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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


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第76話 寝台の上、2人きり……

 青白い月の光が窓辺から差し込み、絹地(シルク)のシーツが妖しく揺蕩(たゆた)う。


 ――ここは寝室。


 広々とした寝台の両端には、触れることを避けるように横たわる男女の姿。

 距離は保っているが、呼吸は不思議と重なっている。


 寝台の上。

 ガーネットの青碧の瞳には、窓辺の月が映っていた。

 その月は、心の動揺を映すようにゆらゆらと揺らめく。


 細い指で、シーツをきつく握りしめた。


 ぜんぜん、眠れないのだけど……

 ど、どうしましょう⁉




 ――数刻前のこと。


 ガーネットとコールは、カレンデュラの部屋から戻ってきた。


 戻って早々、2人は寝室の前で火花を散らしていた。


 コールは身振りを交えて、必死に何かを訴える。


「だから、俺は床で寝るから姫様が寝台を使ってくれ」


 しかしガーネットも負けじと、肩をそびやかしてコールを見返した。


「ダメよ。怪我明けのコールを床で寝かせるなんてできないわ。この寝台ならダブルで広いし、端と端に眠るなら問題ないでしょ?」


 いやいや、問題ないワケないだろ。

 っていうか、俺が問題起こしそうなんだよっ。


 何を思ったのか、姫様は俺とひとつの寝台で眠ると言い出した。


 まあ元はといえば、数時間前のあの、暗殺メイドのせいである。

 ソファがナイフでボロボロにされ、運び出されたせいで、寝る場所が寝台しかなくなってしまった。


 こういう時は、ジャレンたち使用人の手際の良さを恨む。


 大人4人くらいが横になっても余裕がありそうな寝台ではあるが、流石に同じ寝台で眠るわけにはいかないだろ。


 それはもう……色々と越えてしまっている。


 うーん、どうしたら姫様は諦めてくれるんだ?

 なんかこう、それなら大丈夫って納得するような……。


 あ、あれなんてどうだ!


 何か閃いたらしいコールは胸を張り、誇らしげに口を開いた。


「騎士隊の長期遠征で、馬に乗ったまま眠ったこともある。床なんて上等の寝台くらいに感じるからさ、姫様は気にせず寝台を使ってくれ」


 ガーネットは、驚いたようにまばたきを繰り返した。


「え、馬に乗ったまま眠ったの? そんなの危なすぎるわ、あ、だからコールの身体は傷だらけなのね。今のコールは本調子じゃないのだから、なおさらダメよ。私が床で寝るから、コールが寝台に寝て」


 柔らかな中にも芯の通った声が、室内に響く。


 ガーネットのほうが華奢なはずなのに、コールのほうが押し返されそうである。

 どうにも言い返せず、コールは眉根を寄せる。


 くうっ……さっきよりも悪化した。


 兄上たちにはしどろもどろだったのに、どうして姫様は俺には強気なんだ?

 ……別に嫌じゃないんだけど、妙に気になるというか。


 う~ん。

 こうなった姫様は、そびえる岩のように頑固だ。


 姫様を冷たい床の上で眠らせるわけにはいかないし……


 ああ~っ、頼むから持ってくれよ俺の理性ッ。






 ということで文字通り、ガーネットとコールは同じ寝台を共にしているのだが。


 ――ね、眠れない‼


 2人とも互いを意識しすぎて眠れず……

 静かに縮こまっていた。


 瞼(まぶた)を閉じても、胸の鼓動が騒がしくはやし立てる。

 寧ろ、眠りが遠ざかっていく始末。


 乾いた瞳にまばたきを落とす。

 窓の月を仰いだガーネットは、自らの発言を静かに悔やんでいた。


 ううう……。

 私の提案でこういうことになったのだけど、本当にまったくもって眠れないっ。


 コールと同じシーツに包まれた瞬間、心臓がトクトクと高鳴って……

 目がギンギンに冴えてしまった。


 さっきまで、すぐに眠れそうなほど疲れ果てていたはずなのにぃー。


 私って、コールのことを男の人として見ている、の?


 確かにコールは私の初恋で、だ、だいすき……だとは思う。

 でもそれは、幼い頃からの信頼の証だと思っていた。


 だけど、コールに恋人だと言われたり、演技だとしてもキ、キスされたり……。

 その度に、胸の奥が踊るみたいに跳ね上がる。


 いつの間にか――

 コールに抱いた信頼という箱は、手狭に感じたみたいに膨れはじめた。

 そして何か、もう一つの大きな箱をこじ開けようとしているように感じるの。


 その箱を開けてしまったら……

 きっともう、これまで通りではいられない。


 ――私は今、私の心がわからないっ。




 数刻後。

 ガーネットはもちろん眠っていなかった。


 冷たい夜の空気と、静かな沈黙が場を満たす。

 耳に届くのは、暖炉の上の時計が淡々と針を刻む音だけ。


 カチ、カチ、カチ……。


 その音が妙に響いて、室内を支配するように覆っていく。


 その時だった。


 シーツの擦れる音が、ガーネットの背後から響く。


 コールの発した微かな音も、つい耳で追ってしまう。


 すると、シーツの音が寝台の軋みに変わった。


 ギシ、ギシ。


 軋みは少しずつ距離を詰めていく。


 そして、気づけば背後に――!


 え……コール?

 もしかして今、後ろにいるの?


 背後から微かなぬくもりを感じる。

 ガーネットの背中は今、ひと息で消える蝋燭の炎のように敏感だ。


 ど、どういうこと。

 コールがすごく近くにいる気がするのだけど、気のせい?


 どうしよう。

 振り返って確かめたいけど……もし本当にいたら。


 ――どうなるか、私にもわからない。


 それでも知りたい衝動に抗えず、ガーネットは身を転がすようにゆっくりと寝返りを打つ。


 180度身を返したそこには、コールの琥珀の瞳が待ち受けていた。

 触れた視線がガーネットの呼吸を奪い去る。


 驚いたガーネットは、すぐに身を返そうとするが、


「おっと、姫様……」


 吐息のような囁きとともに、そっと腕を押さえられる。

 ガーネットは、身を返しかけた姿勢のまま自由を奪われてしまった。


 え、コール?


 ガーネットは息を呑む。

 すると、コールの顔がゆっくりと近づいてきた。


 吐息がかかるほど距離は縮まり、琥珀の瞳がガーネットを捉えた。


「なあ、姫様……」


 心地の良い甘やかな低声が響く。

 びくんと、ガーネットの肩が震えた。


 呼吸も身体の自由さえも奪われ、ガーネットはコールに視線を絡め取られる。


 琥珀の瞳に囚われたガーネットは――!?


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