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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第二章

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第25話 施しと乞食

「おいおい、まじかよ! こんな所でグールが少女とデートとは随分と良い御身分じゃねぇか! まあグール野郎が彼女を拉致って、脅している可能性は無きにしも非ずだがな。……まっ、そんな事はどうだっていい。それよりも重要なことは、ここを安全に通りたいのなら、参加(通行)料が必要だってことだ」

「参加料だと? そりゃぁ一体どういう意味だ?」


 屈強な体格の男の言葉を聞いて、自然と大介は眉を顰める。


「なぁ~に簡単なことよ。アイツ(老人)に一投、ナイフを刺すだけでいい。ほら、簡単だろ?」


 薄い笑みを浮かべながら、男は顎で回転板を差した。


「くだらねぇ……」


 吐き捨てるように言いながら大介は、衣嚢から数円のピンバッジを取り出す。


「そ、それで終わりなんですか? 助けないんですか?」


 彼の行動を見て、アンナは驚きの顔を晒すが、その声は震えていた。


「お前は甘すぎんだよ。ここじゃぁ、優しさなんか糞の役にも立たない」


 ちらりと彼女を見やると大介は鼻で笑うが、それだけ言い放つと中年の男にピンバッジを投げ渡す。

 だがその瞬間、彼の眼がぎらりと光る。


 男がピンバッジを受け取った刹那、大介は素早く拳銃嚢から(マグナムピストル)を抜き、音もなく引き金を引いた。


 一発の銃声が鳴り響き、その場に男は崩れ落ちる。

 すると観客たちは一瞬にして大小様々な声を荒げ、一部の者たちは逃げ出す準備を進め始めた。

 大介は動じる事なく、アンナの腕を掴み、更にステージへと接近する。


「ぐ、グールさん……離して……!」


 アンナは抵抗するものの、彼の力に敵うはずもない。


「お~い、生きているか~? 爺さん~?」


 ステージ上の回転板に近づくと、大介は冷静な手付きで、老人を縛り付けているロープを切り始めた。

 すると彼は弱々しく呻き声を上げたが、答える力は残されていないようである。


「……助けるんですね」


 その様子を涙目で見つめながらアンナは呟く。


「助けるだと? それは……ちっとばかし違うな。俺はこいつが邪魔で通れないから退かしているだけだ」


 片肩を上げて振り返ると大介は冷たく言い放つが、その手は最後まで迷うことなく動いていた。

 そして周囲の騒ぎが徐々に収まる中、彼は老人の縄を全て解くと、一切躊躇うことなく自身の肩で担ぎ上げ、アンナを急かして場から立ち去る。


 そのあと血まみれで掠れた声で唸る老人を抱えた大介は、舌打ちを放ちながらも武装したブラッド・パックたちに見つからないよう、あらゆる障害物を利用して忍者のように移動し、とある建物の影に隠れた。


 そして彼の背を追うように必死に後をついていたアンナも、ブラッド・パックたちに見つからず奇跡的に建物の影に隠れる事に成功すると、乱れた息遣いのまま額の汗を腕で拭い矢継ぎ早に自身の鞄に手を入れ、赤十字の模様が描かれている医療箱を取り出す。


 さらに彼女は医療箱を、すかさず開けて何一つ迷うことなく、そこから一本のジェネリラム(注射器)を取り出して、中身の薬剤の状態を目視で確認してから、傷だらけで瀕死の状態の老人の首に針を刺して投与した。


 ジェネリラムが打たれた事を、大介は間近で確認すると、静かに両の肩を大きく肩を竦めた。

 これで時間は掛かるが老人の傷は確実に完治して、そのうち自力で逃げる事も可能となり、運が良ければ生きてこの橋から出られるだろうとして。


 そのあと彼は柄にもない事をしたとして、大きく溜息を吐き捨てると軽く舌打ちをしてから重たい腰を上げて立ち、コートに付着した老人の血を手で払い気怠い足取りで建物の影から出る。


 それからアンナは終始、老人の事を心配そうな瞳で見つめていたが、大介に置かれている事だけは絶対に避けたいのか軽く頭を下げてから、その場に彼を一人置いて物影から飛び出した。


 そして二人は再び橋の上を歩き始めると、この場の空気は湿り気を帯び鉄錆びと、腐敗した生ゴミのような臭いが漂う。


 高く薄曇りの空は灰色で時折、冷たい風が吹き抜け、骨の芯まで冷たさを染み込ませる。

 遠くの地平線に見える山々もくすんでおり、荒廃した風景が広がる中、大介とアンナは足を進めていた。


 そんな中で彼女は自身の腕に装着されている、モバイルメイドの画面と睨めっこ状態であり、その可愛らしい顔を不安げに曇らせている。


 アンナの白い肌は微かな緊張で赤みを帯び、長い白髪は冷たい風に揺れた。

 彼女の整えられた唇が少し震えているのを、ちらりと横目で大介は確認する。


「こんな所に長居していれば、嫌でも問題事は起きるだろうな」


 アンナの怯えを感じ取りながらも、大介は声に軽い冷笑を乗せて呟いた。

 しかしその瞬間、彼の視線は荒廃した橋の上の一角を、大胆に横切る女性へと向かう。


 その女性は年齢こそ若そうだが薄汚れて傷んだ服を身に纏い、髪は油や汗で固着したように絡まり泥のようなもので汚れている。


 だが彼女の目付きは鋭く、アンナが持つモバイルメイドの存在に気がつくと、その場で足を止めて視線が(モバイルメイド)へと釘付け状態だ。


「おい、それ、アタシにくれよ。あれがあれば……アタシも……」


 自身の黒く汚れた人差し指で、アンナが持つモバイルメイドを主張しながら、それを狙うように女性は声を荒げる。


 その話し声には執着と狂気が入り混じるようで、彼女の動きに気づいた周囲の(中年)たちが一斉に集まり始めた。


 しかし大介が一見した限りでは、彼らはブラッド・パックの構成員ではないようで、薄汚れた革製の服やコートを着込み、腰にはサバイバルナイフや小型の銃をぶら下げている。

 それぞれが油断ならない目をしており、何かしらの合図を待つように動きを止めているようだ。

 

「アンナ、後ろに下がれ」


 未だにモバイルメイドの画面を凝視している彼女に大介は低い声で警告する。

 だがその瞬間、周囲の男達の手が一斉に武器へと伸びた。

 しかし、異変を逸早く察知していた彼は、その相手も動きすらも見切っていた。

 

「動くな、薄汚ねぇ人間ども」


 素早く動いて大介は近くに居た一人の男を捉えると鋭い声と共に、その者の腕を強引に捩じり上げて路上に押し倒し、自身の片膝に全体重を乗せて相手の背中を押さえつけ一切の身動きを封じる。


 骨が軋む鈍い音が響き男の悲鳴が続くと、彼は拳銃嚢からマグナムピストルを引き抜いて、銃口を相手の後頭部に押し付けた。


「おいおい、動くんじゃねぇよ。次に武器を抜こうとしたら、こいつの脳漿が路上に飾られる事になるぜ」


 大介の冷酷な声が場の雰囲気を一瞬で凍り付かせる。

 彼の目は鋭く、まるで蛇のように相手を見据えて、口元に浮かぶ僅かな笑みは不気味なまでに冷たい。

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