第十六話 うつつ
うぅ。
崩れる街と悲鳴の中。ただ走った。
「おとうさま……おかあさま……」
白い漢服はもうとっくに汚れている。幼い声で必死に両親を呼んでいた。
火のついた矢が四方八方から飛んでくる。足元に落ちた矢は、みるみると火が広がっていく。
前から沢山の軍勢が馬に乗っていた。
(かくれなきゃ……)
火がまだ広がっていない通路を通って、僕は足を動かす。肺が焼かれるほど痛い。
何度も何度も息が詰まりそうになり、咳を込む。もうおぼつかない足取りで前に進みながら、ゆらゆらと揺れる紅い提灯は光を失っていた。
突然、自分の視界が霞む。
(……?)
どさり、と地面に崩れ、頭が殴られたかのような痛みが響いた。ふと下を見ると、水溜まりに白い髪の誰かが映る。
自分の頬から伝い、水たまりにぽとりと落ちた。揺れる水たまりは次第に形を変えていく。
――――これはぼく、僕だよ。
水たまりに居る僕がそう言っていた気がした。なんて醜い姿なのだろう。もう生きたくないとも思った。だけど、僕はお父様の言葉を信じている。だから、まだ生きなきゃいけない。
「ぼく、もういくね」
返事のない水たまりに向けて、そう言った。
僕はまた走り出す。ヒリヒリと痛む膝に耐えながら前へと進んだ。
すると、紅く明るい誰かの提灯がゆらゆらと揺れる。
まるで、助けにきたかのように。
その人は僕の目の前に立っていた。敵かと思い、後ずさる。
「大丈夫だ。敵じゃないからな」
紅い髪が特徴的だった。そして、紅いタッセルピアス。淡い蜜柑色の光が僕を照らす。まるで、太陽みたいな人だった。
「だれ……?」
煙が漂う中、彼はこう名乗った。
「星蘭……。あんたの親友だ」
その瞬間、僕の世界が色づいた気がした。煌めく星が周りを踊る。パチパチ、と弾けて、不思議な光景が視界に広がり続ける。
「俺は、未来の月華が死なないようにするために」
浅く息を吸い込み、言葉を続けた。
「――――ここに来た」
熱が入った風が巻き上げる。彼は自分の紅いタッセルピアスを外し、前へと出した。
僕はおずおずと近づき、それを受け取る。
「なに、これ……?」
どうして、僕にくれたの?
きみは僕のなんなの?
どこからきたの?
混乱するだけで、言葉が出ない。手触りから感じるピアスの感触に現実なのだと思い知らされる。戸惑う僕に、彼は悲しく笑ってこう言った。
「……きっと、そのピアスが守ってくれる」
風が吹き、煙が彼に集まる。待って、と手を伸ばしても空回りするだけ。
もうそこには居なかった。
この街の火を消すように、ぽつぽつと雨が降り始める。次第にそれは強くなっていき、身体が急激に冷えていく。
かじかむ手。その手に握られているピアスは、あの華やかさを持つ色がどんどん消えていった。まるで、血に濡れた色。
白い息を吐きながら、進む。すると、目の前には僕が望んだ背中がそこに居た。
「おとうさま!」
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