第27話 お嬢様はグールさんの大ファン
「あら、これはこれは……。初めまして、お客人方。お初にお目にかかりますわ。私は、このブラッド・パックを纏めている、リーダーの黒崎サロメと申しますの。以後、お見知りおきを」
優雅な足取りでアンナと大介の前に姿を現したサロメは、二人を見て不敵な笑みを零して舌なめずりをしつつも、貴族のような立ち振る舞いと柔らかい言葉遣いで、簡単な自己紹介を述べると軽く一礼を披露する。
――だが何を考えているのか彼女は自己紹介を終えた後、その場を立ち去る事はなく徐に右手を自身の顎に添えると、眉間に皴を寄せながら一切の瞬きもせずに大介の顔を凝視した。
そして、そのまま数秒の時が経過して彼が動こうとすると、
「貴方……もしかして、あの伝説のホロコースト様では……!?」
相手の顔を凝視していたサロメは口を開き、訝しげな表情が途端に驚愕のものへと変貌する。
そんな彼女の声は震えていたが、その響きには興奮と何処か憧れのようなものが混ざり合う。
そしてサロメは、その場で綺麗な佇まいを披露すると軽く身嗜みを整えてから、二人の後を付いて歩いていた周囲の一般人たちに一瞥を投げた。
その一般人たちは先程のモバイルメイドの一件で、二人に絡んできた者たちの一部であり、怒りにまみれて歪んだ表情を浮かべている辺り、今度は物ではなく大介に個人的な要件がある様子。
だが、そんな一般人たちはサロメの視線を受けると、全員が一斉に身を震わせて、大介とアンナの傍から離れていき一瞬で沈黙する。
「どうやら、ここの市民たちがホロコースト様に対し、無礼を働いたようですわね……。誠に申し訳ございませんですの。全ては私の責任ですわ」
その言葉と同時にサロメは、静かに自身の太ももの帯革へと手を伸ばした。
そうして微風が吹き付ける中、そこから彼女は一本の投げナイフを引き抜く。
そのナイフの刃は鋭く、まるで風すらも両断できるかのような冷たい光を放つ。
「ホロコースト様に詫びるには、私自らの手で償うしか方法はありませんの。……貴方たち!」
彼女は静かに声を上げたが、その響きには一発の銃弾のように、重みと迫力が込めらている。
「ブラッド・パックの名を汚す無礼者たちが! ホロコースト様に向かって、あろうことか喧嘩を売るという愚行を犯すとは……万死に値しますわ!」
そう言い放つとサロメは迷いなく腕を振り上げて、市民たちに鋭い視線を向けつつナイフを投擲した。
その動作は信じられない程に滑らかで、ナイフは狙い違わず、それぞれの喉元を正確に貫く。
市民たちは呻き声を上げる間もなく地面に崩れ落ちた。
一部の市民たちが彼女の手により粛清されると、この場は一瞬にして静寂に満たされる。
「これは償いですことよ。貴方たちには命をもって、この愚行と代償を支払って貰いますわ」
淡々とサロメが喋ると同時に、撃鉄を引く音が重く響くと、次の瞬間一発の銃声が轟き、若い男の胸に彼岸花が咲き地に伏せた。
すると殺された者たちと同様に、大介の周囲を屯して復習の機会を伺い続けていた連中は、仲間が呆気なく殺された事で彼女の本気の怒りを理解したのか、全ての感情が恐怖心により支配されたようで、中年の男や若い女は震え上がり、悲鳴を口にすることすら出来ない。
そしてサロメは続けて罪を犯した市民たちに銃口を向け引き金を引くと二発、三発と正確に弾丸は放たれて市民たちの心臓を容赦なく貫く。
その一連の動きは、まるで美しい舞踏のように滑らかで無駄がない。
やがて最後の男が血を吐きながら息絶えて、赤い水溜まりが地面に広がる中、サロメは大介へと向き直り優雅に一礼する。
「このような不始末、誠に申し訳ございません。私の監督不行き届きの責任ですわ。……これで少しは気が済んで頂けましたこと?」
握り締めていたリボルバーを、彼女は拳銃嚢に収めると、僅かに首を傾げながら彼を見つめた。
「……興が削がれたな。まあ、どうでもいい」
両腕を組みながら大介は、静かにサロメを見下ろしている。
その表情は、まるで石像のように無機質だが、その背後に漂う圧倒的な存在感が、周囲を更に緊張させた。
「ふふっ、貴方様の寛大なお心遣い、本当に感謝致しますわ。……さて、貴方たち! ホロコースト様と、そのお連れの方を例の場所まで護衛しなさい! もちろん、最高級の礼儀と最上級のおもてなしを尽くすように!」
彼の気怠い言葉を聞いて、彼女の表情が一瞬だけ緩む。
しかし、それは安堵というよりも、まるで一つの計画が順調に進んだことに対して、満足感を含んだもののようである。
そしてサロメが忙しなく両手を叩いて軽い音を響かせると、周囲に潜んでいた武装完備のブラッド・パックたちが、一斉に荒々しい動きを見せながらアンナと大介の前に姿を現して、二人を瞬く間に取り囲み始めた。
大介とアンナは突然の出来事に驚きつつも、咄嗟に両手を挙げて無抵抗である事を主張するが、武装したブラッド・パックたちは、先頭を歩くサロメの後を付いて歩くように、二人を取り囲んだ状態で進み始める。
そして大介とアンナは突然の出来事に困惑しつつも歩く事を強制され、暫くの間は無言の状態で足を進めると橋の一角に設けられた廃墟へと誘導された。
それは見るからにサロメの居城である事が窺えて橋の奥に建てられた砦は、まるで無数の寄せ集めた廃材と鉄骨で形成されたアートのようである。
廃墟でありながら不思議と統制が取れており、周囲にはサロメの美意識が感じられるようだ。
砦の入り口は広々としており、両脇には戦前の高級ホテルロビーに使われていたと思われる、赤いカーペットが敷かれている。
その端には燭台が並べられ、薄暗い光が幻想的な影を作り出しているのだ。
巨大な鉄扉が開かれると、内部の様子が明らかとなる。
その中には壮麗な宴会が広がっていた。
中央には長いテーブルが置かれ、その上には豪華な装飾が並べられている。
燭台には蠟燭が備えらえ火が灯り、部屋全体を暖かな光で包んでいるのだ。
壁際には無数の古びてはいるが高価そうな装飾品が並べられ、その中にはサロメが集めたのか戦利品や骨董が所狭しと飾られている。
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