第10話 街を出て行くグールさんとアンナ
「これが英雄気取りのV.R.Lの末路か。滑稽なもんだな」
冷ややかな口調で大介は言い放つと静かに肩を竦める。
そのあと彼は徐に、ダブルバレルショットガンを取り出して構えると、緩やかに彼女の頭部へと狙いを定めた。その姿勢に一切の迷いはない。
「お前如き、下劣なグールに、我が屈すると思っているのか!」
荒い息をつきながらも、ナターシャは目を尖らせて睨み返す。
「屈するか、どうかなんて興味ないな。ただ、少し黙っていろ」
一歩前に進み大介は傘をさすようにダブルバレルショットガンを傾けると、引き金に指を添えて何の躊躇いもなく空に銃口を向けて発砲を行う。
そんな彼の声には冷たさと共に、何処か皮肉めいた軽さが含まれている。
しかし大介が何気なく周囲を見渡すと、街の住民たちが少し離れた位置の建物に身を潜めつつ、武器を抱えながら瓦礫の隙間から今の状況を見守る光景が映った。
ある者は自警団の腕章を付け、またある者はただの市民である。
彼ら彼女らの表情には、恐怖と怒りが入り混じるようだ。
「おい、グール野郎!」
離れた位置から唐突に、誰かの怒りの声が轟く。
「俺達の大事な街で、なにしてくれてんだよ! この街をスクラップにする気かッ!」
続け様に別の者の叫び声が周囲に響き渡ると、矢継ぎ早に一発の銃声が鳴り渡る。
その発砲音と共に、一発の弾丸が大介の足元を掠めていくが、彼は微動だにしなかった。
そして大介は、その場で軽く溜息をつく。
「ごちゃごちゃと、うるさい野郎たちだな。そんなお前達には、もっと物事を分かり易く、説明してやろうか? ああ、それは実に簡単なことだ。例えば……そう、こうやって鉛玉を頭部に撃ち込んでやれば、万事解決ってな」
そう呟きながら大介は、ダブルバレルショットガンから空の薬莢を排出すると、弾薬帯革から新品の弾を取り出して慣れた手付きで装填し、そのまま振り返りざまに威嚇の意味を込めた射撃を行う。
ダブルバレルショットガンの銃口から二発の弾が飛ぶと、それは一人の若き男が被る帽子に命中して穴を空け吹き飛ばすが、それと同時に野次馬たちは一斉に口を閉じると再び静寂が訪れた。
「くっ……! 命を取るなら、さっさとやればいい! だが……決して忘れるなよ! 我を殺るという事はV.R.Lと言う、組織全体を敵に回す事になるという事を!」
彼が街の人を銃撃した瞬間を見ていたナターシャの瞳には、屈辱だけでなく恐怖の色も段々と滲み始めるが、既に覚悟はできているのか衝動のままに言葉を捨てる。
「あー、それは脅しのつもりか? すまないが、それに意味はないぜ。そんな言葉には慣れている。なんせ俺は古株のグールだからな。命のやり取りと、大抵の面倒事は、ダチみてぇなもんだ」
ナターシャの虚勢のような態度は、長年生きてきた大介からすれば、可愛いものであり小さく肩を竦めた。
「……だがまぁ、こうする事がお前の望みってなら、俺は喜んでそれを叶えてやるぜ?」
再びナターシャへと近づく為に歩みを進めると、その顔を覗き込みながら大介は、ダブルバレルショットガンから空薬莢を捨て、新たな弾を即座に装填する。
そして弾を込め終えると大介は、ダブルバレルショットガンの銃口を彼女の顔に押し付けた。
その冷たい金属の感触に、初めてナターシャは目を細める。
大介はダブルバレルショットガンの引き金に添えた人差し指に、徐々に力を込めて彼女の最後の瞬間を、じっくりと己の二つの目に焼き付けようとした。
「待って! これ以上、殺さないで! グールさん! 戦いは終わったんです! もう、やめましょうよ!」
先程まで物影に身を潜めて隠れていたアンナが、突如として大胆に姿を現すと彼の背後から声を上げる。
そして大介は静かに振り返ると、小さく溜息を吐いて気怠い感じでアンナを見た。
彼女は雨に濡れながらも、必死に彼へと駆け寄る。
髪が頬に張り付き、その顔には明らかに恐怖と困惑が浮かんでいた。
「こんなことに、一体何の意味があるんですか! これ以上、誰も死ぬ必要はないと思います!」
アンナの声や体は大きく震えていたが、それでも敵の命を守る為に両腕を広げて大介に抗議する。
「……ふん、やれやれだぜ。お前の命は、この馬鹿のおかげで繋がったようだな。いいか? 今日から毎日こいつの顔を思い浮かべて、生きている事に感謝して寝ろ。分かったな」
一瞬だけ彼女を見つめると、彼は脱力した感じで首を左右に振りながら銃を下げるが、それと同時にナターシャを見下ろしながら呟く。
それに対してナターシャは何も言わない。
ただ、濡れた髪の隙間から鋭い目で彼を睨み続けていた。
その目には、まるで復讐の誓いが刻まれているかのようである。
「おい、行くぞ。こんな血の気の荒い連中が多い街に長居は無用だ」
ナターシャに背を向けるようにして歩き出すと、大介はアンナに声を掛けながら、ダブルバレルショットガンを背中の拳銃嚢に戻す。
そしてアンナは小走りで彼に近づいて傍に立つと一緒に歩き始めた。
そのあと二人は小雨が降り注ぐ中、淡々と足を進めると今にも発砲してきそうな程に、眼を充血させながら息を荒げて銃を抱える、多くの住民たちに見守られながら、堂々たる立ち振る舞いで街を出てゆく。
そして二人が住民の怒りを受けて工業地帯の旧駄知町を出て暫くすると、時刻は夕方頃となり小雨は完全に止んで空は鉛色の雲のみとなり、周囲には終末世界特有の荒れ果てた風景が続いていた。
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