第三十九話 気質
なんか中華作品って後宮が多いんですね。
「ボクの能力で、ね」
静寂の中、世間話をするかのように、言葉が落とされる。どういう事か問い質そうとしても、遮るように声が被さり、聞き返せない。
「それで、突き止めた犯人なんだけど、なんとまぁ……思わぬ来客でね」
瑶璃は、自分の髪を一束掬い、くるくると指先に絡める。伏せられた瞼の奥で退屈とでも言うように、睫毛が僅かに細かく揺れ動く。
(朧月一族の攻撃を受けた時、なんとも無かったから、てっきり……)
『ですが、どうして瑶璃様や他の役人たちは無事なのでしょう……まるで、能力者を狙っていると思いませんか?』
その言葉が脳裏に浮かんだ。薄暗い回廊で、避難していた時に彗蓮が言った朧月一族について。
確か、甘い香りに能力者だけを狙う一種の波長が含まれているとの事だった。なのに、瑶璃は……。
『そう。でも、ボクは何ともないんだけど……』
可笑しい。明らかに。
能力を所持していたのに、不調の訴えは何一つもなく、平然とあの地獄を過ごしていた。
置いて行かれる僕に構わず、淡々と瑶璃は告げる。ちらりと彗蓮を見るが、まるで全てを知っているかのような態度。その空間に、取り残されているような気分で、じりじりと心が痛んだ。
「誰だと思う? その犯人」
一拍、遅れて僕は身をすくめた。
「犯人……? 僕の知らない人?」
そんな問いを投げかけられるということは、僕の知っている人物なのだと頭では分かっている。なのに、認めたくない一心で、縋るように質問を質問で返してしまう。
「誰よりも知っているはずだよ」
『あぁ、』と心の中でぼやきながら、自分の袖を強く掴む。息が浅くなり、ゆらりと揺れる自分の影を見つめた。
認めたくない。認めなきゃいけない。証拠はないのに、直観的に誰なのか分かってしまう自分に嫌気が差す。覚悟を決めろ、と自分に言い聞かせた。
先程まで、その人物の記憶を覗いていたのだから、目を逸らす事なんて、できない、許されない。
「……星蘭、だよね」
僕の口から言わせる辺り、瑶璃の容赦の無さが透けて見える。
「うん、正確に言うと別軸の星蘭だよ」
『そこら辺の情報は、もう把握済みかな?』と、まるで確かめるかのような口調。一切の揺らぎを感じず、事務確認をするような仕草。そんな瑶璃に、少しだけ心に黒墨が一滴零れた。
(……)
瑶璃は笑みを深めて、僕にそっと指を向けた。
「ボクは、結構好きだよ」
『何が?』と聞き返す余裕さえも与えられない。一段と温度を下げた低い声が辺りを、一瞬にして辺りを支配する。
「君のその、ダークヒーロー気質」
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