第19話 やればできる子、アンナさん
「おいおい、今さら引き返せるかよ。この道を進む事こそが旧東京への最短距離だ。これは、お前が持っているモバイルメイドでも、同じ結果のはずだ。それに”スカージゾーン”なんて看板は何処にも無かったしな。進むしかねぇだろ」
火のついた煙草を口に咥えたまま大介は軽口を叩く。
その焼けた肌に覆われた顔と古びたコートが、彼の武骨で冷酷な印象を更に際立たせている。
だが、その鋭い視線は一瞬たりとも周囲の異常を見逃さない。
右手にはマグナムピストルを持ち、背中にはダブルバレルショットガンを背負われている。
「で、でも! でもですよ! もしここでスカージに襲われたら……っ!」
恐怖心を和らげる為にかアンナは、道中で立ち寄った街で購入した護身用の拳銃を、腰の拳銃嚢から取り出すと、細く色白の肌が特徴的な震える手で握り直す。
「はぁ……。仮に襲われたら、その時は俺がヒーローみたいに、お前をバッチリ助けてやるよ」
軽く肩を竦めながら大介は笑う。その笑みは頼もしいというより、むしろ無神経にすら感じられるものだ。
だが突如――――遠くから不気味な呻き声が響いてくる。
それは人間の声とも、動物の唸り声ともつかない奇妙な音で、骨身に染み渡るような悪寒を伴う。
「な、なに、今のは……?」
掠れた声を出しながらアンナは視線を周囲に動かす。
目元は既に恐怖で潤んでおり、身体が小刻みに震えている。
「おっと、お出ましのようだな」
咥えていた煙草を地面に落として足で踏みつけると、大介は静かにマグナムピストルを構えた。
「おい、ビビっている暇があったら後ろに下がっていろ。まじでヘマだけは勘弁してくれ」
「で、でも……!」
「でもも、クソもねぇ! お前が足を引っ張る気でいるなら、俺は直ぐに逃げさせて貰うぜ!」
マグナムピストルを構えた状態で周囲を索敵しつつ、彼は冗談めいた口調で叫び散らかす。
そして大介の言葉に、アンナは悔しそうに唇を嚙む。
しかし、その表情に浮かぶ恐怖は隠せない。
アンナは一歩、二歩と後退りながらも、必死に銃口を正面に向けていた。
しかし、その表情に浮かぶ恐怖は隠せない。
アンナは一歩、二歩と後退りながらも、必死に銃口を正面に向けていた。
すると次の瞬間――瓦礫の影から、ゆっくりとスカージたちが現れて、その醜い姿を晒す。
かては人間だったと思われる、その姿は今やゾンビさながらの異形だ。
皮膚は赤くただれ、体中に石灰化したような、軽い突起が生えている。
その目には知性の光がなく、ただ敵意だけが満ち溢れているようだ。
「ひっ……!」
その場に屈み込むと、アンナは肩を震わせながら、今にも泣きだしそうな声を漏らす。
「おいおい、早速ダウンかよ。ったく……お姫様抱っこでも、ご所望か?」
片肩を上げながら、大介は皮肉を飛ばしつつ、一発目の引き金を引いた。
マグナムピストルの轟音が辺りに響き、最前列のスカージの胸が粉々に砕け散る。
「うっし、一匹目撃破。次はどいつが逝きたいんだ?」
即座に視線を周囲に配り、一定の間合いを確保すると、彼は次の狙いを定めるべく精神を研ぎ澄ます。
そして大介が発砲して一体のスカージを倒した事により正式に戦闘開始の合図が下されると、相手の群れは奇声を発しながら怯むことなく生存者を襲うべく突進を仕掛ける。
スカージたちの動きは鈍量だが、その数の多さが圧倒的に脅威だ。
「おい、アンナ! ガタガタと震えていないでアイツらの足を狙え! 足を止めりゃ、こっちにも勝機は生まれる!」
「ふぇっ!? わ、私に……でで、で、できますでしょうか……」
「出来る出来ないの問題じゃねぇ! やるしかねぇんだ! さっさと撃て! このままだと俺達もアイツらみたいに結晶人間の仲間入りだぞ!」
依然として腰を低くして怯えている様子のアンナに対し、大介は怒声を吐き捨てると何度も引き金を引いて、眼前に迫り来るスカージたちの胸部を撃ち抜き次々に殺していく。
そして大介は横から迫り来る二体のスカージを視界の端で捉えると、歴戦の兵士のように即座に次の標的へと狙いを定めてマグナムピストルの引き金を引いた。
しかし、マグナムピストルから弾が放たれることはなく、ただ撃鉄が空薬莢の尻を叩く虚しい音だけが鳴る。
つまり彼は、ここぞという所で、弾切れを起こしたという訳だ。
そして大介の銃撃から運よく逃れる事の出来た強運を持つ、二体のスカージは奇声を発しながら彼へと急速に接近すると、軽く飛び跳ねて襲い掛かる。
だが次の瞬間、先程まで彼の足元で屈みながら震えていたアンナが、眉を八の字にさせて弱気な表情を見せつつも立ち上がると、全身を小刻みに揺らしながら拳銃を両手で構えて引き金を数回ほど引いた。
すると彼女の拳銃から放たれた弾丸は、奇跡的に大介に飛び掛かるスカージ二体の胸部を撃ち抜き、彼らは鈍い呻き声を上げながら地面に崩れ落ちる。
「おい、まじかよ! やればできるじゃねぇか!」
自身の目の前で二体のスカージが地に伏せた事により、大介は両腕を広げながら彼女の銃の腕前を褒めると、右足でスカージたちの頭部を踏みつぶして完全なる止めを刺した。
そして彼は即座に懐に手を入れて新品の弾を取り出し、流れ作業のようにマグナムピストルへと装填していき、次々に絶えず襲い掛かりに来るスカージたちを撃ち抜いてゆく。
その狙いは正確無比で、頭部や胸を容赦なく撃ち抜く度に、スカージたちは次々と倒れて地に伏せる。
しかし、それでもスカージたちの数は減る気配を見せない。
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