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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


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第80話 思いがけない訪問者

 淡い霧が立ち込め、あたり一面は白に染まっていた。


 ガーネットとコールは、屋敷の端にある厩舎(きゅうしゃ)へと向かった。


 ――ヒヒィィィィン。


 いつもより早い人間たちの訪れに、馬たちは鼻息を荒くして餌をねだってくる。


 少し離れた馬房(ばぼう)にて――

 コールは、純白の毛並みが美しい愛馬パトリシアに干し草を与えていた。


 その傍ら、ガーネットは他の馬たちに干し草を配って回る。

 干し草を抱えたまま、先ほどの出来事を思い返した。


 屋敷から厩舎へ辿り着くまでの間、次々と矢が飛んできた。

 矢の軌道をたどると、標的はやっぱりコールだった。


 それなのに……

 コールは雨粒を避けるように矢を躱(かわ)して、平然としているのですもの。

 見ている私のほうが、生きた心地がしない。


 1秒でも早く、この屋敷から離れないと。

 正直、私の精神が持たないっ。


 その時だった。

 厩舎に乾いた足音が響く。


「コールレオン様、もうお帰りですか?」


 厩舎の扉口には、家宰のジャレンが立っていた。

 手には何やら、大きな荷物を抱えている。


 おそらく土産だろうと、見当をつけたガーネットは目を瞬かせる。


 パトリシアの鼻先を優しく撫でながら、コールはジャレンに微笑みかける。


「ああ。朝から、矢やら蜘蛛やら飛んできて大変だったからな。これ以上長居すると、兄上たちの暗殺の手筈(てはず)も整うだろうし。俺はさっさと帰るよ」


 すると、ジャレンの背後に新たな影が現れる。


 その人物は、場を支配するような低音を放った。


「ほう。挨拶もなしに去るとは、随分と礼儀を知らぬ息子だ」


 冷ややかな威厳を帯びた声が、空気を震わせる。

 コールもガーネットも、驚くより先に顔を上げた。


 コツ、コツ……。


 地面を叩く杖の音とともに、霧の中から琥珀色の瞳がぎらりと光る。


 現れたのは、ガルシア家当主ダルトン・ガルシアだった。


 当主の皮肉に、コールの頬がわずかに引きつる。

 目を細め、猫を被ったような声色で返した。


「当主様がこのような場へ足をお運びになるとは、思いもしませんでした」


 ほんの一拍ののち、コールはガーネットを腕の中へ抱き寄せた。


「当主様が『当主になる条件』にガーネットを加えたせいで、恋人の俺は、兄上たちにより一層命を狙われましてね。安全で平和な故郷に帰ることにしますよ」


 コールの言葉に潜む皮肉など何のその。

 取るに足らぬと、ダルトンは鼻を鳴らした。


「ハッ、それは愉快。大切なものをこれ見よがしに連れ歩くからだ。昨晩は第一夫人たちも仕掛けたのだろう? ガルシア家総出で迎えて、随分と持てはやされているではないか」


 ムッと、コールは唇をひと筋に引き結ぶ。

 こめかみには青筋が立ち、非難を含んだ眼差しをダルトンへ投げた。


 その視線さえ心地よい刺激とでも言うように、ダルトンは不敵に笑った。


 2人の間に、張りつめた緊張が漂う――。


 ガーネットは静かに息を呑んだ。


 父子(おやこ)の会話とは思えないほど、空気が険悪だわ。


 コールがガルシア卿を嫌悪しているのが伝わってくる。

 過去の悲痛な境遇を鑑(かんが)みても、ガルシア卿を嫌う気持ちは頷ける。


 ――でも私には、どうしても引っかかることがあった。


 ガルシア卿は、私の質問に応じてくれるかしら?


 正直、わからない。

 でもこの質問は、コールにとって、きっと大きな意味を持つことになる。


 ……そんな気がするの。




 決意を瞳に宿し、ガーネットはゆっくりと顔を上げた。


「あの、ガルシア卿」


 思いがけない人物から声を掛けられ、ダルトンは片眉を吊り上げた。

 コールも驚いたように、左目尻のホクロを揺らす。


「……ん、何か用かね。ガーネット嬢」


 ダルトンからの冷たい視線が肌に刺さる。

 だがガーネットは怯むことなく見返し、勇気を奮い立たせた。


「実は、ガルシア卿にお尋ねしたいことがあるのです。よろしい、でしょうか?」


 微かに指先を震わせながら、奮い立つガーネットの姿をダルトンはじっと観察した。

 爬虫類のような冷たい眼差しが、ガーネットの表情を深く見据える。


 ほう……

 我が息子たちでも視線を合わせぬというのに、なかなか度胸のある娘だ。


 自然と上がる口角に逆らい、ダルトンは厳格な声を響かせた。


「……ああ、構わない。君は憎きベルフィオーレの娘ではあるが、コールレオンの花嫁でもあるからな。ま、コールレオンが他の兄弟に命を取られないかぎりだが」


 ん? いつの間にか恋人から花嫁に格上げされているみたい。

 でも、今はそこに口を挟んでいる暇はないわ。


 私が気になっているのはひとつだけ。


「カレンデュラ様についてお聞きしたいのですが……」


 ガーネットは静かに言葉を紡ぎ出す。

 この問いかけが、2人の間に残る溝を少しでも埋めてくれることを願って……。


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