第六話 変わり
がんばりました。
宮廷の一角で、瑶璃は微笑む。
「報告ありがとう」
ボクには聞こえる。
運命が、わずかに噛み合いを変える音が。
この世には、数えきれないほどの力が存在する。
心を読む力。
意志を操る力。
人を纏める力。
けれど――それらすべてを、静かに覆す能力があった。
それは、運命そのものを書き換える力。
未来を視る力。
過去を見る力。
過去へと遡る力。
……そのすべてを持つ者たちが、今、この宮廷に集っている。
もしも、それらが一つの場所で交わったなら。
運命は――どこへ転ぶのか。
破滅か。それとも――まだ、誰にも選ばれていない結末か。
「……頑張り屋さんだね」
星蘭が立ち去る背を、横目に見送った。
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もう生臭い匂いが薄れてしまった部屋で、僕は扉の方へ身体を向ける。
「困るもんね? 君にとっては」
そこに居たのは、軍の者であった。貯蔵庫を守るために配置された二人の軍の一人。僕の事をやたらと警戒していた記憶がある。
「いえ……違います」
一拍、遅れて返ってくる声。
「ただ、管理人の無事を確認したくて――」
「へえ」
被せるように、遮った。彼の発言に僕は、確信する。
「なんで逆に、無事じゃないかもって思ったの?」
「それは……噂で」
「誰に?」
視線を落として、唇を噛む姿が見えた。そして、長柄武器を強く握る。
(未来でも視えてたけど、僕を殺そうとするんだよねぇ……)
思った通り、武器を僕に向けた。先は鋭利なため、触れただけでも切れるだろう。
「僕を殺すの?」
「そうだ。早くその帳簿を――――」
彼が言い終わる前に、僕は木窓の縁に手をかけて外に逃げる。けれど、目の前は沢山の林が佇んでいるため、逃げ場としては不利であった。
(うーん。大丈夫かな。これ)
未来では無事とは言えど、それまでの過程全てが視えるわけではない。重要な所だけを視る感じだ。
逃げ惑っていても、どんどん背後から敵は迫ってくる。
背後に影ができる。
パキ、枝が踏まれる音と共に、風を切る音が聞こえた。
(あ、あぶなっ)
武器を振っていた。頭の上に通り過ぎ、僕は転ぶ。受け身を取り、衝撃を弱める。
土の匂いが鼻を掠め、見上げる頃には――――。
目の前に刃があった。
その時。
高い音が響き渡った。
紅い髪の毛が視界に広がる。
「大丈夫か?」
星蘭は短剣をくるりと回し、軍の武器を流す。
「うん、まぁね」
付いた土の跡を払い、立ち上がる。舞った砂埃は、下に沈んでいった。
「こいつが犯人か?」
「そうだよ。証拠もあるし、未来を視た時もそいつだった」
「じゃあ、とっ捕まえるか」
星蘭は短剣を構え、低く身を沈める。僕は一歩下がり、成り行きを見守った。
「戦っても無駄だと思うけどね」
男が片眉を上げた瞬間、すでに星蘭はその襟を掴んでいた。短剣は攻撃ではなく、防御のために使われる。
「ぐっ……!」
男の武器が弾かれ、地面に落ちる。
「拘束完了っと」
星蘭は慣れた手つきで縄をかける。暴れる相手にも関わらず、その手際は早い。安堵しかけたその時、男が吐き捨てた。
「これだから、未来視を持つ人間は嫌いだ……!」
まるで他にも知っているかのような口ぶりだ。
「未来で視たっていうのもあるけど、君、証拠残しすぎでバレバレだよ?」
その言葉を告げると、彼は悪態をつく。
やがて複数の足音が近づいてきた。他の軍の者たちが、慌ててこちらへ向かってくる。
おそらく、星蘭が瑶璃に報告したのだろう。
男はそのまま連行され、二度と姿を現すことはなかった。
ただ『未来視を嫌う理由』だけは、まだ分からないままだった。
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