第二十七話 ねぇ、いいでしょ?
えへへ、何も言うことないです。
「朧月の一族……」
星蘭の声は細かった。顔に影を落としていて、よく見えない。
「星蘭……?」
僕は不安になり、そっと肩を叩く。すると、跳ね上がるように身体を震わせていた。目尻を下げながら、無理矢理、笑顔を取り繕っているように見える。何故か、胸の嫌なざわめきが消えない。その紅い髪は、いつもの鮮やかさがなかった。血に濡れたような暗い色。
(もしかして、ループで……?)
朱色だったはずの柱は、色味を失くした気がした。冷えた夜風がさらりと頬を撫でる。
「っ!」
星蘭の髪が勢いよく揺れた。何かに気づいたのか、僕を守るように片手を広げて、短剣を懐から取り出す。僕もつられて、視線を巡らせると、右手から小さな足音が聞こえた。静かすぎる夜には、響きすぎているぐらいの存在感。
星蘭の肩越しにちらりと見える容姿。白い髪に、赤い瞳の女性。
「あぁ~! あの時の『偽物』!」
彼女の細い指が僕を指す。相変わらず、袖で口を隠していた。
「偽物って?」
瑶璃は笑顔を浮かべて、彼女にそう聞いた。皇太子という事に気づいていないのか、それともわざとなのか分からない。だが、それでも彼女は平然と言葉を綴る。
「そこの白髪の青年の話ぃ! あのね、アイツね。わたしのことを馬鹿にしたの、ひどくない? ひどいよね!」
目尻にわざとらしく涙を浮かべていた。八の字に下げた眉も、口を隠すような仕草も、不自然なその髪色も全て……。
(気色悪い……)
誰一人として、彼女の言葉に耳を傾けていなかった。けれど、彼女はまだ続けて口を開く。それに加えて、徐々に近づいてきた。燈明の光が彼女の影を伸ばし、まるで光が歓迎しているみたいで焦燥感を覚える。
「でも、わたしは心が広いから許してあげる。君たち、顔良いし、強そうだから!」
「かなりの面食いなんだね」
瑶璃は肩を揺らしていた。けれど、目が笑っていない。
(いつも目だけ笑ってないけどね……)
さほど変わらないかもしれない。ただ、少しだけ怒りを混ぜた黒い色が溢れていた。
「でも、子供は論外ぃ! ある程度成長して、まだ顔が良かったら、考えてあげる」
彼女は自分の髪をくるくるしながら、つまらなそうにそう発言した。その様子を見て、彗蓮は呆れたように、ため息を吐く。そして、重々しく口を開いた。
「そこの君。皇太子に対して、無礼にも程があります」
「皇太子だって知ってる。だから、何なの?」
「無礼だと申し上げているのです。慎んでください」
あんなに弱弱しい印象だった彗蓮は、どこに消えたのだろう。しっかり職務を全うする辺り、僕らの先輩なのだと思い知らされる。
「あんたも無礼じゃない? わたしは天の子なの、天の子ってこの国で一番偉いんだから!」
「それって、誰が言ってたの?」
「お父様よ。お父様がそう言ってたから、間違いないはずだもん!」
瑶璃の質問にさらりと白状してくれた。そのまま親とやらに聞き込みをすれば、終わりなのだと思っていた。けれど、上手くはいかない。
瑶璃は質問を続ける。
「そのお父様ってご健在?」
「ご健在に決まってるでしょ!?」
「分からないよ? 今、誰かに殺されてるかも」
瑶璃は流れるように星蘭を見る。けれど、それも一瞬であった。
一方、彼女は頭に血が上っていた。それもそうだろう。『父はもう死んだ?』と聞いているのと同じなのだから。
「あんた、生意気で嫌い。嫌い、嫌い!」
地団駄を踏むような子供っぽい仕草。空気は張り詰め、揺れている。ぽつぽつと瞬く燈明。そこに群がる虫。火に飛び込む虫。まるで、その虫は今の彼女みたいであった。
けれど、怒りをぶつけたのも一瞬。面白い遊びを思いついたかのように、笑みを深める。
「ねぇ、いいこと思いついちゃった」
くすくす、と笑いながら、相変わらず袖で口を隠していた。彼女の目の奥には、黒い渦が巻いている。
「儀式でどっちが上か勝負しようよ! そしたら……」
彼女の赤い瞳は、鮮やかさを持っておらず暗い赤。ただの赤。美しくもない。
「―――――どっちが本物か分かるでしょう?」
壁に手をつきながらも、僕は星蘭の背中に隠れて、笑みを深めた。
ちょっとpv少なすぎて、滅亡。




