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未来視の月華は選べない  作者: もんちょ
第一章 洞窟編
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第十七話 決意を前にして

一章終わりました!!! めっちゃ楽しかったです!!


「――――っ!」


 勢いよく息を吸い込んで目が覚める。震える手のまま、僕は上半身を起こした。

 窓の外には、荷車を押す人や下働きが行き交っている。

 辺りを見渡すと、いつもの寝泊まりしている部屋だと数分遅れて気づく。そして、机の上には湯呑が置かれていた。


(………日の位置的にもう昼)


 僕はあの後、どうなったんだっけ。思い出そうとしても、思い出せない。


(早く瑶璃の所に行って、仕事をしなければ)


 このままだと減給されかねない。僕は身支度を整えて、すぐにこの部屋から飛び出した。

 青く澄んだ空には、沢山の鴉が翼を広げている。僕は大きく足を広げて、走る。だが、夢の名残のためか少しだけおぼつかない。


(……夢、ただの夢だから)


 夢の内容を思い出そうとすると、何故か苦しい気持ちになる。どうしてという気持ちは収まらず、疑問が溢れるばかり。


 僕と競争するかのように、鴉は上空で飛び続けていた。廊下を歩く人達を避けながら、目的地へと向かう。


 夢で見た紅い水溜まりではなく、空色の水溜まりを跨いで前へと進んだ。風が僕のピアスや白い髪を揺らし、水面に姿を映した。


(……昨日って雨、降ったけ?)


 そう思いつつも走り続けていると、とある言葉が横切る。


「天の子だ……」

「あの子よ。あの子がこの国を支えてくれるわ」


(僕は天の子じゃない……瑶璃は僕が天の子じゃないって説明してないの?)


 その誤解は簡単に紐解けるものではなくなっていた。

 揺れる木の葉を通り過ぎ、徐々に足取りを減らす。


 そして、ついに着いた扉の先には、二人の声が聞こえた。

 星蘭と瑶璃だった。扉に手をかけようとした時、信じられない言葉が聞こえ、僕は手を止める。


「……星蘭。やっぱり、今まで通りのままはよくないよ」


 僕はそっと扉から手を離す。壁に隠れて、耳を澄ませた。


「秘密を打ち明けても、意味はないんじゃないか?」


 秘密があったという驚きの方が多く、自分の影を見つめる。蝉しぐれが僕の孤独を一層と揺らした。


「ボクからの助言だけど、そのままじゃ未来は変わらない」

「…………」


 星蘭は黙り込む。彼も彼なりに悩んでいる事があるのかもしれない。秘密は誰だってある。いくら、親友だからって秘密は必ず持っているのだ。僕だってそう……。


「……俺が」


 珍しく声が震えていた。声だけでも分かるほど、緊迫した気持ちが伝わってくる。言葉はまだ続く。



「――――何度も過去に飛んでループしているだなんて」


 『言えるわけないだろ』と吐き捨てた。

 僕は息が止まる。そして、一気に呼吸が早くなった。太陽の光に照らされた壁は、手から温度が伝わる。僕の手は驚くほどに冷たかった。


(過去に飛ぶ……?)


 その時、夢の内容が浮かぶ。あれは只の夢ではなかった。あれは、僕の過去だった……?

 そして、火に包まれた街で、それは突如と現れた。僕の前に救済の温かみを持った人物。


『星蘭……。あんたの親友だ』


「――――っ」


 点と点が繋がった気がした。失われた過去の記憶の一部に、星蘭は居たのだ。

 それでも、まだ頭は混乱に陥る。

 その時だった。扉がギィィ……と開かれ、僕は一歩後ろに後ずさった。


(……どうしよう。逃げようかな)


 今は面と向き合いたくない。少し整理させてほしかった。

 

 僕は後ろを向き、廊下の曲がり角まで走る。その時、下働きの人とぶつかりそうになりつつも何とか避け、また走り続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 乱れた息を整えて、のろのろと歩く。いつの間にか周りに人もおらず、鳥がほろほろと鳴く声が聞こえるのみ。


「ここって……月見台……?」


 壁や窓もない、手すりだけがある吹き抜けた空間だった。視界に広がるのは、人々が暮らす家々や遠くの城門。

 空を飛ぶ鴉が一層、近く感じられた。


「どうして……星蘭は、何度も過去に戻ったの?」


 誰も居ない空間で、僕の言葉が零れ落ちる。過去の記憶の中で、星蘭は何て言っていたのか夢を思い返す。


『俺は、未来の月華が死なないようにするために――――』


 確か、僕が死なない未来にするために…………。


『ここにきた』


 だから、彼は過去に戻った。

 

 風が強く、僕の白い髪や紅いピアスを揺らす、同時に火照った頭を冷やしてくれた気がした。


「僕を死なせないために……?」


 頭が少しずつ整理されていく。つまり、僕はどんな未来を辿っても……。


――――生きていけなかった。


 天の子だと周りに言われても、本当の天の子ではない僕。

 神に救われる事が絶対にない悲劇の子供だった。


「……星蘭と一緒に生きる道を歩きたい」


 ループをしている星蘭本人も、もう擦り減らしているはずなのだ。これ以上、ループをさせないためにも……。


「………まずは、国が滅亡する事がないようにしないとね」


 滅亡してしまえば、星蘭と共に歩んでいけない。僕は、紅いタッセルピアスをそっと外して、ぎゅっと握りしめた。



 ピアスを付けなおす。片方だけ揺れるその紅いピアスは、華やかさを持っていた。

 月見台から降りる時は、もう足元はぐらついていなかった。空を飛んでいた鴉はバサ、と小さく羽ばたき地面に着く。


「月華~!」

「え」


 遠くから星蘭の声が聞こえた。こんな広い宮廷の中でどうやって僕を見つけたのだろう。なんか、もはや怖すぎる。

 彼はギュイィン、という効果音がつきそうなぐらい速く走ってきた。僕の前は砂埃だらけだ。そして、急に肩をつかまれ、振り回される。


「ど、どこに行ってたんだよ! 三日、覚まさないと思ったら………急に居なくなってさ……!」

「ちょ、前後に揺らさないで……っ、酔う!」


 ピタ、と星蘭は止め、僕の目がぐるぐる回る。一拍経って、僕は彼を見て、微笑んだ。すると、彼は片眉を上げる。


「なんか……いつもと違くないか? 未来で何か視た?」

「いやぁ……? どうだろ?」


 僕は曖昧に答えて、肩からそっと彼の手を外す。


「ねぇ、星蘭」

「ん?」

「僕は今まで国滅亡なんて、信じてなかったけどさ……」


 星蘭のカナリア色の瞳が大きく開かれる。彼にとって、今の僕の発言は初めて聞くものだと思う。そう思いたい。


「……一緒に止めようね」


 自分らしくない発言にむず痒く感じ、下を俯く。ちょっと誤魔化したくて、彼に背中を向けた。すると、大きく息を吸う音が耳に入る。


「そうだな。頑張ろう!」


 星蘭は横に来て肩を並ぶ。青い空の下で僕たちは一緒に道を歩み始めた。


 知らないところで不穏な影が動く。ゆら、と揺らめくその影は、国滅亡への種をまき続ける。



第一章完結です!! 次の第二章は、七夕編! 是非お楽しみくださいね!


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