第十話 静かな始まり
どんどん粗くなっているかもです
あれから、すぐに僕は大尉府から出て、瑶璃に報告した。
「……じゃあ、全ての府を集めて会議をしないと」
瑶璃は自分の黒髪をくるくると指で回す。一段高い場所の椅子に座っていた。
「とりあえず、大尉の処遇はこの事件を解決してから、決めるね」
瑶璃はそう言って、前に垂れてくる髪を後ろに払う。そして、立ち上がり、僕以外の属官に命令を下していた。
「各府を束ねる三人の長官に、相違なく伝えておいて」
「畏まりました」
その属官はそう答え、背中が遠くなる。僕もこの部屋から出ようと一礼すると、瑶璃に止められた。
「そういえば、星蘭が月華の事を探してたよ」
「僕を……?」
どうやら、事情聴取は終えて、大尉府に向かったらしい。
(すれ違っちゃった……)
僕は瑶璃に感謝を伝え、そのまま部屋から出る。行き交う属官たちは、僕の事を横目で見る。
ひそひそとしている姿も視界に入り、違和感は確信になる。
(あんまり、歓迎されてないのかも)
流石にちょっと心が沈む。溜息を吐き、角を曲がると誰かとぶつかった。
「わっ」
「ぎゃっ」
尻餅をつく。
紙が宙に飛び、ひらりと落ちていった。その中の一枚が僕の顔に当たる。
「い、いったぁ……」
高い声が聞こえた。僕は、顔面に張り付いた紙を取る。すると、そこには梨花が居た。
「ご、ごめん。梨花。怪我はない?」
「は、はい! 大丈夫です。こちらこそ、すみません。ぶつかってしまって……」
彼女の腕を引いて、立たせる。散った紙を僕は一枚一枚拾い上げた。すると、手が伸びてきて、制止の声が聞こえる。
「月華様は拾わなくても結構ですよ!」
「いやいや、僕のせいだからさ」
再び紙を慎重に拾い上げる。書類の内容はどれも予算についてだった。
「紙の量、多いね」
「そうなんですよ~。この紙を運んでほしいって言われちゃって」
全てを拾い終わり、端を綺麗に揃えてから彼女にその書類を渡す。元気に『ありがとうございます』と言い、一礼した。そして、そのまま彼女の背中が遠くなる。
庭で休憩しようと向かう。緑の光が僕に注ぎ、土の匂いがより一層感じられた。
(もうそろそろ、夏かぁ……)
熱が籠って、少しだけ暑い。遠くから聞こえる蝉の声に耳を傾けていると、走る音が聞こえてきた。
「月華~!」
振り返らなくても分かるその声に、僕は素朴に言い返す。
「なに。暑苦しいんだけど」
「なんか、機嫌悪いな?」
僕は暑いのが大の嫌いである。少し暑いだけでも、嫌なのに……更に性格が暑い奴が来ると……どうにも。
彼は横に来て、顔を覗いてくる。
「ちょっとあっち行って」
「酷い言われようだな」
眉を下げて困っているのが見える。だが、そんな事よりも離れて欲しい。
そっと僕から距離を離れる星蘭。傍から見たら、喧嘩した後の距離間であった。
「そういえば、月華は暑いのが嫌いだったもんなぁ」
「今でも嫌いだよ」
「そうだったそうだった」
室内だったら、まだ良かったが今は外に居る。早く、冬になってほしいものである。
「もう夏って事は、七夕行事がもうそろそろ来るのかぁ」
後ろに手を組み、星蘭はそう言う。僕は横目で彼を見て、一息つく。
「……めんどくさいなぁ」
大きくなる蝉の声の中、その言葉は静かに埋もれていった。
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