第21話 通行料金はアンナさんの体液
「……ふ、不謹慎ですよっ!」
そう言い返す事が、アンナの精一杯の抵抗だった。
そして橋の出入り口部分に二人が差し掛かった頃、まるで検問所のように橋の上に建てられた木造の建物から、一人の二十代前半らしい見た目をした男が笑い声を上げながら姿を現す。
彼の無骨な手製の武器を手にしており、着ている副はボロ雑巾のようなライダースーツだが、その衣類には血痕のような染みが付いている。
だが男の笑い声はアンナと大介を包み込む勢いであり、その声の主は静かに歩みを進めて二人の前に立ち塞がると、銃口を突きつけて光が一切宿らない暗き瞳を晒す。
そのあと彼は、まるで価値の高い宝石を品定めするかのように視界を動かすと、それは二人の頭頂から足の爪先までと随分と念入りなものだ。
しかし相手は男という事で、この世紀末世界では珍しい、傷なしの可愛らしい女性という部分に、大いなる魅力を感じているのか、アンナを見ている時間が果てしなく長く、特に胸部を凝視している様子。
それは、もはや眼力のみで彼女を犯そうとしているような雰囲気すらある。
「よう、ブラッド・パックの兄ちゃん。俺達は見ての通り、通りすがりの旅人だ。ちょいと立て込んだ事情があって、この橋を渡りたいだけだ。俺としても面倒事を起こす気はねぇから安心してくれ。だから、そんな物騒なもんは早く下げてくれねぇか? ほら、見てみろよ。相方なんてビビッて漏らす寸前だぜ」
敵対の意志が無い事を、両手を挙げながら大介は伝えると、横目でアンナをちらりと見た。
「ひいいいっ……やぁぁぁ……。人喰い集団……あっ、あっ、あっ……」
事前に人喰い集団という情報を与えられ、さらには銃口を突きつけられている事から、今現在のアンナは恐怖心が限界値を突破する寸前のようで、空気が抜けるような声を出すと同時に過呼吸を起こす。
「きひひッ、知らねぇのかおっさん? ここでは美少女の体液は聖水として扱われるんだぜェ。だから俺からすれば漏らして貰った方が断然うれしい! はぁはぁ……俺にソイツの体液を飲ませやがれェ! なんなら排泄物でも構わねぇぞ! 俺の中に掬う悪魔を追い出してくれやァ!」
奇怪な笑い声を出しながらブラッド・パックの若き男は口を開くが、どうやら変えには独自の価値観が存在するようで、銃口を突きつけられたまま彼女の下半身に熱き視線を注ぐと、口の端から粘性の高い涎を垂らしていた。
「う”あ”あ”あ”あ”あ”っ”! 変態人喰い集団だ――っ! い”や”ぁ”ぁ”ぁ”! ク”ール”さ”ん”ん”ん”!」
若き男の口から特殊なプレイを彷彿とさせるような言葉が繰り出されて、アンナは全身が一気に鳥肌に包まれると両手で自身の頭を抱えながら叫び散らかし、青白い顔を晒して全力の拒絶反応を見せると即座に大介の背後に隠れる。
「はぁ……やれやれだな。おい、ブラッド・パックの変態若造。あとでコイツの糞尿を瓶に詰めてくれてやる。だから、ここを大人しく開けろ。俺達を安全な状態で中に通せ、わかったな?」
大きく溜息を吐き捨て頭を小さく左右に振る大介だが、相手の発言により既に彼の頭の中には一つの妙案が浮かんでおり、それを速やかに実行する為に親指で、自身の背後に隠れている彼女の事を差すと、何の躊躇いもなく交渉材料にした。
「と”ぅ”ぇ”っ”!?」
突然の大介の糞尿発言により、当の本人でもあるアンナは、眼を剥きだす勢いで驚き珍妙な声を出す。
「……よし、いいだろう。交渉成立だぜェ! ひゃっはー!」
彼の糞尿提供の提案に対してブラッド・パックの若き男は、暫し真顔の状態で硬直して悩む素振りを見せたが、次の瞬間には所持していた銃を下げて親指を突き上げると、それを承諾して全力の喜びを見せつけるかのように些細な踊りを披露する。
「……だがよ、言った事は必ず守れよな。グールのおっさん。もし約束を違えたら……お前を必ず殺して刺身で食ってやるからなァ。けけけッ」
喜びの踊りを辞めると再び真顔を見せる彼だが徐に妙な液体が付着して汚れている右手を差し出して握手を求めるが、それと同時に脅しとも捉えられる言葉を低い声で威圧的に放ちながら笑みを浮かべて不衛生な黄色の歯を晒す。
それに対して大介は面倒ながらも右手を差し出して、相手に異様に見つめられながら固い握手を交わすと、早急に且つ速やかに手を離して汚れた手を、アンナのネオテックススーツに擦りつけて拭い綺麗にした。
「――さぁて、ようこそ、お客人方。俺達ブラッド・パックの縄張りへ。命の保証はしないが生きている間は楽しんでくれやァ。勿論、この橋の上での出来事は全て自己責任だぜェ。まあ俺としては銃の安全装置は、常に外しておくことをオススメするぜェ!」
心の底から二人を歓迎するようにブラッド・パックの若き男は、体の向きを変えて左腕を広げると会釈をするように、僅かに腰を曲げて橋の上での注意事項を述べながら右手で橋に入るように促す。
そして二人は無事に橋に上陸する事が許されると、大介は臆することなく足を進めるが、アンナは終始怯えているようで彼のコートの裾を掴み、背後に隠れるようにして後をついて歩く。
「ぐ、グールさん……。さっきの話ですけど本当に、あの人に私の……その……あれを渡す気ですか?」
橋の上を震えながら歩くアンナは彼の隣に立つと、何処か言いずらそうな雰囲気を全身から醸し出しつつも、自身の手元を弄りながら頬を若干赤く染めて、糞尿の一件を余所余所しい感じで口にした。
「あ? んなわけねぇだろ。あんなのは嘘だ嘘。本気にすんじゃねぇよ。……まあ、もっとも? お前がアイツに感謝していて、あげたいってなら別に構わねぇけどな」
周囲に視線を配りながら歩みを進める大介は、肩を小さく竦めて例の一件が全て嘘である事を言うと、薄い笑みを零しながら軽い冗談すらも交える。
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