第9話 汗まみれの女隊長は下着姿
「ほう、やるじゃねぇか。中々に悪運が強い奴だ」
葛葉を視界に映して大介は瞬時に状況を理解すると、恐らく彼は銃弾の当たり所が良くて他の者とは違い、無事に生存を掴み取る事が出来たのではと考えて薄い笑みを浮かべる。
しかし、そんな葛葉の瞳には迷いの色が明らかに浮かんでいた。
「佐々木ジュニア・ガード! 何をしている! さっさと撃て! 殺せ!」
瓦礫や廃材を使い忍者のように段々と、自身の元に近づいて来る大介を警戒しながらも、ナターシャは怒声を放ち命令を飛ばす。
すると葛葉は何処か躊躇しながらも、銃口を確実に大介へと向けた。
けれど、そんな彼の手は震えており、先程のマグナムピストルの一件が恐怖として残り続けている様子。
「おいおい、勘弁してくれよ。そんなアル中のような手で俺を狙えるのか? ボーイ」
手が生まれたての小鹿のように震えている彼を一瞥して、大介は冷笑を浮かべると両手を挙げて場に立ち尽くす。
だが次の瞬間、大介は近くに転がる破損した鉄板を蹴り上げて葛葉の視界を遮る。
反射的に葛葉は情けない声を出しながら散弾銃を発砲するが、放たれた弾丸は全て鉄板に当たり甲高い音を立てて弾けた。
そして手を震わせた状態での発砲により、散弾銃の反応に体が負けて大きく姿勢を崩すと、葛葉は背中から地面へと倒れて、後頭部を強く打ち付け失神状態に陥る。
その間に大介は一個の錆びついたドラム缶へと近づくと、それを躊躇なく横に倒して転がしながらナターシャへと向けて放り投げた。
「ちっ! 一体何のつもりだ!」
転がるドラム缶に反応してナターシャは、ガトリング銃を構えると引き金に指を掛ける。
そして引き金を引くとガトリング銃は回転し、銃口からは数多の火花が撒かれ、無数の弾丸が放たれた。
彼女の元に迫り来るように転がるドラム缶に、銃弾が直撃して貫くと中身の液体が漏れ出す。
「へっ、チェックメイトだぜ。ブリキの女王さんよ」
ドラム缶から流れ出した液体が、粗悪なアルコール系の燃料である事は、周囲に漂う蒸留酒のような不快な臭いで分かり、大介は口角を上げるとマグナムピストルを構え、狙いを液体の水溜まりへと定め静かに発砲を行う。
「おい、アンナァ! 伏せろ!」
弾丸がアルコール系燃料の水溜まりに直撃すると同時に、大介は叫ぶと自身も近くの瓦礫に身を潜めた。
そして次の瞬間、液体が発火して刺激臭のような痺れる空気が立ち込めると共に、ドラム缶に引火して大爆発を起こすと、燃え盛る炎や熱風がナターシャを襲う。
「く”あ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”!」
炎の波が一瞬にして、彼女の全身を包み込むと、炎の中から悲鳴だけが轟く。
「くっ……! わ、我を甘く見るな! 下等な、グール!」
尋常ではない高熱に晒されて、パワーアーマーの一部が溶け落ちようとも、それは尚も稼働を続けており、燃え盛る炎の中を手で搔き分けながら、ナターシャは怒声を吐き捨てつつ確かな足取りで姿を現す。
そして彼女は炎の中から完全なる脱出を果たすと、そのパワーアーマーは一部が溶けているのは無論のこと、完全に焦げ付いている個所すらあるが、致命的な損傷は何処にも見受けられない。
つまりナターシャは驚異的な耐久力を誇るパワーアーマーに依然として身を守られている。
「ちっ……! やっぱり硬いな! くそッ!」
マグナムピストルを即座に構え直すと大介は、冷静にパワーアーマーのジョイント部分を狙う。
そして経験に裏打ちされた正確な射撃が、ナターシャの膝関節部分に命中した。
「ぐあぁぁっ……!」
パワーアーマーの動作が一瞬だけ大きく鈍り、彼女は苦悶とした声を喉から鳴らす。
だが、その一瞬の隙を突くように大介は急いで駆け寄り、ホルスターからダガーナイフを引き抜き硬く握り締めると、パワーアーマーの首元に集約する各部位を制御するケーブルに狙いを定め、一点集中型で刃を刺し込み様々な線を断ちながら引き抜く。
「お”の”れ”……! グール風情か”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”!」
パワーアーマーの各部位を制御する大事なケーブルが両断された事で、レジェンドコアからのエネルギー供給が完全に停止するとナターシャは、自身の喉が潰れる程の勢いで私怨を含んだような言葉を叫び散らす。
そしてエネルギー供給が絶たれた事で、パワーアーマーは完全にブリキの人形と化して、その場に立ち尽くすと、もはや指一本すら動かす事は叶わないようだ。
つまり中に居る者は、パワーアーマーを脱がない限り、永遠に立ちっぱなし状態という拷問を受ける事になる。
――そして、これによりV.R,Lの兵士たちは敗北が決定し、勝利した大介は改めて周囲を探るように視線を動かす。
冷たい雨が外で降り続ける中、激戦の跡が廃墟内に生々しく残されていた。
地面には砕けた混凝土の欠片と焦げた木材が散乱し、瓦礫の隙間から数多の人の血がじんわりと滲み出している。
雨水が、それを洗い流すかのように流れていたが、銃声と叫び声が完全に止んだ事で、ようやく静寂が周囲に広がり始めていた。
そんな中、ナターシャは勝者の手により、パワーアーマーの残骸から引きはがされる。
彼女の美しい顔には怒りと屈辱が入り混じり、汗で濡れた髪が頬に張り付いていた。
だがナターシャの誇り高い態度は崩れない。
強引に引きずり出された後も、鋭い瞳で大介を睨みつけていた。
彼女の身体は、パワーアーマーの下に着ていた軍用のインナーに包まれていたが、それも戦闘で破損していたり汗に濡れて透けていたりしている。
最終的にナターシャは両手を挙げて無防備を晒し、灰色のパンツ一枚の状態で地面に座らされる事となった。
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