第二十三話 覗かれて
自分はまだこの構成?に納得いってはいない、
埃を吸い込まないように、なるべく袖で口元を隠す。思ったよりもこの書庫は大きく、書物が詰められていた。
「思ったよりも多い……」
ぽつりと呟いた言葉は、ひんやりとした空気に溶ける。本を一冊とり、表面を触るとざらざらしていた。
「月華~! 奥の本から運び出すって~!」
遠くから星蘭の声が籠って聞こえる。扉付近で日干しを行っていた。
一方、僕は運び出す係である。一冊ずつ丁寧に積み上げて慎重に運んだ。
「運び出す前に、チェックするね~。えーとぉ」
紙とペンを持った瞬間、彗蓮は難解な歴史の知識を呟き始める。
僕は本の山を抱えたままなので、早くチェックを終えてほしい。そんな願いは叶うはずもなく、かれこれ十五分。
「く、国設立の情報!? 勢力を拡大し他の諸国を次々と攻め滅ぼして、史上初めて天下統一を果たした、始皇帝!? 能力は? 武道は!? 文武両道だったのかな!?」
重さで腕がふるふると震えだす。心の中で悪態をつきながらも、何とか耐えようと踏ん張った。
なかなかチェックが終わらない。
(……早く終わって欲しいんだけど)
「一体、どんな訓練を受けて.....」
そう思っていると、急に彗蓮はピタリと言葉を止める。不思議な沈黙。鼓膜が変になるような静けさ。
(......?)
一瞬だけ本の山から視線が外れて虚空を凝視していた。
彼の表情は、読み取れない。
「ねぇ、まだ?」
「……わ! あ、ごめん。その、ちょっと」
意識を強制的に戻されたかのような反応の遅さ。たじたじとしているが、徐々に表情に色が戻る。
そういえば、この人はどんな能力を持っているのだろう。必ず皆持っているわけではないが、皇帝の側近であれば、上の層の位であれば……必ず持っているはず。
「ねぇ、もしかして……」
彗蓮は首を傾げる。ちゃり、と金のつるに掛けられている装飾が揺れた。
「もしかして……今、能力使った?」
僕の言葉に目を開く彗蓮。けれど、優しい笑みを浮かべるだけで、焦りの色は見えない。こくりと軽く頷き、肩をすくめる。
そして、そっと息を吸った。
「……そうだよ。能力を使った。思い出を見る力だよ」
『記憶を覗いているのと一緒だけどね』と言う。観念したのか、思ったよりも素直に吐き出していた。秘密を言い合っていないのに、まるで秘密基地に居るようだった。
「何を?」
「え?」
「何を見たの」
自分の喉から思ったよりも低い声が出た。唇を噛みそうになるが、寸で留まる。冷えた空気が、身体の芯まで届く事を拒むような焦燥感。吐いた息はとてつもなく重い。
彗蓮はどう答えればいいのか迷っているように見えた。情けない。困らせた自分が何よりも情けなかった。
「何を見たのかと言われても……ちょっと複雑で」
「複雑?」
「なんだろう、なんか一人の記憶を覗いていたはずなのに、複数人の記憶を覗いた感覚? 確実に一人じゃないみたいな……」
「僕は一人だよ。僕は僕。それ以外だなんてあり得ない」
「うーん。普通はそうなんだよね~。なんでだろ?」
小さく頬に人差し指を添えながら、斜め上を見上げる。彼なりに理解しようと励んでいるのかもしれない。
――――能力というのは、自分のためだけではないが故に。
「あのさ。これから、許可を取ってから頭の中を覗いてくれる?」
「わかった~」
「許可を取ってからだよ」
「わかってるってば!」
はぁ、と僕は溜息をついた。
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