第二十九話 炎は夜空を飾り
文章に違和感があってやばい、
ボクの隣で星蘭は必死に叫び、火の壁に突っ込もうとしている。必死に、星蘭の袖に皺ができるほどに引っ張り、引きずられる体を何とか踏ん張った。
「心配する気持ちは分かるけど、駄目だよ」
「瑶璃は……っ。瑶璃はいつもそう言う時……」
今にも消え入りそうな声。星蘭の手は僅かに震えていた。
何十回も繰り返し、過去に戻っていたというのに、不安な気持ちは、いつまで経っても消えない。逆に過去に戻る回数が増えれば、増えるほど、彼は不安定になっていく。
「……何回でも言うけど、月華が成長しなきゃ意味がない」
彼の力が少し緩む。表情は、赤い髪に隠れよく見えない。けれど、明るい部分が煙で埋めるかのように、不安な気持ちに染まっている事だけは分かった。
「星蘭、今回はさ―――――」
その時、何かが崩れる音が地を鳴らす。
「瑶璃様!」
陣を切る銀灰色の煙が迫り来る。
咄嗟に袖を口に当てて、目を固く閉じた。
彗蓮はボクを庇うように前へと出て、盾となる。
焦げ臭かった煙が晴れ、澄んだ空気を肺へと吸い込んだ。
そっと瞼を上げると、赤い光が夜空を一層と引き立たせていた。
「な、何が……?」
星蘭は、信じられないとでも言うように、立ち尽くしていた。瞳の奥には炎が揺らぎ、希望を見つけたかのよう。
「なるほどね……」
ボクは嬉しくて、思わず肩を揺らす。
視界に広がる光景は、白髪の女性を見下す月華の姿だった。気弱だった月華が『黒い笑顔を浮かべている』―――――その真実が、何よりもの証拠だった。
「星蘭」
自分の顎に手を添えながら、ボクは隣で呆然と立っている星蘭に視線を向ける。
「君だったら、どんな風に未来視を使う?」
「……」
突拍子もないボクの質問に、たじろぐ彼。戸惑いながらも、口を開く。案の定、予想通りの言葉が飛び出た。
「俺だったら、回避するために使う」
「だよね。今までの月華もそうだった。でも――――」
まるで地獄を連想するその炎から目が離せなかった。
「でも、今回の月華は、何だか違うよね」
星蘭もどうやら気づいたみたいで、視線が不自然に動いていた。息を呑む音も僅かに聞こえる。
洞窟の件の時も、月華の戦い方がかなり歪に見えた。それは、神の使いというよりも、死神を連想するほどに。
「……回避するよりも、攻撃する方を選んでいると思わない?」
この戦い方にボクは懐かしさを感じていた。
自分の目的の為なら一切容赦しない―――――そんな人物。
「まるでさ――――」
ボクは目を細めて、心地よい記憶に只々、浸っていた。
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