第14話 グールさん発作
「……ああ、客人か。いらっしゃい。何が欲しいんだ?」
無造作に足を組み、彼は煙草の煙をくゆらせている。
不愛想な店主の顔に浮かぶのは、警戒心と疲労の色だ。
「ラジカル・サプレッサーを幾つか。それと.三五七マグナ弾と、スラッグ弾も少し買おうか」
低い声で問い掛けられて大介は、カウンターに近づきながら短く言い放つ。
「ラジカル・サプレッサーは、一本で五百ピンバッジだ。弾薬については、一発で三百ピンバッジだ」
一瞬だけ彼は目を細めた後、背後の棚から埃を被った金属製の箱と木製の箱を、それぞれ一つずつ引っ張り出した。
金属製の箱の中には変色した液体が満たされている注射器が幾つも収められており、木製の箱の中には色褪せて妙な臭いを放つ数多の弾薬が詰め込まれている。
「はぁ!? 高すぎるでしょ! ちょっとちょっと店主さん! それは流石に足元を見過ぎですよ! 有り得ないって!」
大介の隣で棒立ちしていたアンナは、値段を聞いた時点で眉を顰めていたが、品物の状態を目の当たりにした瞬間に、顔を真っ赤にさせて声を荒げた。
「おいおい、店主さんよ。今回ばかりは俺も、この馬鹿の意見に賛成だ。こんな血尿みたいな色をしたラジカル・サプレッサーが五百ピンバッジだと? ……ったく、クズみたいな建物に住んでいるゴミが、そんな値段を吹っ掛けるとか正気か?」
最初こそ大介は、微笑みを浮かべながら店主の言葉を聞き流していたが、突然笑みが消えると代わりに目が冷たくなり鋭くなる。
「文句があるなら買わなくていい」
腰の拳銃嚢に収められている拳銃へと静かに手を掛けて店主は僅かに体を前に乗り出した。
「えっ、ちょ、あの! 待って待って! なに、この雰囲気! 殺し合いとかしませんよね!?」
喧嘩を通り越して、いきなり命の奪い合いに発展している状況の変化に、アンナは完全についていけないようで膠着している様子。
次の瞬間、大介は背中の拳銃嚢からダブルバレルショットガンを引き抜いて、カウンターに叩きつけた。
轟音が店内に響き、アンナは思わず悲鳴を上げて、その場に屈み込む。
「いやいやいや、嘘でしょ!? 落ち着いて下さいよ! 二人とも冷静に話し合えば解決する筈です!」
「冷静に話し合えだ? はっ、そいつぁ無理だな。何故なら、こいつが聞く耳を持っていれば最初から、こんな値段吹っ掛けてねぇからだ」
身を縮こませて震える彼女に対して大介の声は冷静そのものである。
そしてカウンター越しに、店主と彼が互いに、一歩も譲らない睨み合いが続く。
だが次の瞬間、一発の銃声が店内に響いた。
大介のダブルバレルショットガンが火を吹き、店主の手からは拳銃が零れ落ちて床に転がる。
そのあと店主は歯を食いしばりながら強く胸を抑え、カウンターから崩れ落ちて床に倒れると、掠れた声で何かを呟きながら息絶えた。
「きゃああああああっ!」
咄嗟に両手で自身の頭を押さえてアンナは叫び散らかす。
「ちょちょ、ちょっと! 何をしているんですか貴方は! また人を殺しましたね!? 本当に殺しちゃいましたね!?」
店主の腹部には指三本分の穴が空いており、そこから大量の血が流れ出ていく瞬間を直視した事で、彼女は完全に錯乱状態へと陥る。
だが大介はアンナの言葉を無視すると、無言のままカウンターを静かに乗り越えて、棚に置いてある物を慎重に吟味すると、埃を一切被っていない金属製の箱を見つけて担ぎ上げた。
そして金属製の箱を開けて彼は中から、赤黒く発光している液体が容器に満たされた一本の注射器を取り出すと、それを自身の腕へと無造作に突き立てる。
「よし、これで買い物は完了だ」
満足気に笑いながら大介は、金属製の箱を抱えて店内を見渡す。
「完了って……。そんなの買い物じゃないでしょ! なんで普通に物を買えないんですか!? なんで話し合いで解決しようとしないんですか!?」
若干の涙目の状態で、アンナは彼に詰め寄る。
しかし大介は気にも留めていない様子だ。
「あー、無知なお前に良い事を教えてやる。まあ、人生の教訓にでもしてくれ。こんな世界で、話し合いで解決しようとする奴は、まず生き残れねぇ。次の瞬間には鉛玉が眉間に突っ込んで、お前の脳を掻き乱して後悔させてくれるだろうよ」
彼女の眉間を空いている手で軽く小突いた後、大介はマーケット内を散策するように歩き始める。
「私……本当に、こんな世界でお父さんを探せるんでしょうか……」
足元に転がる店主の死体を一瞥して、アンナは唇を震わせながら彼の後をついて行く。
だが二人が場を離れた瞬間、死んでいた筈の店主が突如として動き出すと、
「がはっ……! あの野郎……この俺を撃ちやがったな……。絶対に許さねぇ……! ぶはっ……はぁはぁ……。くそッ……このまま俺は死ぬだろうが……アイツらも道連れだ……! 商品の代金は、あの世で払って貰うぞ……!」
口から何度も血を吐き捨てながら、憎しみを込めた言葉を晒し大介の背を睨む。
そして血まみれの手を衣嚢に入れて、そこから一個の小型のリモコンを取り出すと、最後の力を振り絞るかのように、ボタンを強く押し込み不敵な笑みを浮かべてから息絶えた。
すると次の瞬間、微かな電子音が店内に鳴り響き、直後にマーケットの奥から不穏な機械音が断続的になり始めた。
「なんだ……?」
ベル・サイダーが置かれている棚を物色していた大介だが、謎の音が耳に届いて手を止めると、すぐさま音の発生源を探るように周囲に顔を動かす。
――だがその時、激しい痛みが彼の全身を襲う。
喉の奥からは焼け石を飲まされたように、燃え盛るような熱が込み上げ、視界が急速にぼやけていく。
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