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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


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第75話 コールと秘密のお友達

 ベルフィオーレの大森林にて。


 幼いガーネットを背負い、コールは昏い森の中を進んでいく。


 背中に寄り添うガーネットのぬくもりは頼りないはずなのに、不思議と安堵をもらっているようだった。


 時折こぼれる木漏れ日が、2人の背を押すように温かく揺らめいた。

 すっかり安心したガーネットは、コールの背に頬を寄せる。


 ベルフィオーレ城へと向かう間。

 私が森を怖がらないように、コールは森の愉しい話をしてくれた。


 森にはウサギの家族が住んでいて、遺跡の近くに巣穴が沢山あるとか。

 秘密の泉のほとりに咲いている花がすごく綺麗だとか……。


 私が退屈しないように、ワクワクする言葉を重ねていった。


 迷子になって泣き腫らしていたはずなのに、ベルフィオーレ城の城壁が見える頃には、今日の出来事は魔法にかけられたように楽しい思い出に変わっていた。


 だからつい、幼い私は期待してしまう。


「ねえレオ。明日も一緒に遊べる?」


 ガーネットを慎重に下ろしながら、コールの眉がわずかに跳ねる。


「遊べるって、また森の中に入るつもりか。そんな恐い思いしてわんわん泣いたのに?」


 意地悪な言葉に、ガーネットはぷぅと頬を膨らませた。

 そして負けん気いっぱいに拳を握る。


「今日はちょっと怖かっただけで、明日はもう大丈夫なの!」

「……そう言って、また泣くんじゃないのか?」


 コールが口の端をニヤリと吊り上げる。

 それを見て、ガーネットは向きになったように言葉を投げ返した。


「そんなことないっ。レオが一緒にいてくれたら泣かないし、安心だもんっ」

「安心って……」


 俺のどこに、そんなに安心したんだ?

 理由はわからないが信用されたらしい。


 一緒に遊ぶ、か……。

 俺としても1人で冒険するのも飽きてきたし、ガーネットがいると楽しそうだ。


 けど、ベルフィオーレ嫌いの父さんに怒られないかな?


