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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第二章

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第24話 人間ダーツ

「これが橋の上のコミュニティ……というやつですか……。随分と異様な雰囲気が漂いますね……」


 敬語混じりの言葉を、アンナは小さく呟いた。

 目を見張る彼女の顔には、混じり合う好奇心と不安が浮かんでいる。


 アンナの白い肌は曇り空の下で一層際立ち、その透き通るような瞳には、目の前の光景が鮮明に映し出されている様子。


「異様どころじゃないさ。ただの腐った連中の溜まり場だ」


 肩を竦めながら大介は、冷ややかに答えた。

 その声には警戒と、何処か嫌悪が混じり合う。


 彼の眼光は鋭く、まるで目に見えない危険を探り当てるかのようだ。

 そして二人は止めていた足を動かして先に進み始めると、この場の異様さが更に増していく。


 すると広場とでも呼ぶべきか開けた場所が現れ、そこでは人々が楽し気に集まり何やら声を上げている。

 広場の中心には木製の簡易ステージが設置され、その上に何かが取り付けられていた。

 

 それを見て大介の足は、自然と簡易ステージへと近づいて行くと、見事に嫌な予感が的中する。

 ステージ上では、一人の旅人らしき老人の男性が、回転板に縛り付けられていたのだ。


 彼の衣服は鋭利な刃物で裂かれたように損傷が激しく、血の滲んだ肌が無惨な状態を保つ。

 ステージの周囲に集まる観客は笑い声を上げながら、次々と小さなサバイバルナイフを回転する男へと投げつけていた。


 観客が投擲したナイフが、彼の肉に突き刺さる度に、歓声と悲鳴が同時に木霊する。

 

「こ……これは……!」


 大介の傍に近づくと、ステージ上で行われている事を視認して、目を見開きアンナは言葉を失う。

 そして彼女の小さな手が震えているのが大介の目に入る。

 その顔には明らかな嫌悪と恐怖が浮かび、少女らしい純粋さが、この地獄絵図と衝突していた。


「歓迎の儀式ってやつか?」


 冷笑を浮かべて彼は、吐き捨てるように言う。

 鋭い目で周囲を見渡しながらも、大介は片手でアンナの肩を掴んで制した。


「おい、しっかりしろよ。こんなもん、ただの見世物だぞ」

「で、でも……!」


 言葉を詰まらせままアンナは、再び回転板に縛られた男へと視線を戻す。

 すると観客の一人が、唐突に大声で叫びながら、念入りに研がれたナイフを手に取る。

 その観客の右手には無造作に彫られた傷痕があり、まるでその場の残虐性を象徴しているかのようだ。


「おい、新顔か?」


 突然、何者かに背後から二人は声を掛けられる。

 そのまま大介が振り返ると、そこには屈強な体躯を持つ、中年の男(ブラッド・パック)が立ち尽くしていた。


 彼の皮膚は日焼けしており、粗末な革の鎧を纏っている。

 男の腰にはサバイバルナイフが幾つも差し込まれており、明らかにこのショーの関係者である事が窺えるようだ。


「おいおい、まじかよ! こんな所でグールが少女とデートとは随分と良い御身分じゃねぇか! まあグール野郎が彼女を拉致って、脅している可能性は無きにしも非ずだがな。……まっ、そんな事はどうだっていい。それよりも重要なことは、ここを安全に通りたいのなら、参加(通行)料が必要だってことだ」

「参加料だと? そりゃぁ一体どういう意味だ?」


 屈強な体格の男の言葉を聞いて、自然と大介は眉を顰める。


「なぁ~に簡単なことよ。アイツ(老人)に一投、ナイフを刺すだけでいい。ほら、簡単だろ?」


 薄い笑みを浮かべながら、男は顎で回転板を差した。


「くだらねぇ……」


 吐き捨てるように言いながら大介は、衣嚢から数円のピンバッジを取り出す。


「そ、それで終わりなんですか? 助けないんですか?」


 彼の行動を見て、アンナは驚きの顔を晒すが、その声は震えていた。


「お前は甘すぎんだよ。ここじゃぁ、優しさなんか糞の役にも立たない」


 ちらりと彼女を見やると大介は鼻で笑うが、それだけ言い放つと中年の男にピンバッジを投げ渡す。

 だがその瞬間、彼の眼がぎらりと光る。


 男がピンバッジを受け取った刹那、大介は素早く拳銃嚢から(マグナムピストル)を抜き、音もなく引き金を引いた。


 一発の銃声が鳴り響き、その場に男は崩れ落ちる。

 すると観客たちは一瞬にして大小様々な声を荒げ、一部の者たちは逃げ出す準備を進め始めた。

 大介は動じる事なく、アンナの腕を掴み、更にステージへと接近する。


「ぐ、グールさん……離して……!」


 アンナは抵抗するものの、彼の力に敵うはずもない。


「お~い、生きているか~? 爺さん~?」


 ステージ上の回転板に近づくと、大介は冷静な手付きで、老人を縛り付けているローブを切り始めた。

 すると彼は弱々しく呻き声を上げたが、答える力は残されていないようである。


「……助けるんですね」


 その様子を涙目で見つめながらアンナは呟く。


「助けるだと? それは……ちっとばかし違うな。俺はこいつが邪魔で通れないから退かしているだけだ」


 片肩を上げて振り返ると大介は冷たく言い放つが、その手は最後まで迷うことなく動いていた。

 そして周囲の騒ぎが徐々に収まる中、彼は老人の縄を全て解くと、一切躊躇うことなく自身の肩で担ぎ上げ、アンナを急かして場から立ち去る。


 そのあと血まみれで掠れた声で唸る老人を抱えた大介は、舌打ちを放ちながらも武装したブラッド・パックたちに見つからないよう、あらゆる障害物を利用して忍者のように移動し、とある建物の影に隠れた。

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