第十四話 天の子
やかましいかもしれないです、、、
洞窟の奥深くに進む。さっきとは比にならないぐらいの冷気。背筋がぞっとした。すると、段々と淡い光が見えてくる。ざわざわする声が反響して、耳に入る。
そっと影に隠れる。前に居る星蘭は大きな鎌を取り出して、洞窟の真ん中に一歩出した。
「なっ……」
「誰かが居るぞ!」
「待て、その後ろにも誰か居る!」
一気に洞窟が揺れた。揺れたというよりは、騒ぎが激しくなったというべきだろうか。
武器が一斉に僕たちへ向けられる。
「武器を降ろして」
僕の声はやけに響いた。そして、一気に僕へと視線が注がれる。
『天の子なのか』とひそひそしているのが聞こえ、僕は笑みを浮かべてこう言う。
「天の子……なのかは分からないけど、ちょっと忠告しとくよ」
星蘭は腰を低くし、大鎌で半円を描く。ギィィ……という音が洞窟に響き、敵は肩を揺らしていた。
後ろに控えている軍も武器を強く持つ。
僕はゆっくりと遠くにある岩に指をさした。
「……崩れるよ」
その時、ピキっと岩が割れる。そして――――。
「おい! お前の後ろの岩が……っ!」
悲鳴が聞こえた。埃が舞い、洞窟の出口に向かって風が吹いた。
出口に向かおうとしていた人達は、僕たちを前にして立ち止まる。武器を再びこちらに向けた。
「あれ。まだ降参しないの?」
「……当たり前じゃ」
低い声が聞こえた。僕の言葉に、代表らしき人物が歯向かったのである。その声に手下は肩をびくつかせ、その謎の人物に道を開けた。
大分、歳を取っているように見える。長い髭を垂らして、片目には古傷が残っていた。
「ワシらは、引き下がれぬ」
「なんで?」
「自国を守るために決まっておろう」
歳を取っている割には、重心の掛け方が少し違う気がする。これでは、まるで星蘭のようだ。
ポンと未来の音が聞こえる。
(……これだったら)
僕は星蘭に近づき、耳うちする。
「……西側。ちょうど俵の近くの地面が脆いからそこに誘導して」
星蘭は軽く頷いた。
ザッ、という足音が聞こえた。古傷を負っている老人が柳葉刃を引き抜いた。
「星蘭。気を付けて」
「あぁ、そっちこそ」
僕はまたゆっくりと指をさす。そして、未来を当てる。
「今から、松明が消えるよ」
すると、大半の軍が手に持っていた松明は、パッパッと揺らめきながら消えた。これは、単なる偶然。仕掛けは何もない。
「松明はちょうど、寿命が尽きたみたいだね」
というのも、この敵は運が悪かった。使われているその木は、湿気で燃え続けにくくなっている。発火したとしても、長くは続かない。
薄暗い中で、淡い光は数個ぽつぽつとまだ光っていた。
敵軍の反応とはいうと、大騒ぎだった。『神からの罰だ』だとか、『祟りだ』だとか――――その中でも多く聞こえた言葉。それは『天の子が居る国に行けば、裕福になれる』というものだった。
心の在り処として、出来上がった思想・宗派は今、欠点として突かれている。
僕は微笑みながら、指を前へとさす。
「そこの老人」
「な、なんじゃ」
「攻撃をしようとしたでしょ?」
老人は後ずさる。
(僕に攻撃をしかけようとしたみたいだけど、無駄。だって――――)
僕に行動を読まれても尚、その老人は攻撃をしていた。星蘭は僕を庇うように出る。
(星蘭が止める未来まで視えてるからね)
ギィ――――という鈍く高い音が洞窟を駆けぬけた。星蘭は強く相手を押し、退ける。
僕は敵軍に向けてこう告げた。
「まだ戦い続けるものなら……」
僕は息を大きく吸う。
「不幸が舞い降りてくるよ」
まるで、『神からのお告げを授かりました』風に振舞った。すると、驚く事に大半は武器を降ろし始めたのである。
けれど、やはり迷いがある者が多い。
「武器を降ろしていない者が居るようだけど……敵意があると見做してもいいのかな?」
微笑みながら、首を傾げる。すると、敵軍同士で喧嘩が起こる。
『国を守るために、戦いを続ける派』と『天の子には逆らわない方がいいから、戦いをやめる派』。意見は二つに分かれた。
僕はそんな中でも、間髪いれず次の未来を当てていく。
勢いよく前へと指を突きだし、僕はゆっくりと………はっきりとこう告げた。
「そこの三人。矢を射ようとしているようだけど、僕に届かないよ。なんなら、それで背後に居る仲間を傷つける事になる」
僕の声が鋭く響き渡る。三人は目に見えて分かるぐらいに、指を震わせていた。
けれど、老人の指示で矢を打ってしまう。
僕に向かって飛んでくるが、星蘭が弾き飛ばす。バチ、と光が裂けた。
それによって、背後でパニックに陥った仲間の耳に刺さってしまう。
「ひっ!」
「本当に当たった……お告げの通りだ!」
興奮している者も居れば、絶望している者も居る。その場は絶望と言う名の毒が回っていた。
今の僕はもはや、『天の子』というより『死神』に近い気がする。
「次、三秒後にそこの地面が崩れるよ」
右側を指す。それを見た星蘭は戦いながら、老人をそこの地面に誘導した。
ピキ、
その時、老人が踏んだ地面に亀裂が入る。そして、次第にそれは大きくなり、崩れ始めた。
「うわぁぁぁ! 助けてくれ!」
「呑み込まれる!」
老人もその亀裂の間へと落ちていく。僕はその姿に微笑みつつも、安心させるために言葉を吐いた。
「呑み込まれるって言っても、深くはないはずだよ。小さな怪我で済むはずだから安心して」
『天の子だから、人を殺す事はしないよ』という意味を込めて。
僕は優しい毒を次々と放つ。
すると、降参だとでも言うように、武器を手放す者で溢れた。
自分の広く長い袖が、洞窟の中でもはっきりと見える。コッ、コッと自分の足音が反響した。
短く息を吐く。
「……自分の罪と、よく向き合う事だね」
辺りには、すすり泣く声や砂が崩れる音しか聞こえない。百人余りの敵軍は許しを乞うように地面に手を付けている。
(気味が悪い……)
僕は背筋が震えた。なんだが、良くない事をしている気分で落ち着かない。
「パチパチ~! いやぁ、期待以上の出来栄えだったよ」
背後から、聞き慣れた声が響く。
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