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核戦争から二百年、人類に嫌われるグールの俺だが、なぜか少女にだけ懐かれたので最後まで面倒を見ることにした  作者: R666
第二章

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第12話 リバイタロン

「おお……す、すごい……」


 自身の横腹に起きた魔法のような出来事に、彼女は傷口に触れながら目を丸くして呟いた。


「当たり前だ。これが戦前の技術って奴だ。これを俺達が使いこなせる限り、そう簡単に死にゃぁしない。……まあ、たぶんな」


 彼女を見下ろしつつ両腕を組みながら大介は、戦前の技術が今の終末世界に一体どれだけの影響を、及ぼしているのかを話すと静かに目を細める。


「だがな、これだけは覚えておけ。怪我をしたのなら、さっさと俺に報告しろ。怪我の影響で後々の旅に支障をきしたら俺が困る。お前には……まだ利用価値が充分にあるからな」


 先程まで横腹で遊んでいた血の付着した人差し指を、アンナの顔に強く突きつけながら大介は、些細な愚痴を吐き捨てるが不愛想な態度を崩す事はない。


「利用価値……ですか」


 ジェネリラムネの効果で傷が癒えると冷静な思考を取り戻したのか、彼女は彼の人差し指を見て自身の体で遊ばれた事に怒りの感情が僅かに湧いたのか、そう呟きながら目付きを鋭くさせて視線を投げた。


「ああ、そうだ。なんせ俺は慈善家じゃないんでね。必要だから助けたに過ぎん。だから、お前から利用価値が消えれば、今回みたいに優しく助ける事はない」


 薄い笑みを浮かべながら言い切ると、大介は再び建物内の物色を始めるように足を動かして、比較的に損傷が軽い戸棚や衣装棚など、物資を保管できそうな場所に手を伸ばして強盗のように漁る。


 それから暫くして彼は建物内の全てを探し尽くして、缶詰食や飲料水を数個ほど手に入れる事ができると、


「おい、そろそろ出発するぞ。いつまでも呑気に休憩してんじゃねぇ」


 うたた寝をしていたアンナへと近づき、軽い蹴りを横腹にくらわせて行動開始を促す。


「痛……っ!? ちょ、ちょっと! 急に何をするんですか! もっと優しく起こして下さいよ! 暴力で起こすとか野蛮人ですか! アホ!」


 横腹を蹴られた事で反射的に飛び起きるとアンナは、すぐさま顔を大介へ向け何時もの軽い声色で文句と罵声を吐き捨てた。


「うるせえよ、さっさと立って動け。こんな所で俺は夜を迎えたくねぇ」


 彼女の言葉を正面から浴びて彼は気怠い表情を晒すが、それだけ言うと早々に足を進めて建物から出てゆく。


「あーん……もうちょっとだけ、ゆっくりしていたかった……」


 旅の影響で全身に疲労が蓄積されているのか、そんな言葉を呟きながらも横腹の負傷箇所を手で軽く押さえ、アンナは力を振り絞り立つと置いて行かれないように、大介の後を追うようにして建物から出る。


 そして二人が歩き始めて数時間が経過すると日は完全に沈み、灰色の雲に覆われた空が更に暗闇を纏い始めていた。


 微かな月明かりが荒廃した建物の影を伸ばし、廃墟の街を不気味な静寂で満たしている。

 時折、吹き抜ける風が砂埃を舞い上げて、鼻腔に不快な鉄と腐敗の臭いを運んできた。


 荒れた大地に染み込んだ放射能は、この世界に生きる者にとって、死となり合わせの現実である。

 大介は先頭を歩き、地面に落ちる瓦礫を踏み締める度に、靴底が擦れる音が微かに響く。


 その背後には明らかに足取りの重たいアンナがつていた。

 彼女は肌が段々と青白くなり、額には汗のようなものが滲んでいる。

 歩みを進める度に息が乱れ、その口から漏れる微かな喘ぎが、異常を訴えていた。

 

「はぁ……ったく、今度は一体なんだ? 傷は治したろ?」


 足を止めて振り返り眉を顰めながら大介は問い掛ける。


「だ、大丈夫です……。気にしないで……ください……」


 擦れた声でアンナは応えたが、その言葉とは裏腹に体が傾き、膝が崩れ落ちそうになった。


「おい。俺は長年生きてきたが、そんなミュータントみたいな顔色をしている奴に、大丈夫なんて奴は一人も居なかったぞ。……お前、さては地上の空気にやられたな?」


 舌打ちをしながらも大介は彼女の腕を咄嗟に掴んで支えると、顔を近づけて状態を伺い一つの可能性へと辿り着く。


 そしてアンナは震える唇を噛み締めて頷いた。

 彼女は長い間、地上の汚染から隔離された施設で生活をしていたため、この世界の毒気に対して全くと言えるほど耐性がないのである。


 銃弾での損傷や数日間の移動による影響で、アンナの体は放射線に蝕まれ既に限界に近いのだ。

 

「はぁ……ったく、実に面倒な奴だな。これだから地上に慣れてねぇ、地下暮らしのガキは困るんだよ」


 大きく溜息を吐き捨て悪態をつきながらも、大介は一旦地面に彼女を座らせると自身も、その場に屈み込んで右手を懐に入れ、医療用のポーチを取り出して、そこから一本の点滴セットを取り出す。


 その透明な点滴袋には『リバイタロン』と記されたラベルが張られていた。

 この終末世界を迎えた日本で生き延びるなら、放射線との戦いは避けられない。


 浄化された水は貴重で、手に入る食品も殆どが、放射線に汚染されている。

 このような過酷な状況下で頼れる存在が『リバイタロン』だ。


 リバイタロンは放射性物質と結合し、それを体内から除去する事で、放射線による害を緩和する画期的な薬品である。


 しかし、その過程は決して快適ではない。

 服用後、頭痛や吐き気、胃の不快感といった副作用を伴う事が多いのだ。


 ――――とは言えグール化や、それ以上の悲惨な結末を避ける為には、欠かせない選択肢である。

 点滴として投与されるのが一般的だが、その希少性から希釈して使われる場合も多い。


 戦後の混乱期には、リバイタロンの価値が急上昇し多くの生存者が、その効果に頼りながら日々を生き抜いてきた。


 この薬品は、まさに戦前技術の奇跡の一つである。

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