第十八話 この国の軸として
とりあえず、頑張るという精神
「僕、三日も寝てたって聞いたけど……それ、ほんと?」
瑶璃の表情は一切変わらない。そして、淡々と言葉を綴る。
「……本当だよ。未来視の使い過ぎで、回復するのに時間が掛かったんじゃないかな?」
自分の黒髪に手を通しながら、何でもないようにそう言う。そんな瑶璃に、僕は少し苛立ちを覚えた。
(殴ってやろうかな)
『三日間、目を覚まさなかった』という状況に、慣れているような雰囲気であった。
瑶璃は謎が多い。星蘭がループしている事を知っていたし、彼の能力も知らない。
星蘭と瑶璃は秘密を言える仲なのだろうか。
それに対して、僕と星蘭の間は壁だらけ。
「はぁ……」
「だ、大丈夫か?」
僕は笑顔を取り繕い、大丈夫だと言い張った。そして、瑶璃に向き直り、口をそっと開く。
「……天の子じゃないって説明しなかったの?」
「誰に?」
「民だよ。皆、勘違いしてる」
瑶璃はクツクツと笑い、流れるように星蘭を見た。僕もつられて星蘭を見ると、気まずそうに下を俯くばかり。
瑶璃は言葉を続ける。
「……天の子として、このまま突き通そうと思ってね」
「バレたらどうするの?」
「バレる事はないよ。だって、君……そもそも、天の子だし」
時が止まったかのように、僕は固まる。星蘭も顔を上げて、驚いていた。いや、厳密に言うと『驚くフリ』をしていた。
(……僕が天の子って、正気?)
困惑する僕を差し置いて、瑶璃は言葉を続ける。
「天の子って、未来視を持つ人達の事を指すんだよ」
『民は、その事実を知らないけどね』と言葉を溢す。僕は頭が痛くなった。
思い悩む僕に構わず、瑶璃はこの三日間の事について言葉を続ける。
米を盗んだ敵は今、御史府の監視の元で働いているらしい。
「なんか、『天の子の為ならしっかり働いてみせます』とか言ってる始末だったよ。いや~見物だった」
満面の笑みでキャキャ、と口を手で覆っている。『天の子って案外、便利だよ』と嬉しそうに言葉にしていた。
太陽が窓から徐々に差し、瑶璃の黒髪が茶色に染まる。彼の金色の瞳が際立って目立った。
「――――って事で、天の子として働いてもらおうかな」
瑶璃は静かにお茶を啜っていた。僕は横目で星蘭に助けを求めるが、彼はそっぽ向く。
二人のその仕草に、イラっとする自分が居た。けれど、天の子として、僕を仕立てあげるのも何か意味があるはず。星蘭が反論しなかったことが、なおさらそれを裏付けていた。
少し開いている窓の隙間から、夏風が流れてくる。まるで、僕の背中を押しているような感覚。
小さく息を吐き、腕を前に組み、暖かな風が雪を連想する僕の髪を揺らす。
「……天の子として承りました」
喉を鳴らす小さな音が耳に届く。一礼して、見上げた時、瑶璃は目を細めていた。星蘭の袖が僅かに揺れた。
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