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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


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第77話 傷モノ令嬢は組み敷かれ、る?

「なあ、姫様……」


 コールの、心地の良い低声が響く。


 ガーネットの肩がびくんと跳ねた。

 呼吸も、身体の自由さえも奪われ、コールの瞳に囚われる。


 寝台の上――

 両端に横たわっていたはずの2人の距離は、吐息が首すじにかかるほど近づいていた。


 ガーネットはゆっくりと体をよじった。

 逃げるように、寝台の端ぎりぎりへと後ずさっていく。


 その焦りを、シーツの音が代弁するようにさらりと鳴らした。


 だが、コールはガーネットの腕を引き留める。


 ……コール。どう、したの?


 コールの瞳を見つめても、何を考えているのかわからない。


 月の光を受けたコールの琥珀の瞳は、夜闇の中で淡い光を放っていた。

 まるでガーネットを求めるように、視線が揺らめく。


 こちらを捉えて離さない甘い視線が、ガーネットの胸にざわめきを与える。


 すると、コールの顔がゆるりと距離を詰めてきた。


 え、うそ。

 コールの顔がだんだんと近づいて。


 こ、これってまさか……くちづけ⁉


 私たちは恋人の真似事はしたけれど、それはあくまで演技だったはず。


 ……あ、だ、ダメよぅっっ。


「こ、コール……待って。そういうのはまだっ。ちゃんと順序立ててからじゃないと~」


 戸惑いを含んだガーネットの声が響いた。


 だが次の瞬間、コールの口から紡がれた言葉は――


「やっぱり、姫様も眠れないんだろ?」

「ふぇ? ねむ…………ひゃっ⁉」


 その時だった。


 ガーネットの右足がシーツからするりと滑り落ちた。


 まるで穴に落ちたように、視界から消える。


 慌てることなく、コールは手を伸ばした。

 指先はガーネットの腰を掬い上げるように、そのまま強く抱き寄せる。


 間一髪のところで床には落ちなかった。

 だが代わりに、ガーネットの心臓が特大の鼓動をバクバクとかき鳴らす。


 寝台の上、ガーネットとコールの身体は密着し、2人はただ見つめ合った。


 青碧の瞳と琥珀の瞳が交錯する。

 互いの吐息が絡み合い、体温はひとつに溶けるよう。


 ――トクドク、トクドク。


 ああ、心臓がすごくうるさい。

 身体の中を脈打つようで、周囲の音さえ耳に入らない。


 密着した部分からコールに伝わっていないかしら。

 知られてしまったら、私……。


 一方のコールは表情こそ冷静ではあるが、胸の内は大変動揺していた。


 ああ、やってしまった。


 姫様が寝たかどうか、確かめるだけだったのに。

 寝台の端で寝返りを打ったら危ないと、引き留めたのが裏目にでたな。


 ……っていうか、姫様。

 相変わらず折れそうなほど細い。


 それにやっぱりいい香りがする……あ、やばい。


 姫様のこと、俺の腕でこれでもかって包み込んで、ぎゅってしたい。


 ああ~もうっ、だから一緒の寝台で眠るのはダメだって!


 俺の理性よ、頑張れ。

 と、とにかく一旦離れないと……。


 ガーネットの腰から手を離し、コールは平静を装った声で言葉を投げかけた。


「大丈夫か姫様?」

「ええ。私は何ともないわ。支えてくれてありがとう、コール」


 ガーネットの声音に安堵しつつ、コールはどこか落ち着きない声を闇夜に放つ。


「すまない。そんなに驚くとは思ってなくて、怪我させるところだった」

「気にしないで。私もちょっと、勘違いしてしまっただけだから……」




 ぎこちない言葉が途切れたのち、2人の間に静かな沈黙が降りた。


 普段の気の置けない2人にはない緊張が、静かに場を包み込む。


 ふいに、ガーネットが瞳を瞬かせた。

 静かにコールを仰ぎ見る。


「ねえ、コールも眠れないの?」

「……俺は眠れない自信があったし」


 ガーネットの視界から視線を外したまま、コールは唇を尖らせた。


 普段の晴天のようなコールとすると、どこか薄雲をまとったようにぼんやりとしている。


 実は、コールの頬は赤く染まっていた。

 だが青く光る月のおかげで、ガーネットが感付くことはなかった。


 そのどこか幼さを含んだコールを見た瞬間――

 ガーネットの記憶から、ある思い出が浮かぶ。


 幼少のガーネットがお姫様ごっこをせがんだ時、少し困ったように眉を寄せたコール。


 不思議と「ママさま、眠れないのー」と眉をハの字にして泣きつくルビィの姿が重なった。


「ふふっ。羊を数えても眠れないものなのね。ルビィは10匹数える間に眠ってしまうけど」


 それを耳にした瞬間、コールの口元に微笑みが咲いた。


「ぷっ……それはルビィだけだろ」


 お転婆なあの子の存在が、場を和ませたのだろう。

 2人を隔てた気まずさはほどけ、代わりに穏やかな時間が舞い降りた。


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