第十五話 その背中を見ていた
いやぁ〜なんか、自分で満足しちゃってる節がある。
「パチパチ~! いやぁ、期待以上の出来栄えだったよ」
背後から、聞き慣れた声が響く。
振り向くと瑶璃がそこに居た。なんなら、三府の代表たちも後ろで控えている。
「あ、はい……」
疲れが戻ってきたというのも相まって、僕は言葉を返す余裕がなくなっていた。瑶璃に続いて、三府代表たちも言葉を漏らす。
「……すごいですね。ここまでとは思いませんでした」
先に口を開いたのは大尉様だった。丞相も言葉を放つ。
「未来視ってやっぱり便利なんだな……」
「お前はそんなに未来視が欲しいの?」
丞相様の言葉を聞いて、御史様はすぐに言葉を返す。
(もう……帰りたい)
軍がそもそも怖い僕は、一秒でもこの場から離れたい気持ちでいっぱいであった。
そう思っていると、星蘭の腕が肩に回される。
「よく頑張った! 流石、俺の親友だ!」
まだ洞窟の中なのに、太陽のような眩しさが星蘭にはあった。僕はふんわりと笑う。
(そういえば、人質は……)
視界には揺れる木箱があった。
(あそこに閉じ込められて――――)
水色の髪が視界で揺れた。気付いた時には、大尉様はその木箱に向かって走っていた。
大尉様の手によって、木箱の蓋が跳ねる。中から漏れたのは、小さな……けれど、確かな吐息だった。
「……よかった」
漏れ出たのは、大尉様の心からの言葉だった。彼は震える手で、口を塞がれている布をそっと外す。
「おとうさん……!」
今まで堪えていた涙が、ここで緩んできたのかもしれない。二人とも再会に頬を濡らしていた。
縄も解けて、息子は大尉様に抱きついた。そこには、一人の父親としての姿があった。
「ごめんなさい………っ」
絞り出すようなその声に、息子は唯々、『おとうさんのせいじゃない』と震える声で言っていた。
「……息子が無事でよかったな」
星蘭はぽつりとそう零し、優しい笑みを浮かべる。僕もそれに軽く頷いた。
「……」
僕は素直に『よかったね』とは言えなかった。洞窟の外では、軍の撤退命令が出されている。風が僕の背中を刺す。
(……いいなぁ)
無意識に思ったその言葉に、嫌気が差した。霞む視界には温かな親子の背中が遠ざかる。
すると突然、足がすくみ視界がぐるっと回った。
『天の子』としての役目を終えたかのように、ひらりと崩れそうになる。地面に吸い込まれるような感覚。けれど、待っていたのは誰かの腕だった。
「お疲れ様……」
透き通る瑶璃の声が鼓動を撫でる。それを最後に僕は深い闇へと落ちた。遠くなる星蘭の声。
最後に見たのは、自分の紅いタッセルピアスと星蘭の紅い髪だった。
読んでくれる人が居たらいいなっと思っています。




