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未来視の月華は選べない  作者: もんちょ
第二章 七夕の願い編
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40/50

第三十八話 静寂

ここまで続けた私に褒美をください。


 菜の花色の欠片がひらりと落ち、僕は瞼を上げる。ピントの合わない視界は、徐々に輪郭を結び、漆黒色の袖が端に映っていた。


「あ、戻った?」


 椅子に座る僕の顔を覗き込む瑶璃。頬杖しながら、その金色の瞳に光が揺れていた。


(!?)


 ガタッ、と椅子が床を擦る音。心臓が一跳ねし、僕は中途半端に椅子から立ち上がる。口を金魚のように開閉させることしかできない僕とは違い、冷静な声が飛び交った。


「瑶璃様。いつからここに?」


 横では、眼鏡を上げながら言葉を発する彗蓮。慣れたような対応で、この状況を瞬時に理解していた。


「ついさっき、来たばっかりだよ。なかなか彗蓮が戻ってこないから、気になってね」


 彼は、おどけたように肩を竦める。

 陽光は差しておらず、とっくに日が傾いていた。柔らかい印象を覚えていたはずの机も椅子も、今は何故か硬そうに見える。


「それで、見たんだよね? 月華」


 ほんの僅かに目が細められ、僕はたじろいだ。


「……うん」


 自分でも分かる程に、弱々しい声。目を逸らした先には、灯籠の淡い光が視界に広がっていた。陽光とは違う影の揺らぎが、僕の心を一層と不安にさせる。


「星蘭の過去を見て、どう思った?」


 あまりにも率直な言葉。遠回しにせず、核心だけを突いてくる。黙り込む僕に、静かに彗蓮は目を伏せた。チャリ、と揺れる音が、無駄に大きく聞こえてしまう。


(瑶璃は知っている……?)


 僕は、瑶璃のその一言で、疑念が溢れていた。


(どうして、僕が『星蘭がループしている』という情報を知っている前提で話してるの……?)


 可笑しい。だって、誰にも言っていないはずなのに。

なのに、どうして。


「……まぁ、無理に言わなくていいよ」


 『それよりも』と話を意図的に逸らし、腕を組む瑶璃。


「太史令を殺害した犯人、分かったよ」


 僕は息を呑み、僅かに目を開く。隣の彗蓮も一瞬だけ視線を鋭くさせた。


「僕の容疑は晴れたって事?」

「うん、そう言えるね。けど、証拠がない」


 思わず『……はぁ?』と声が漏れてしまう。証拠がないのに、どうやって犯人を突き止めたというのか。問い詰めたい気分でいっぱいであった。容疑が晴れる、と思って一瞬だけ軽くなった心に、すぐさま別の重苦しい謎がのしかかってくる。

 混乱する僕が訊きたかった疑問を、彗蓮の口から形となって現れた。


「瑶璃様。どうして、証拠がないのに、犯人が分かったのですか?」


 静かだった声色は、確実に見逃さない低い声へと移り変わる。眼鏡の奥で瑶璃を真っ直ぐに見据え、問い詰めていた。


「致し方なく、能力を使ったんだよ」


 『誰の?』と聞くまでもなく、すぐに瑶璃の唇が弧を描き、開かれる。


「ボクの能力で、ね」


 何処か奇妙に引っかかる言葉が、静寂を包む夜風に攫われていった。



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