第四十五話 双子
八万文字いったかな?
「あの―――――」
その女性は、何処かで見た事があるような気がした。幼い顔立ちで、肌白い。
顔立ちが完全に同じで、僕は少し強張ってしまう。
「初めまして。私は、朧月一族の……」
周りの騒めき声が一気に、空へと溶けていく。
「双子の姉―――牡丹と申します」
薄い透明の布がゆっくりと揺れ、風が袖を空へと舞った。
星蘭は息が詰まる声に、僕は唇を結ぶ。
「お二方は、宮廷から来た属官でしょうか? 話は聞いております。書状を拝見しました」
心から溢れるはずの寒い色を感じない。ただ、呆然と平坦な声だけが風に乗るだけであり、背が栗立つような嫌な心地だった。
次第に彼女の袖がゆっくりと揺れ静まる。
「……はい、事情聴取として参りました。僕は月華で、隣の彼は星蘭と申します」
僕はそう言い、深く頭を下げて拱手した。ゆらりとタッセルピアスが肩に重みが伝わり、次第に頭を上げる。
「えぇ、存じておりますわ」
にこりと笑う彼女――――牡丹は、薄い笑顔を浮かべていた。
「ここではゆっくりお話できませんので、中に入りましょうか」
青楼の中へ足を踏み入れると、赤々と揺れる灯篭がぽつぽつと光り、交互に僕たちを照らす。まだ日中なのに、何故か青楼だけがずっと夜の中に囚われているような心地で居た堪れない。
琴や琵琶のぽろん、とした音色が、身体に纏わりつく。そして人々の笑い声が、絹のカーテンや木製の格子越しに染み込んでいた。
星蘭は僕よりも守るように前へと出て、静かな足取りで不安定な影を引きずっていた。
(……僕は大丈夫なのになぁ)
やはり、まだ星蘭の中では守られる存在で、僕は弱い。それが酷く切なく雨が溜まっていく。
「牡丹さん」
ピタリ、と影が止まる。
星蘭は真っすぐ、牡丹の背後を見据えていた。振り返らない彼女に、星蘭はまだ言葉を繋ぎ止める。
「あんたの妹と親父の話は、もう聞いているか?」
彼女の影は何も動かない。何も揺れない。ただ、灯篭が不安げに光を揺らし、彼女に落としていた。
「……えぇ」
それだけだった。それしか言わない。彼女は影を引きずるように足を引っ張っていた。一見すると、何も色を感じない。けれど、心を締め付けられ、苦しみの色は嘘を吐けなかった。じわりと、その灰が混ざった色が、影から溢れている。
「ここで話をしましょうか」
お香を掻き分けて、辿り着いた部屋は金色の装飾は見当たらない。華やかだった道などからは、想像がつかない程にこの場所は澄んだ空気で行き渡っていた。
湯呑がことりと、机に影を落とす。ふわりと舞う湯気だけでは、落ち着けない。僕は自分の袖を握り、自然とタッセルピアスが前へと垂れる。
「話は聞いております。私の家族が迷惑をかけたようで申し訳ありません」
太師椅に深く腰かけ、互いに茶卓を挟む。木窓からは、やんわりとしか陽光が入らない。
「……いえ、対処できなかった僕たちの落ち度です」
僕はしっかりと顎を引き、そう言葉を静かに落とした。彼女は目を伏せて、肩が少し揺れる。
「私の妹は……」
ぽつりと湯呑に落とされ、揺れた。
「……雪色のような綺麗な髪を持っていましたか?」
僕は一拍、置いてから息を吸う。
「……はい」
僕の短い返事に、彼女の睫毛が降りる。そして、そのまま、ぎこちなく微笑んだ。まるで、それは嘘だと口にしてほしい、とでも言うように。
七夕の時に、偽りの天の子と名乗った――――白髪の女性は、双子の妹なのだろう。だから、こんなにも、彼女……牡丹さんとの顔つきが似ていて、見た事がある気がしたのかもしれない。
「あれは、本当の髪色では……ないんですよ」
彼女の話を聞いて、僕と星蘭は目を合わせる。どうやら、天の子と偽るために、わざわざ白髪にしたとの事だった。
僕はすかさず質問をする。
「でも、白髪にする時は嫌がっていませんでしたか?」
白髪は老いている認識が強い世の中で、女性が白髪というのは軽蔑される可能性がある。それなのに、そこまで白髪にした理由は何だったのだろうか。そこまで、天の子と名乗りたかったのだろうか。
彼女は力なく頭を振った。
「それが突然、白い髪は綺麗だと言い出したんです。まるで、人が変わったように」
「何か……きっかけがあったのではないのですか?」
彼女は震える息を吐きだし、茶の湯気と舞い上がっていった。
「とある商人に会ったのがきっかけだと思います。随分と若いのに、成熟した風格を持ち合わせていました」
彼女の影が僕たちへと伸びていく。その商人の出元について質問しようとした時、突然彼女は言葉に針を纏う。
「わたくしの妹は、殺されたのだと聞きました」
僕は口を結ぶ。手が震えそうになり、自身の袖を強く掴んで何とか収める。だが、芯からの弱い震えは収まらない。
「殺したのは誰なのですか?」
湯呑から漂うはずの、茶の匂いはもうなかった。
面白いと思ってくれる人いるのかな......。




