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未来視の月華は選べない  作者: もんちょ
第三章 悲恋の花
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第四十二話 最終確認

うん。


 七夕の騒動は薄れ、人々の不安が消えつつあった。僕の容疑は瑶璃によって晴れる事に成功し、いつも通りの任務を遂行している。書類片付けや民への聞き込みなど、多種多様ではあるが、やりがいがある仕事だと思う。


「ってことで、朧月一族の調査に行ってほしいんだよね!」


 前言撤回。今すぐにでも、やめてしまいたい仕事だ。顔の温度がスッ、と数度下がる。

 瑶璃は雑すぎる。僕たちの扱いが雑すぎると思う。


「調査なんて、彗蓮に任せれば良くない?」


 目尻を下げて、苦笑いしている星蘭。瑶璃は呆れながら『月華って、どんな相手でも度胸あるよね』と言葉を溢す。

 それでも、僕はお構いなく口を開いた。


「ていうか、解決していなかったの?」

「いや。一応、解決したって定にしているよ。けど、不安だから、最終確認」

「じゃあ、彗蓮に任せてよ……」


 瑶璃の言葉に、僕は嘆息を漏らして、そう言葉を返す。

 すると、突然、星蘭が話に割り込んできた。


「俺は、良いと思うけどな」


 星蘭の意気揚々な声が耳に入る。積極的な彼に、僕は片眉を上げた。


「やけに乗り気だね、星蘭」

「……まぁ」


 星蘭は僅かに、目を逸らす。僕は、何回か瞬きした後、短く『そっか』と返事をした。その様子を見ていた瑶璃の髪が、楽しそうに、頬を上げていたのを見逃さない。


(……なんだろう)


 瑶璃と接すると、外部から覗き見られているような、ぞわりとした居心地になる。それが気持ち悪いのに、同時に安堵してしまう。


「じゃあ、朧月一族の調査をお願いね。その一族は、花街に住んでいるから、そこへ行くといいよ」


 瑶璃の声がぽつり、とこの空間に落とされた。朝光が木窓から差し、足元を映している。それが道を作るように長く伸びていた。まるで、これから先の未来を照らすように。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「え~! 花街ですか!」

 

 夜の帳が降りた頃。部屋の中で、楽し気な梨花の声が響く。

 揺れた袖が、視界の端で踊っている。食膳を手に持った梨花は、丁寧に机に並べていた。


「うん、任務で行く事になった。だから、数日間は帰れないかも」


 僕はそう言いながら、銀箸を片手に茶碗の底を鳴らす。星蘭は余程、お腹が空いていたみたいで、勢いよく咀嚼していた。

 梨花はそんな様子に頬を上げて、嬉しそうに花が咲く。


「実は、私も明日、花街に用があるんですよ!」


 『偶然ですね!』と、はにかむ彼女に、ふっと息が漏れる。確か、別世界の星蘭が梨花にこう言っていた気がする。


『あぁ、確かあんたは、花街の人間だったけ? 俺、そこまで行ってないから、よく分からないが』

 

 梨花が花街の人間だという事を、少なからず知っていたという事になる。

 何処で、どうやって情報を手に入れた? 身近の中で、一番、疑わしいのは瑶璃だが、実際はどうなのだろう。瑶璃と星蘭、お互い秘密を打ち明けている同士。情報共有をしていても、可笑しくないのかもしれない。


「って事は、梨花は明日、出発?」

「はい! あ……もしかして、月華様と星蘭様は明日じゃないのですか……?」


 彼女はしょんぼりと、目尻を下げる。一緒に花街に行けると思っていたらしい。


「実は、出発は三日後でね」

「そ、そうだったのですね。すみません。早とちりすぎました……」


 『全然、気にしていないし、謝らなくてもいい』と言葉を返せば、更に頭を下げる梨花。かくいう僕も負けず、袖が揺れる程に、否定をした。そこで覆いかぶさってくるように、星蘭の声が耳に入る。


「まぁまぁ、そこまでにしてさ。梨花は、なんの用で花街に?」


 星蘭は手を腰に当てて、梨花に顔を向けている。


「えと、実は、私は姉が三人いるんです。その姉たちが顔を見たいとの事でしたので、実家帰りに」

「三人もいるだなんて、結構珍しいね……」

「まぁ、今時だと確かになぁ」


 今の社会的な環境だと、子供の出世率が低い。けれど、他の国と比べたら、高い方ではある。

 余裕のある人は財力が高く、逆を言えば、余裕のない人は財力が低い。この国では、圧倒的に後者が多いのだ。


(……となると、梨花は裕福の可能性が高いのかな。でも、一般の民でも、多く産む家庭も居るし……)


 丁度、僕が思っていた事を、星蘭は口から言葉を漏らした。


「梨花の家って、裕福な家庭なんだな」

「え! いえいえ。誤解ですよ。普通の家庭です。裕福だったら、こんな仕事していません!」


 『確かに』と言ってしまいそうになり、口を噤む。星蘭も同じなのか何も言葉を返さなかった。ここで、言葉を発してしまうと『貧乏だよね』と言うのと同じだからだ。


「もし、花街で会えたら、会いましょう! 一週間は滞在する予定なので、私がしっかり花街を案内します!」


 食器を丁寧に盆に乗せる度、カタ、カタと最小限の音で抑えていた。空になった皿や茶椀も温かな時間を過ごしたのだと実感する。


「では、次、会う時は花街で!」


 最後に彼女はそう言って、冷えた回廊へと消えていった。


うん。

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