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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第二章

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第23話 娼婦たちのおもてなし

「おい。見てみろよ、アンナ。ほら、あの装飾。誇らしい戦前の文化ってやつだな」


 大介が指さしたのは、入り口の上部に吊るされている、巨大な角灯(ランタン)である。

 細やかな彫刻が施され、その表面を彩る模様が光を受けて、妖艶に浮かび上がるのだ。

 角灯の灯りが揺れる度に、建物全体が男の性欲を求めているかのように、妙な雰囲気が立ち込める。


「そ、そういう……ところには、興味ありません!」


 言葉を失いながらもアンナは、その光景を見つめていた。

 その頬は赤みを帯びて、目を逸らす事も出来ずにいる。


「そう言うなよ。どのみち、ここを通らなきゃならねぇんだ。それに、ちょこっと覗くだけだ。お前も経験値が増えて嬉しいだろ?」


 初心な彼女を茶化すように笑いながら大介は足を進めると、夢幻桜と呼ばれる風俗店の中に入ろうとした。


 するとアンナは口を開きかけて何かを言い返そうとしていたが、結局なにも言えず彼の背に隠れるようにして後をついて行く。


 そして両手で夢幻桜の扉に触れると、大介が慣れた手付きで開け放ち、建物の中からは甘く濃厚な香水の吹き鼻を突いた。


 内装は外見とは対照的に豪華で、手入れの行き届いた絨毯が、床一面に敷かれている。

 天井からは吊るされたシャンデリアは、戦前の遺物で無数の硝子粒が淡い光を反射して、空間を煌びやかに演出していた。


 壁には艶やかな絵画が並び、その多くが女性の妖艶な姿を描いたものである。

 柔らかなカーブを描く体の線や、肌を大胆に露出した姿が堂々と飾られているのだ。


「おお……これは予想以上だな」


 感心した様子で大介は、何度も頷き周囲を見渡していく。

 すると徐に一人の若き二十代ぐらいの女性が彼の元へと近づいて来た。

 彼女は豊満な体を、艶やかな洋服(ドレス)で包み、その胸元は大胆に開かれている。


 滑らかな太ももが、ドレスのスリットから覗き、視線を惹きつけて離さない。

 女性の首元には、煌めくペンダントが掛かり、妖しい光を放つ。

 それは外に居たブラッド・パックの汚い連中とは、天と地ほどの差があり普通に美しく気品が漂う。


「いらっしゃいませ。お客様、旅の御方ですね?」


 大介に向けて柔らかな笑みを浮かべ彼女は近づいて来た。

 その声には甘さと色気が滲み、まるで音楽のように耳が心地よい感覚に襲われる。


「ここを通りたいのであれば、少しだけ私たちと遊んでいって頂けないかしら?」

「えっ、あの……そんなこと……。私たちはただ、ここを通りたいだけで……!」


 女性の言葉を聞いて、アンナは驚き目を見開くが、その声は小刻みに震えていた。

 彼女は視線を忙しなく泳がせ、明らかに困惑している。


「落ち着け、アンナ。こういうのは、お約束だ。どの道、ここを通るには”条件”を満たさないといけないって事だろ?」


 アンナの様子を横目で見て、大介は面白がるように笑う。


「で、具体的に何をすればいいんだ?」


 女性の方へと体の向きを変えて彼は片肩を上げた。


「簡単な事ですよ。お酒を嗜んで頂いてもいいし、踊り子たちと楽しんで頂いてもいい。望むのであれば、私たちの甘美な肉体と、まぐわう事も出来ますよ。……それこそが、条件です。それさえ満たして頂ければ、ここを安全に通ることが出来ますよ」


 微笑みを崩す事なく、女性は更に大介へと近づく。

 その視線には取引のプロらしい冷静さと魅惑的な色気が混ざり合う。


「なるほどな。そっちの条件を飲めば俺達は、ここを自由に動けるわけだ」


 笑みを深める彼だが、決して視線は逸らさない。

 そんな大介の言葉に、女性は笑みを浮かべて、ただ静かに頷いた。

 その一方でアンナは混乱を隠せず、落ち着かない様子で、自身の足元を見つめている。

 

「こ、こんな場所で一体どうすれば……。そもそも私、女だし……処女だし……男の人が好きだし……」


 独り言のようにアンナは呟くと、その声は小さく今にも消え入りそうだ。


「おいおい、アンナ。世間ってのは、こんなもんだ。これも社会勉強だと思って、ちょっとだけ付き合えよ」


 大きく肩を竦めながら、大介は彼女に歩み寄る。


「勉強って……こんなの、絶対におかしいです! そもそも! こんな場所なんか通らずとも、探せば他に道がある筈です!」


 彼の言葉を聞いてアンナは、目を見開いて文句を吐き捨てた。


「まあ、その理屈は分かる。だがな、現自はそう簡単じゃねぇんだ。ここを通らなきゃ、先には進めない。それがルールってもんだ。それによぉ、あの”お嬢さん方”が今さら俺達を、ただで帰してくれるとは到底思えねぇ。あとこれは個人的な意見にはなるんだが、俺は今から他の道を探すってのは怠くてやりたくない」


 笑みを崩す事なく大介は、それらしい言葉を真摯に言い放つが、最終的には面倒という自分の意見を尊重して彼女に駄々を捏ねるのは辞めるように促す。


 それを聞いてアンナは眉を吊り上げると、何かを言い返そうと口を開いたが、結局黙り込んでしまった。

 そして彼女は震える手を握り締めて、大介の背中を見つめる。


 ――それから一悶着有りはしたが大介とアンナは、この道を渡る為に相手が提示してきた条件を飲んだ。


 しかしアンナが娼婦と遊ぶ事だけは断固として禁じてきた事から、大介は苦渋の決断ではあるが酒だけ嗜む事にしたのである。


 だがその結果彼は、お店で働く女性全員とアンナと自分の呑み代として、高額の十万五千ピンバッジを夢幻桜に支払う事となった。


 そして大介の持ち金が一気に半分ほど減ると、漸く通行許可が下りて二人は夢幻桜を出る。

 すると夢幻桜を出て直ぐに彼の目の前に映る光景としては、鉄板と木の板を組み合わせて作られた無数の建物であり、それは見るからに無秩序に広がる居住区が形成されていると言う感じだ。


 乱雑に組み立てられたバラックや掘っ建て小屋が大量に並び、その間に張り巡らされたロープや旗が風に揺れていた。


 空は鉛色に曇り、橋の高所から吹き付ける風が、肌に冷たく感じられる。

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