第二十五話 星の意味
oh......。
「わたし、知ってるもん! あんたが、偽物の天の子だって!」
偽物という言葉に僕は眉を潜めた。薄暗い中でも、目立つ白髪は光を帯びる。蜜柑色に薄く染まるその髪は、元の色を消していた。
僕は短く息を吐き、彼女の言葉の真意を探る。未来が視える、だなんて戯れ言なのだろうけど。
「失礼ながら申し上げます。天の子ということは、未来を見通す能力をお持ちで?」
「もちろん! 馬鹿にしてるの?」
目尻に涙を浮かべながら、長い袖を口元で隠していた。彼女は僕の事を『偽物』だと本気で思っているのだろうか。
僕は微笑みながら、『そうですか』と軽く躱し、そっと彼女の手を振り解く。
「では、これからお願いしますね。天の子様」
僕の言葉に一瞬だけ目を開いた。皮肉とも取れる態度に、怒りを覚えたのかもしれない。けれど、僕にとっては彼女が本物か偽物かなんて興味がない。
「な、何よそれ! 怯えたり、言い訳しないわけ!?」
「する理由がありませんから」
僕はひんやりしている扉にそっと触れる。流れ込んでくるぬるい温度を持った風は、足元を揺らした。
「あぁ、言い忘れてました」
僕は振り返らずに、横目で彼女に視線を移す。揺れる紅いピアスは、頬を擽った。
よく昔からこんな風に、僕の立場を略取しようとする人が居た。僕が譲ったわけではない。強引にいつも奪われる。けれど、僕も馬鹿ではない。奪われたら、最悪の形で、最悪な結末を、お届けする。
「『偽物』が一体、誰なのか――――貴方が一番、知っているはずですよ」
僕はそう言って、バタン、と扉を閉める。最後に見えたのは、唖然とする彼女の姿であった。扉の向こうから『ちょっと待ちなさいよ!』と焦る声が聞こえるが、顔を背ける。
影が僕の足元に伸び、月白色の漢服は灰色に染まった。
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光が額を照らす。手を上に翳して、目を細めた。鮮やかさを持っている飾り紐は僕には眩しすぎる。
「あれ? 月華?」
背後から程よい心地の良い声が聞こえ、振り返る。黒髪が鮮やかさを消すように、靡いていた。
少しホッとする。どんな状況でも切り抜けて、鮮やかに劇をするように駒を動かす―――不気味な子。
「瑶璃……」
僕の声はあまりにも小さく弱弱しかった。少しだけ不安があったのかもしれない。失敗したらどうしよう……と。
「どうしたの? 控室にはもう行った?」
「……行ったよ。只、先を越されたみたい」
瑶璃は僕のその言葉で、全てを悟ったように肩をすくめる。
「それは仕方ないね」
その一言だけであった。何を根拠に言っているのだろう。どうして、未来が視える僕よりもずっと余裕そうにしているのだろう。まだ小さな子供なのに、僕よりもずっと大人だった。
「月華」
黒髪が半円描き、瑶璃の視線が動く。広場の中心にそびえ立つ乞巧楼を見ていた。僕はその乞巧楼の一番下を見て、眉を顰める。
「なんだか、月華と星蘭の為にある儀式みたいだと思わない?」
首を傾げて、僕は言葉を返した。
「どういうこと?」
「そのままの意味だよ。今日は何の祭りか忘れた?」
七夕の日。彦星と織姫が年に一度だけ会うことができる。伝統的な裁縫の上達を願う為にこの催しがあるのだとか。
「星って、時間と運命を象徴するんだって」
僕は手が冷たくなる。その一言に沢山の意味を持つ色が染まっている気がした。お互い何も言わずに、じっと乞巧楼を見つめるだけ。夏風が吹き、揺れる飾り紐と共に僕達の袖が揺れた。もうすぐ、儀式の幕が開ける。
第二章もあっという間に終わっちゃいそう。一話、2000から3000文字なんですけど、もうちょっと増やして欲しいとかあったら教えてください!




