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未来視の月華は選べない  作者: もんちょ
第二章 七夕の願い編
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第二十話 朝会

ただの朝会なんだけどね


 ついに迎えた七夕の日。空は薄暗く、夏の虫の鳴き声だけが静けさを増した。この日の為に用意した礼服を纏う。

 その生地の放つ輝きと気品は、とても人間が真似できるものではない。生成りとは違う、月白色を持っていた。


「……白? あれ、僕、格下げされた?」

「滅相もない! これは天の子の儀式のためだけに用意された、神の衣服なんですよ!?」


 疑問に思い、呟いた言葉が、梨花に勢いよく被されてしまう。あまりの大きな声に顔を顰めてしまった。


「す、すみません。大きな声を出しすぎました……」


 彼女は『しまった』という表情を浮かべて、口に手を当てている。僕は苦笑いしながらも『大丈夫だよ』と伝えた。


「皇太子様が『月華といえば、月白色だよね~』とおっしゃっておりました。刺繍も月にしているらしいです!」


 そう言われ、刺繍に自然と目がいった。派手に刺繍されているわけではないその静けさ。ぽつん、と縫ってあるその月は、まるで僕みたいだと感じる。


「月華~、準備終わったか?」


 扉越しから星蘭の声がこもって聞こえた。

 梨花は着替え室の扉を開けて、『ちょうど準備が整ったところです!』と元気よく伝える。

 星蘭の礼服は、僕と全く違っていた。落ち着いた紺色で、刺繍の量は控えめであった。


「……いいなぁ、気楽そう」


 星蘭は眉をひそめて、笑うだけ。彼がループしている事実を知ってから、僕は彼の笑顔に少しだけ寂しさを感じる。


(……変に意識しちゃってるせいかも)


 僕たちは身支度をし終え、瑶璃の元へと向かう。深い赤柱を幾つか通りすぎ、影が交互に追い被さってくる。やけに僕たちの足音が廊下に響いた。

 星蘭が言うには、さっきまで普通に人が行き交っていたとの事。


 目的の場所に着き、鉄の輪を叩く。すると、瑶璃の声が扉越しから聞こえる。『どうぞ~』と言われ、そっと扉を開いた。


「早くからご苦労さん」


 黒髪が円を描いて、僕たちを見ていた。礼服は格式が高い黒であった。まるで、夜空や宇宙を連想させるような深さ。星と月を従える『天そのもの』という象徴。

 一見すると無地に見えるが、光が当たると、夜空にきらめく星々や雲の模様が浮かんでいた。


「どう? ボクの礼服!」

「うん。とてもお似合いだと思う」

「でしょでしょ!」


 僕の言葉にキャキャ、と嬉しそうにするが、それも束の間。太陽の位置を確認すると、そろそろ朝会が始まる時刻となっていた。


(その朝会に、皇帝も居るんだよね……。ちょっと怖い)


 梨花から事前に聞いた情報では、皇帝はまだかなり若いらしい。遠目で見た時でもかなり威圧的だったとか。

 それ以上は分からないとの事だった。


 僕たちは急いで朝会をする広場へと向かう。そこには、沢山の属官や役人が揃っていた。庭園できちんと並び、少しのズレも見せない。僕と星蘭は瑶璃の命令により、室内へと向かう。


(あれ……?)


 そこには、皇帝の姿はなかった。一段と高い所に、金で飾られている椅子があるのみ。


 周りには、三府の代表たちが佇んでいるだけ。


(ちょっと待って。どうして大尉様が居るの?)


 僕は、ちらっと瑶璃の背後を見る。堂々としていて、洗練された動きをしていた。


「此度の儀、父皇はいかなる理由でご欠席なのだろうか」


 瑶璃は微動だにせず、質問をする。すると、三府の一人である丞相様が進言した。


「……恐れながら進言申しあげます」


 あんなに弾けていた丞相様は、流石に公の場となると敬語を自重している。続けて彼は口を開く。


「主上は現在、御不例により奥宮にて静養されております」


 場の空気は重い。ピリついた空気は、呼吸できない程の緊張さがあった。

 淡々と告げる丞相様は、深く一礼した。


「このことは、市井のみならず、朝廷の末端にも秘匿されておりますゆえ、どうか御心にお留ください」


 瑶璃の背中から感情が読み取れない。何とも思っていない横顔。まるで、こうなる事が分かっていたような色を見せていた。


「……左様。今回の朝会は代理として、務めようか」


 コッ、コッという音が響き渡り、やがてゆっくりと椅子に座る。その背後には屏風があり、龍の彫刻が施されていた。

 僕たちは瑶璃の命令により、後ろで控える形になる。しかも両サイドの立ち位置。近くには丞相様も控えていた。


「―――――さて」


 そっと口を開き、手の甲に顎を乗せて言葉を放つ。

 僕は目を伏せて、小さく呼吸を繰り返す。

 視線に映るのは、磨き抜かれた黒い石の地面。天井の装飾が鏡のように映り、この建物がどれぐらい高いのか思い知らされた。


「これより、朝会を始める」


 その言葉が空間を切り裂き、風を呼んだ。


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