第17話 焼肉ぱーてぃー
「おい、アンナ。何処も噛まれてねぇか?」
「は、はい噛まれてません……大丈夫です……。ですが貴方のせいで、怖い目に遭った事は、絶対に忘れませんからね!」
大介が振り返りながら言うと、崩れかけた陳列棚の横で座り込んでいたアンナが顔を上げる。
彼女の顔は汗で濡れており張り詰めた神経が、ようやく緩んだのか僅かに涙の痕も見えた。
そんなアンナの声は震えていたが、それでも彼女なりの強がりを見せようとしている様子。
「まあ、そんなに文句を言うなよ。結果的に俺達は勝った。そうだろ?」
肩を竦めながら大介は、床に散乱するフェラル・ゴウルの死体を、軽く蹴飛ばして進んだ。
「勝った? これの何処が勝ちなんですか!? こんなのは、ただの虐殺ですよ!」
露骨に怒りを露わにしながらアンナは、床に転がるフェラル・ゴウルの腐敗した腕を指さす。
しかし彼女は、それを目にした途端、顔を青ざめさせて手で口を押える。
「……おいおい、勝利の後には祝うもんだぞ。豪華な飯を食って、酒を飲んでな。それが戦士ってもんだ」
倒れている陳列棚に積まれていた古びた鍋を徐に手に取ると、軽く埃を払いながら大介は不敵な笑みを浮かべて、それを正常に立つ近くの棚へと置き直す。
「さて、パーティーの準備だ」
フェラル・ゴウルに体の半分を齧られて、肉片と化している店主の亡骸を踏み越え、大介はカウンターの奥へと進むと、そこは個室のような空間があり奇跡的に、まだ動作している冷蔵庫が目に入る。
自身の顎下を数回ほど撫でた後、彼は躊躇いなく冷蔵庫を開けて、保存状態の良さそうな肉を取り出す。
さらには塩漬けのステーキ用の肉の塊や、細切れ状態のベーコンも同時に見つかる。
それらは戦前の食肉のように、丁寧に梱包されてラベルが貼られているが、ブランド名が書かれている部分は色褪せており読めない。
「おい、見ろよ。今日は御馳走だぜ」
見るからに美味しそうな食料を手に入れると、大介は個室から出て肉を誇らしげに掲げた。
「……ねぇ、こんな所で本当に食べる気なんですか? 貴方はサイコパスですよ! ここには血と腐敗の臭いが、いっぱい充満していると言うのに!」
床に落ちていた綺麗な布を拾い上げて、肌や服に付着した返り血や肉片を拭き取りなながら、アンナは眉間に皴を寄せる。
「だからこそだ。この血と腐敗の臭いに慣れるってのも大事なスキルだぞ。それと飯が食えるうちは食っておけ。腹が減ったままだと判断力が鈍る。……あと戦闘後の食事は、普段のものと比べて、一段と格別だぞ」
肉を抱えた状態でマーケット内の隅に足を進めると、そこに置かれている陳列棚から適当に簡易コンロを取り出して、埃を払いながら諸々を準備して着火の有無を確認した。
すると、この簡易コンロは使用可能なようで、青白い炎が勢いよく吹き上がる。
「素晴らしい! これで最高のランチが味わえるな。よしよし、そうなれば後は場所だが……あの個室が丁度いいかも知れん。ここだと座る場所も、ままならねぇからな」
簡易コンロの状態を把握した後、大介は足元に落ちていた焼肉用の鉄板を拾い上げ、大量の肉とコンロと鉄板を抱えて急ぎ足で個室空間へと戻ると、最高のランチを堪能する為に場を整え始めた。
彼は丁度いい場所に大型で木製の机を設置すると、その上には適当な場所から搔き集めた人数分の皿や箸や肉や炭酸飲料や、焼肉を最高に楽しむ為に必要な簡易コンロなどを乗せる。
机の近くには長椅子を設置する事で寛ぎながら食事を楽しめるようにすると、大介が座るよりも先に疲労の色を顔に強く滲ませるアンナが颯爽と横から現れて腰を掛けた。
そして彼女は長椅子に腰を落ち着かせると大きく溜息を吐き捨て、矢継ぎ早にネオテックススーツの上を乱暴に脱ぎ捨てると、僅かに酸味の効いた刺激的な匂いが室内に漂うと同時に、汗ばんで染みが浮かぶ無地の襯衣と自身の豊満な胸を大胆に晒す。
そんな自由奔放なアンナの行動に対して大介は、室内に籠る酸っぱい匂いを外に出すように、両手を広げて大きく仰いで空気を循環させると、無駄に発育のいいネオテックスガールの胸部を眺めた。
「……さて、些細な問題はあったが、これで全ての準備は整った。今からの時間は肉を焼いて、命のガソリンを補充しようじゃねぇか」
指を鳴らして御馳走の時間が訪れた事を主張すると、大介は飛び跳ねるようにして長椅子へと腰を落ち着かせ、上機嫌な態度を晒しつつ箸を手に取る。
――そして焼肉という名の最高の時間が始まりを告げ、一瞬にして周囲が香ばしい肉に匂いに包まれ大介が調理を進める中、僅かに疲労から回復したアンナが室内の物色を行うと、部屋の奥から埃を纏わせた古びたテレビとDVDプレイヤーを発見した。
彼女は慣れた手付きでコンセントの状態を確認してから、コードを接続してみるとテレビは低い唸り声を上げて、ぼやけた映像を映し出す。
「おい、まじかよ! これは面白くなってきやがったな! このランチには粋な事に、映画までついてきやがるってか!」
絶妙な焼き加減を維持しているステーキ肉の事を、頭の片隅に置きながら大介は長椅子から立つと、テレビのリモコンを探すべく室内を歩き回る。
するとリモコンが床に落ちているのを発見して拾うと、彼は迷うことなく再生ボタンを押して戦前の娯楽映画が画面に現れると満足気に頷き、再び腰を長椅子に落ち着かせた。
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