を俯かせると、首を左右に振り力なく項垂れる。
「おや、食材に興味をお持ちとは珍しいですわね。これらの品は特別に用意したもの。細かい所は、貴女の想像する通りかもしれないわ」
突然の問い掛けに、サロメは楽し気に笑みを零す。
長い指で口元を覆う仕草が、どこか芝居がかっている。
「……やはり……」
アンナの顔が一瞬にして青ざめてゆく。
目の前の肉の鮮やかな色合いや、血液を模したソースの香りが、途端に生々しいものに見える。
手元のワインも飲み込む度に、どんな成分が含まれているのか、さらに彼女の不安を掻き立てた。
最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。
宜しければ評価とブックマーク登録をお願い致します。
活動の励みとなり更新が維持出来ます。




