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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


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第65話 恋人たち(仮)の部屋

「お二人とも、こちらでございます」


 ――ガチャ。


 家宰ジャレンの声を皮切りに、白亜の扉がゆるやかに開け放たれた。


 目の前に、豪華絢爛(ごうかけんらん)な室内が姿を現す。


 アイスブルーと白を基調とした、洗練された客室。

 アイスブルーの壁紙に合わせ、ソファの布地まで同じデザインで揃えられている。


 レースのカーテンから差し込む光が大理石の柱を輝かせ、気品ある雰囲気を醸し出す。


 荷を下ろしながら、コールは息を漏らした。

 客室の上質な空間に圧倒され、呆然としている。


「また……立派な部屋を宛てがわれたな」


 誇らしげに胸を張り、ジャレンは歌うような調子で声を響かせた。


「ええ。私の権限で、ガルシア家の最高級の客室をご用意いたしました。きっと御当主様が泊まるよう仰ると思って、湯浴みの準備も既に整えております」


 厳格な当主の傍らには、影で支える有能な家宰あり。

 従順でありながら当主の思考を先回りするジャレンに、コールは舌を巻く。


 ちなみに、ガーネットとコールは今も恋人のように身を寄せていた。


 そんなコールの背を見つめながら、ジャレンは朗らかに会釈を添える。


「どうぞ湯船にて、旅の疲れをお休めくださいませ。一応申し上げますと、お二人でも十分な広さの湯船でございますよ」


 ジャレンの言葉が落ちた瞬間、ガーネットとコールの瞳が驚愕に見開く。


「……っ!」

「んなっ、ちょ、な、何を言い出すんだジャレンっ! あの場では恋人と言ったが、俺たちは……‼」


 ようやく密着していたことに気づき、2人は急いで離れた。


 ガーネットは恥ずかしげに俯き、コールはわなわなと唇を震わせる。

 お互い視線を外してもなお、意識し合っているのがありありと伝わってきた。


 まだ完熟に届かぬ苺のような甘酸っぱい気配が満ちていく。


 ジャレンは穏やかに瞳をほころばせ、


「ほぉう、左様でございますか? 絵になるほどお似合いだとジャレンは思いますが……おっと、そうでした。私はカレンデュラ様の部屋の鍵を取りに行って参りますので、一度失礼いたします」


「あ、ああ……よろしく頼む」


 恥ずかしさで顔が熱を帯びる。

 コールは片手で顔を覆ったままだ。


 満悦な笑みを口元に刻んだジャレンは、2人に向けて静かに礼を落とした。




 ぱたりと、扉が閉まった。


 瞬間、ガーネットは力が抜けたようにコールの胸へと しな垂れかかる。


「ちょ、姫様……っ!?」


 先ほどの件もあって、コールの鼓動は胸を突き破るように跳ね上がる。

 コールの胸のシャツをきゅっと握り、ガーネットは力なく言葉を漏らした。


「コール、すごいお家なのね……き、緊張した」


 即座にコールは理解した。

 今の今まで、ガーネットが気を張っていたことを。


「姫様、大丈夫か……ちょっと待てよ、そこのソファに」


 鍛えられた腕で、ガーネットを軽々と横抱きにした。

 アイスブルーのソファへ気遣いながら運んでいく。


 そっとソファに横たえ、ガーネットは力のない微笑みをコールへ向けた。


「……ありがとうコール」


 微笑みを返したコールは、ある物を探して周囲を見渡した。


「えっと水……」


 テーブルの水差しに指を掛ける。

 だが、躊躇(ためら)うようにコールは手を引いた。


「いや待て。俺の水筒のほうが安全か……」


 すぐさま荷の中から水筒を取り出し、ガーネットの口元へと含ませる。


 ガーネットも元気を取り戻したようで、掠れた声を響かせた。


「……ありがとう。少し、落ち着いたわ」

「よかった。自分の一族をこういうのもなんだが、ゾッとしただろ?」


 躊躇いながら、ガーネットはぽつりと言葉を落とした。


「……正直なところ、噂以上で驚いたわ」


 大きく口を開き、コールは笑い声を放った。

 その声は、悲しみを含んだようにしっとりとしていた。


「あはは、だよなあ。姫様ん家は平和そのものだし。こんな目に合わせて、本当にすまない。やっぱり姫様を巻き込んだ」

 ひと呼吸置き、

「……それに、勝手に恋人とか、名前で呼び捨ててすまなかった。嫌だっただろ?」


 ちらと盗み見るように、コールは流し見る。

 だが、ガーネットはしっかりと首を振った。


 空気に溶けるような、か細い声がコールの耳朶を撫でた。


「私が勝手に付いてきたのだもの、気にしないで。それにね、久しぶりにコールにガーネットって呼んでもらえて嬉しかったの。恋人も別に、嫌じゃなかったし」


 刹那、コールの琥珀の瞳が大きく弾ける。


「えっ……本当、に?」


 看病の時の動じなさが物語るように、姫様は俺のことを男として見ていない。

 ――そう思っていた。


 でも、恋人として見られることも嫌じゃないってこと、でいいのか?


 へえ、そうなのか………………ふぅーん。


 細めた琥珀の瞳の奥で、コールの心は秘かに浮き立つようであった。

 すると、ガーネットが思い出したように口を開く。


「あ、でも……突然私が当主を決める流れになったのは、吃驚(びっくり)したけど」

「あれは本当にすまない」


 流れるようにコールは頭を下げた。


 姫様の見初めた相手が、ガルシアの当主の座を射止める……。


 血涙流すくらいにベルフィオーレを憎んでいる癖に、何考えてんだか。 

 当主の思惑は、子供の頃からどうにも掴めない。


 眉を寄せ、「うーん」と唸る。

 何かを決心したように、コールはガーネットをまっすぐに見据えた。


「ここまで知られた以上、姫様には俺の……境遇って言っていいのか。それを話さないとだな。少しだけ、俺の話に耳を貸してくれるか?」


 真剣味を帯びた眼差しに見つめられ、ガーネットは重大な何かを感じ取る。

 すぐに身をよじり、ソファから身を起こし始めた。


 すぐさまコールが止めに入るが、


「あ、おい。別に横になったままで構わないのに」

「いいえ。コールがせっかく身の上を話してくれるのだもの。私も、誠意を持って受け止めたいの」


 その揺るぎない眼差しに、コールは自然と目尻をゆるめた。

 すぐさまガーネットの肩に手を添え、身を起こす手助けをする。



 そして、ゆっくりと過去を遡っていく――。


「俺は、ベルフィオーレの街で母さんと2人で暮らしていた……」


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