 うぅーん…………ま、黙っておけば問題ないか。


 照れを隠すように、コールは頬を掻く。


 ちらりとガーネットに視線を流しながら、わずかに声を弾ませる。

 悟られぬよう、気乗りしない風を装って。


「……まあ、お前も一緒に冒険するなら遊んでやってもいいけど」


 瞬間、ガーネットの青碧の瞳が流れ星のように瞬く。


「うんっ、冒険するの! あ、でもたまにはお姫様ごっこも、したいかも」

「お、お姫様ごっこ? ……まあ、たまになら」


 照れを含んだコールの前に、小さな手が差し出された。


「んふふ、これからよろしくねレオ。いっぱい冒険しましょー!」


 『冒険』という言葉が耳に届いた途端、コールの胸に燻った恥じらいは跡形もなく消え去った。

 表情を輝かせ、コールは差し出された小さな手を包み込むように握る。


「おう。よろしくなガーネット! 俺たちは今から冒険仲間(パーティ)だ」

「冒険仲間(パーティ)? なんだかとっても楽しそうなのっ」


 このひと夏の間、私とコールは冒険仲間(パーティ)として遺跡周辺の森を冒険した。


 ウサギと友達になったり、ブナの木から落ちたヒナを親鳥に返したり、秘密の泉でお姫様ごっこをしたり……。


 あの時の思い出は、今も私を形作る大切な欠片(ピース)となっている。


 最終的には、私が首に傷を負って楽しい冒険は幕を下ろしてしまう。

 でも、ダイヤモンドが七色に煌めくような、夢のように幸せなひとときだった。



 ∻❖∻



 ガーネットは、夢の世界から目を覚ましたようにキャンバスから顔を上げた。


 コールの顔を仰ぎ見る。

 すると、幼い日の面影を重ねるように微笑みがこぼれる。


「コールって、昔から私を守ってくれていたのね」


 フッと笑みを漏らし、コールは悪戯っぽく口元をゆるめた。


「そういう姫様は出会った時から泣いてたな」

「むっ、コールの意地悪っ」


 5歳の頃のように、ガーネットは大袈裟に口を尖らせる。

 それを見たコールは、「冗談だよ」と告げながらなだめるように笑みを刻んだ。


 その光景は時が流れても色褪せず、まるでキャンバスから飛び出したように変わらない。


 2人はすっかり忘れてしまっているが、その光景をキャンバスへ起こしたのは、コールの母カレンデュラ・ガルシアの筆先だった。


 カレンデュラがなぜ2人を描いたのか……

 キャンバスの持つカレンデュラの記憶から、少しだけ覗いてみよう。



 ∻❖∻



 ――私の名前はカレンデュラ・ガルシア。


 私には6歳の可愛い息子がいるの。

 名前はコールレオン。


 この子が生まれた時、ダルトン様がコールレオンと名付けてくださった。

 ちょっと長いから、ダルトン様がいない時はコールと呼んでいるのは、ダルトン様には内緒ね。


 貴族の地位を剥奪され、路頭に迷っていた私を、ダルトン様は匿(かくま)ってくださった。


 おそらく愛人という立場になるけれど、私は感謝しかない。


 あら、ちょっとだけ話が脱線してしまったわ。

 私ったらいつもこんな調子で、コールに呆れられるのよ。


 そうそう、最近コールったら何か変なの。

 何だかそわそわした様子で昼食を食べ終わると、そそくさと姿を消してしまう。


 気になった私は、後を追った。


 道中、背後に気配を感じるのか、コールは時折くるりと振り返る。


 コールったら、意外と良い勘を持っているわね。

 ダルトン様に似たのかしら?


 それにしても、どこまで行くのだろう。

 もう街を離れ、街道を歩き続けて随分と経つけど。


 たどり着いた先に、私は目を丸くした。


 ここは……ベルフィオーレの遺跡ですって!?


 こんな人気(ひとけ)のない場所に、コールが足を運んでいるなんて。

 何か良からぬことをしているんじゃ……!?


 隠し事の匂いを察した私は、木陰に身を潜めて観察することにした。


 あ、念のため持参したキャンバスに、風景を描き留めておきましょう。

 この場所は、ブナの葉が青々としていて色鮮やかで美しいわ。


 筆を滑らせるうちに、コールを観察するという目的はどこかに遠のいていた。


 ブナの木に筆を走らせていた私の耳元に、小鳥のさえずりのような可憐な少女の声が触れる。


「ねぇ、お姫様ごっこの続きがいい」


 木の棒を剣のように腰元に差したコールが、気乗りしないように口元を歪めた。


「えー、昨日もしただろ。王子様が来てめでたしめでたしで終わったし……うーん、そうだな。じゃあ、幸せな城にドラゴンが攻めてくるってのはどうだ?」

「それもうお姫様ごっこじゃないの!」

「あははっ、バレたか」


 珊瑚色の髪に飾られた花冠(はなかんむり)を揺らし、少女は不満を漏らすように唇を尖らせた。

 痛いところを突かれたと、コールは腹を抱えて笑い転げる。


「……んなっ!?」


 幼い2人の様子を木陰から見守っていた私は、予想外の光景に咄嗟(とっさ)に口を塞いだ。


 あらあら、あらあらあらっ。

 とっても可愛いお友達!


 コールったら、我が子ながら隅に置けないわね。


 珊瑚色の髪色……。

 あの女の子って、ベルフィオーレのご令嬢じゃないかしら?


 以前、街でお見かけしたことがあるわ。


 ……あ、なるほど。

 だから最近そわそわしていたのね。


 ベルフィオーレ家を嫌うダルトン様に見つかったら、きっと大目玉を受けてしまうもの。


 ふむふむ。

 納得したし、私は帰ってコールの帰りを待つとしましょうか……。

 と思ったけど、やっぱり描き留めておきたい。


 なんだかとても心が震えてしまったのだものっ。

 この瞬間が、とても大事なことのような……。


 そうだわ、スケッチしておきましょう!



 そうして生まれたのが、『コールと秘密のお友達』という作品であった。


 でもこの真実は、カレンデュラとキャンバスしか知らない秘密である。



【登場人物メモⅫ】

カレンデュラ・ガルシア

享年36歳。コールの母。


父が賭博により莫大な借金を抱え、領地経営が破綻。

爵位を剥奪され、家族も離散した。


婚約者からも捨てられ、路頭に迷っていたところをダルトン・ガルシアに拾われる。

ダルトンがベルフィオーレ領に所有していた隠れ家に住んでおり、生まれたコールと帰りを待っていた。

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