表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/102

第13話 薄汚れたマーケット

「リバイタロンって……」


 点滴のラベルを見て、アンナは弱々しく呟く。


「ああ、そうさ。お前も当然知っているだろうが、戦前の賢い奴らが作ったおクスリだ。これを使えば、お前の体に溜まった放射能も、スッキリお掃除できるってわけだ。……まあ、強いクスリには必ずと言っていいほど副作用がつきものだが、そんなもんどうでもいい事だろ。大事なのは死ぬよりマシって所だな」


 点滴バッグを軽く振りながら、大介は不敵な笑みを浮かべる。

 すると彼女は迷いの表情を浮かべながらも、彼の言葉に逆らう力は残されていない様子。

 そしてアンナは静かに、自身の腕を大介の前に差し出すと、震えながらも目を閉じた。


「よし、ぱぱっと済ませちまおう。だらだらやっても、しゃあねぇからな」


 近くに落ちていた廃材を利用し点滴バッグを吊るして準備を整えると、慣れた手付きで彼は針を彼女の肌に刺し薬液が体内に流れ込んでゆくのを確認する。


「おい、痛かったか? もし痛かったのなら、もっと苦痛に歪む顔を見せてくれ。盛大に笑ってやるからよ」

「……痛みは感じません。でも……これで本当に良くなるんですか?」


 大介の皮肉交じりの言葉に対して、アンナは弱々しく首を横に振るう。


「ああ、間違いなく助かる。というより、こんな所で死なれたら俺が困る。例えグール化させても、お前を生かしてやるからな。。……さて、これ以上は文句を言わずに大人しくしていろ。せっかくのお薬が無駄になるだろうが」

 

 淡々と言い放つと大介は点滴が終わるのを待ち続けながら辺りを見渡す。

 ――そして暫く時が経過して、リバイタロンが体内に吸収されるにつれ、アンナの青白い顔には徐々に血色が戻り始める。


 副作用による胸の苦し気な動きも次第に穏やかになり彼女の呼吸は安定してゆく。


「はぁはぁ……これがリバイタロンの効果……?」


 驚きと感謝が入り混じるような声で彼女は言った。


「だろ? 俺が嘘を言うと思ったか? まぁ、そんな薬も無限にあるわけじゃねぇ。次からは、もっと気を付けろ。お前が死ぬ事で俺の旅の邪魔をするのは許さねぇぞ」


 そう言いながら大介は大袈裟に肩を竦めながら冷笑を浮かべた。


「……あ、ありがとうございます」


 力なく笑みを浮かべながらアンナは頷いた。


「礼なんていらねぇよ。ただ俺の負担を減らせってだけだ」


 素っ気ない態度で彼は答えたが、その視線には何処かしら安堵感のようなものが見え隠れしている。


 その後、点滴バッグに満たされていたリバイタロンを全てアンナが服用して空になると、それを片付けてから二人は近くの崩れかけた建物(工場)へと身を寄せて一夜を過ごす事にした。


 既に時刻は真夜中である事から、建物の中は暗く崩壊した壁の隙間からは、冷たい風が吹き込んでくる。

 床には瓦礫が散らばり、戦争の爪痕が色濃く残されていた。


「こんな場所でも俺達からすれば豪華なホテルだな」


 乾いた声を漏らしながら大介は、その場に腰を下ろす。


「確かに、そうかも知れませんね。それに……ここなら少しは安全そうです」


 震える体を毛布で包み込みながらアンナは小さく呟いた。


「ふん。まぁ、せいぜい寝られる時に寝ておけ。明日も汚染まみれの道を歩く事になる。そいつに体を慣らす事が、お前の当面の課題だな」


 一応の用心の為に腰のホルスターから、徐にマグナムピストルを引き抜くと、回転弾倉の中に込められている弾を確認してから、それを右手に持ちながら大介は壁に背を預けた。


 そうして二人は目と口を閉じて深い眠りに就くと、外では風が唸りを上げており時折通り雨も降るが、大介とアンナは一度も途中で起きる事なく、時間は瞬く間に過ぎてゆく。


 ――そして二人は崩れかけた汚い建物の中で朝を迎えて起床を果たすと、早々に朝食や身支度を済ませて再び東京を目指して出発した。


 濁った曇天が広がる空の下、アンナと大介は荒れ果てた地平線を、何時間も掛けて歩き続けてゆく。

 時折、吹き付ける冷たい風が砂塵を巻き上げ、二人の道を遮る。


 遠くに見える廃墟のような建物群、その中に掲げられた看板が風で静かに揺れているのが見えた。

 文字は既に風化して読めないが、その独特な形状と色使いから、それがマーケットであることは明らかである。


「もう、限界……。もっと水を……持ってこればよかった……」


 その場に立ち止まりアンナは、息を荒く吐きながら胸元を押さえた。

 彼女の声は明らかに苛立ちと疲労に満ちている。


 その顔は汗と汚れに覆われて、かつての清潔感は影も形もない。

 それでもアンナの艶やかな髪が僅かに揺れる度に、荒涼とした風景の中で異質な美しさを放つ。


「あそこにマーケットがある。そこで諸々の物資を補給するぞ」


 大介が指差した先には、壊れかけの中規模のホームセンターのような建物が、ぽつんと存在していた。

 マーケットの名前が書かれていたであろう看板は歪み、ペンキが風化したり剥がれたりして文字は読めない。


 建物の壁には所々で銃弾による穴が空いており、何度も敵対勢力から襲撃を受けた事が窺える。

 

「補給って……。あんな錆びれた建物に何があるんですか? っていうか入ること自体、超怖いんですけど!」


 目を見開いてアンナは彼を睨んだ。

 しかし大介は彼女の視線を軽く無視すると、淡々と足を進めてマーケットへと近づき臆することなく、後付けで設置されたであろう木製の扉を堂々と開け放ち中へと入る。


 すると店内は薄暗く、埃を含んだ空気が漂う。

 商品の棚は倒れ掛けており、缶詰や薬品類が乱雑に並べられていた。


「なにこれ……見た目も臭いも最悪じゃないですか! こんなとこで本当に大丈夫なんですか……?」


 口元を手で押さえながら、アンナは辺りを見回し、その場で小さく悲鳴を上げる。

 しかし暫く二人は店内を歩き回るとカウンターを見つけ、その奥には一人の低身長の中年男性(店主)が、朽ちかけの木製椅子に腰を落ち着かせていた。

最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。

宜しければ評価とブックマーク登録をお願い致します。

活動の励みとなり更新が維持出来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