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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: 美味いもん食いてぇ
第一章

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第3話 家康城

「まあ、ここまで聞けば馬鹿でも分かると思うが、アンナと呼ばれる女性に会うには、まずネネオテックスを見つける必要がある。それが一番難しくて骨が折れるだろうな。……だが、信憑性の低い風の噂では、家康城の地下にはネオテックスがあるとかないとかだ」


 依然として洋盃を磨きながら、店主は大介へと視線を合わせつつ、淡々とした口調で語り続けた。

 そして彼女の話を一通り聞き終えると大介は、今回の仕事は普通に面倒事になりそうだと思いながらもアンナと呼ばれる女が、この依頼の根本にどう関係しているのか些細な興味を覚える。


 そのあと彼は依頼を正式に引き受けると腰を上げて立ち、ベル・サイダーの料金を支払うと気怠い足取りで酒場を出て行く。


 酒場を出た後、大介は冷たい風に顔を打たれながら、一服しようと煙草を取り出した。

 明るい空に煙が漂う中で彼は、これからの仕事に向けて心を構える。


 そして一服を終えると引き受けた依頼を達成するべく、大介は重たい足取りで歩みを進め旧豊橋市から出ると、今の所は全ての情報が集約している旧岡崎市の家康城へ向かう。 


 ――それから暫しの時が流れると彼は、ついに旧岡崎市へと入り家康城跡地の前へと到着した。

 夕陽は西の空を深紅に染め上げ、地平線に沈みゆく中で、その輝きを瓦礫の山々へと投げ掛けている。


 かつて、この地に君臨した城の威容は今や見る影もなく、雨風に晒された瓦礫の残骸だけが過去の栄光を物語るようだ。


 家康城――その名を関したこの場所は、戦後の荒廃を象徴するかのように静まり返る。

 大介は足を止めて、廃墟と化した城の門跡を見つめた。

 その足元には無造作に散らばる石材、そして風に吹かれて転がる古びた木片が無数に存在する。

 

「ほう……? これが噂の家康城って奴か」


 低く掠れた彼の声が、静寂を破りゆく。

 それは、まるで自分自身に、確認するかのような呟きだ。


 大介の足元には、乾いた地面に降り積もる砂埃が薄く舞い上がり、風に乗り散る。

 この場に吹く風は冷たく、乾燥した空気が肌を刺すようだ。


 遠くで風切り音が響き、不気味な静寂が辺りを覆い尽くしている。

 そして依然として彼は周囲を探索しながら暫く足を進めるが、唐突に妙な異変を感じ取り静かに歩みを、その場で止めた。


 右手を軽く握り即座に懐に入れると、大介の手は服の内側の胸衣嚢(ポケット)に収められている、とある物を鷲掴む。


 その中に収められている物は、大介にとって最も重要なもの――自身の自我を保つ為の雄一の命綱だ。

 しかし、それがあると理解していても、彼の額からは大粒の冷や汗が流れ落ちる。


 そして次の瞬間、突如として彼の体は異常を訴えた。

 喉の奥からは、焼けつくような熱が込み上げ、視界がぼやけていく。


 頭蓋骨を締め付けられるような感覚にも必死に耐えたが、ついに大介はその場で崩れ落ちるようにして膝を地につけた。


「ちっ……こんなとこでか……くそっ! ふざけんなよ……!」


 大きく震える手を気合のみで制御しつつ、大介は胸衣嚢から錆びついた銀色の(ケース)を取り出す。


 そして箱を開けると中には数本の使用済みの注射器や、赤い液体が澄んだ光を放つ薬液が満たされている注射器などがある。


 彼は震える指で一本の注射器を掴み、腕の袖を乱暴に引き上げた。

 この薬――『ラジカル・サプレッサー』は、放射線による身体の変異を抑え、フェラル・ゴウル(グールの上位種)化を遅らせる効果を持つ、特殊な調合薬である。


 グール化して更に放射線を浴び続けた身体は、やがて最低限の理性すら失い、獣以下の存在へと落ちるのだ。


 それを防ぐ為の薬であり、この世界において普通のグールが、生き延びる為には必須の物である。

 そして薬液が彼の体内に注入されると即座に効果が現れた。

 焼けつくような苦痛が和らぎ、ぼやけていた視界が徐々に鮮明さを取り戻す。

 

「……ったく、これがなければ……」


 深い溜め息をつき、大介は額の汗を手の甲で拭う。

 軽く息を整えてから、再び立ち上がり、彼は周囲を見渡す。


 瓦礫の山に潜む気配は、依然として静寂の中に紛れているが、彼の背筋は詰めたい感覚を覚えたままだ。


 ――大介は暫しの休息を余儀なくされ、再び行動が開始できたのは、数十分後の出来事である。

 そして彼は一人で淡々と、家康城を探索して周囲を徘徊し続けるが、依然として何も見つからない。


「おいおい、アンナとかいう女、何処に隠れていやがる。こっちは仕事でやってんだ。さっさと出てこい。っつうかネオテックスも、どこにあるのか分からねぇな」


 愚痴を吐き捨てながら大介は廃墟と化した家康城の内部に入ると、その中は湿気と腐臭が漂い腐食した木材の軋む音が重く鳴り響く。


 城内部の装飾は既に、大半が当然の如く朽ち果て、全てが過去の異物と化している。

 地面には、ひび割れた瓦と砂が散らばり、天井から垂れる蔦が廃墟としての趣を、一層際立たせていた。

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