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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: 美味いもん食いてぇ
第一章

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第2話 汚れ仕事

「……なにか儲けの高い仕事はあるか?」


 ベル・サイダーを飲み干して、机上に叩きつけるように置くと、大介は口元を腕で拭いながら、この酒場に訪れた目的を告げる。


 彼の言葉を聞いて店主は、自身の背後の壁に貼られた、依頼書の束を親指で示した。

 そして彼女は、その中から一枚の紙を慣れた手付きで抜き取り、大介の(カウンター)に叩きつけるように置く。


 それは粗雑な紙に描かれた一人の男性の似顔絵と、その頭に掛けられた賞金額が記されていた。

 その賞金の額は百万ピンバッジ()――――この荒廃した時代においては大金とも言える。

 

 そしてこのピンバッジについてだが、これは分かり易く言えば、この終末世界における標準通貨だ。

 最終戦争後の混沌とした世界では、経済の基盤は粉々に崩壊し、標準通貨として機能するものは存在しなかったのである。


 文明の残骸を生き延びた人々は、やがて価値を測る基準を必要とするようになったが、紙幣や金貨は戦火や放射能により失われており、その役目を果たす事は出来なかった。


 そんな中、戦前の工業製品でもあるピンバッジが注目を集め始める。

 特に企業や軍事施設、観光地で製造された金属製のバッジは耐久性に優れ、戦争の混乱を越えて多くが、その形を保っていた。


 これらのバッジは、企業ロゴや戦前の象徴が刻まれており、戦争を知らない世代にとっては、歴史や文化の名残としての価値もある。

 そして何よりも重要なのは、その数が限られており、偽造が極めて難しい事だ。


 ピンバッジが通過として受け入れられるに至ったのは、新たな社会を築き上げる際に、それが『交換可能であること』『希少性を保つこと』『耐久性があること』という通貨の三要素を満たしていたからである。


 金属製のピンバッジは腐食や損傷に強く、戦前の製造過程で刻印された独自のデザインやシリアルナンバーが、偽造の制御に寄付した。


 また、製造が停止しているため、その数が自然に減少する事で、価値が安定し続ける。

 さらに各地域で使われるバッジには奇妙な違いがある事から、取引の際にはバッジそのものの希少性やデザインが、交渉材料として利用される事も多かった。


 例えば、軍用のバッジや政府機関のピンバッジは特に価値が高く、商取引での高額な支払いに用いられる事が一般的である。


 一方で企業ロゴや観光地の記念バッジは、日常の取引に適した通貨として広く流通しているのだ。

 つまり今現在、ピンバッジは旧日本での標準通貨として機能している。


 それを失う事は財産を失う事に等しく、取引や賭博の場では自分たちが所有するピンバッジを、誇らしげに見せ合うのが習慣となっているのだ。

 一見、無秩序に見えるこの終末世界で、ピンバッジは新たな秩序を形作る象徴的な存在となる。


「この男が最近のトレンドだ。名前は確か……しののめ……ああ、そうだ。東雲和真(しののめかずま)って言ったはずだ。依頼の内容としては、生け捕りが基本だ。まあ理由は分からねぇが、この野郎は何故か、多くの組織に目を付けられている。ヴォイダー、ガーディアンズ、V(ヴィジ)R(ランス)L(リージョン)――どいつもこいつも、この男を追っている。手を出すなら覚悟しろよ」


 酒場の店主は忠告を促すように、重たい響きの声を出して言い放つ。

 

「はっ、隣人が多いって事か。そりゃあ、賑やかなパーティーになりそうだな。……それで? そいつの居場所は?」

「さぁな、こいつの居場所は誰も知らねぇ。所謂、行方不明状態って奴だ。……だがぁ、野郎が住んでいたであろう場所なら知っている。まあ当然だが、ただでは教えられねぇ。この腐った旧日本のルールは知ってんだろ?」


 大介の質問に対して、店主は肩を小さく竦めると、薄い笑みを浮かべる。


「……その情報がゴミクズ同然のものだった場合、俺のナニ()が怒りのあまり暴発しちまうかも知れねぇな」


 彼女の人を小馬鹿にするような態度に彼は苛立ちを覚えつつも、腰のホルスターに触れる素振りを見せると低い声で冗談めかすように呟く。

 そして店主を僅かに脅した後、大介は渋々ではあるが懐から、数個のピンバッジを取り出して渡した。


 彼女は若干怯えた様子で彼から差し出されたピンバッジを受け取ると、額から流れる冷や汗のようなものを拭いながら大介に新鮮な情報を提供する。


 その情報によれば対象の男が、かつて居住していた場所――それは旧岡崎市にある家康城(岡崎城)と呼ばれる廃墟だった。


 その情報を頭の中に確実に刻む大介だが、その依頼を受ける準備を進める中で、店主が更なる情報を語り出す。


「ああ、そうだ。もう一つ、お前に耳寄りな情報がある。”アンナ”って女を知っているか? こいつも最近、噂になっている奴だ。どうやら例の男と深い関わりがあるようだぜ」


 それだけ語り終えると、徐に店主は洋盃と布を手に取り、バーテンダーのように洋盃を磨き始める。

 しかし彼女が抱えている情報は、それだけではないようで僅かな間を空けてから、再び口を開き新たな情報を話し始めた。


 どうやら”アンナ”と呼ばれる女性は、ネオテックス居住者のようで彼女に関する情報は、一聴して信頼性が高そうなものの、その出所については一切不明である。

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