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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月
第5章 レオンハルト編(ヤンデレ風味)

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第43話 罠

「ほんとうに!? 本当にルビィが見つかったの!?」


 思わず確かめ返したガーネットの震えた声が、森の小径にこだまする。


 不安をなだめるように、レオンハルトは穏やかな頷きを落とした。


「ああ、別荘で保護してあるよ。ただ具合が悪いらしくて、僕の部屋で休ませてある。早くガーネの顔を見せて、安心させてあげて」


 ルビィの泣き顔が脳裏に浮かぶ。

 ガーネットは、すぐさま別荘へ続く道へと踵を返した。


 だが、何かに引き戻されたようにふらついた足を止め、


「レオン、ルビィを保護してくれてありがとう。本当に何てお礼を言っていいのか……あ、セイラやコールたちにもルビィが見つかったことを伝えないと」

「それなら安心して。すでに遣いを出したから。さあガーネ、手を……今にも倒れそうで、僕はガーネのほうが心配だ」


 すらりと伸びるしなやかな手が、眼前へ差し出される。

 穏やかに微笑むと、ガーネットはレオンハルトの手のひらに指先を重ねた。


「レオン。何から何までありがとう」


 私はレオンの求婚(プロポーズ)を受け入れなかったのに。

 レオンはこんなにも優しくしてくれる……。


 ルビィを失うかもしれないという底知れぬ恐怖と、レオンハルトへの罪悪感に苛まれながら、ガーネットは震える足を必死に動かした。




 レオンハルトに導かれ――

 木々の陰から、白亜の輝きを放つ白煉瓦の屋敷が静かに姿を現した。


 石膏(せっこう)のように白く滑らかな外壁は、美術品のように美しい。

 この何色にも染まらぬ白を纏った無機質な屋敷こそ、シュナイダー家の別荘である。


 屋敷の大扉はすでに開け放たれている。

 ガーネットとレオンハルトは、玄関ホールへと足を踏み入れた。


 玄関ホールの中央には大階段が据えられ、手を繋いだ2人はゆっくりと段を踏みしめていく。


 1歩先を進むのは、レオンハルトだ。


 レオンハルトは繋いだ手を決して離さず、ガーネットを引き上げるように指先に力を込めた。

 微かに湿り気を帯びた手のひらが、レオンハルトの緊張を物語っていた。


 タッ、タッ、タッ。


 一方のガーネットは、階段を踏むごとに緊張がほどけていくのを感じた。

 ルビィの無事を、徐々に実感し始めていた。


 よかった。

 ルビィは無事なんだわ。


 もう少しでルビィに会える!

 独りきりで、きっと心細かったことでしょう。


 どうか、あの子が涙に濡れていませんように……。

 はやく、早くルビィをこの手で抱きしめたい。


 2階の踊り場に差しかかったあたりで、白いシーツを抱えたメイドとすれ違った。


 こちらに気づいたメイドは足を止め、恭しい儀礼を捧げた。


 恭しい儀礼の影で――

 メイドの顔色は酷く青ざめ、床へ縫い付けた瞳は動揺に揺れていた。


 その翳(かげ)った気配に、ガーネットは気づかない。

 ガーネットはただ、レオンハルトの背だけを追って歩みを進めていった。




 さらに階段を上り、3階へ。


 ガーネットとレオンハルトは、3階の廊下の奥へと進んだ。

 ルビィが待っているであろう、レオンハルトの私室の扉前へ辿り着く。


 いまだ互いのぬくもりを繋いだまま、レオンハルトはゆっくりと身を返し、柔らかく微笑んだ。


「さあ、こっちだよガーネ……」


 誘(いざな)われるように、部屋へと足を踏み入れる。


 その一室は、ガーネットが幼い頃にレオンハルトと駆け回った、馴染みの空間。

 懐かしさの残る空間に気を許し、警戒心など手放して中へ進んでいく。


 不思議ね。

 小さい頃はとても広く感じたけど、今はとても狭く感じる。

 これも成長したからかしら。


 でも記憶よりも少し暗いような。

 これも、成長のせい……?


 レオンハルトに促されるように姿見鏡の脇を通り抜け、細い廊下へと進む。


 見知らぬ間取りに、ガーネットは微かに小首を傾げた。


 え、レオンの部屋って二部屋に分かれていたかしら……?


 短い廊下を抜けると、窓から差し込む柔らかな光がガーネットの瞳を白く染めた。


 まず視界に入ったのは寝台だった。


 寝台の上には、シーツを押し上げるようにこんもりとした膨らみが見えていた。

 シーツの隙間から珊瑚色の髪がふんわりと覗いている。


 ――ルビィ!


 吸い寄せられるように駆け寄り、掴んだシーツを捲る。


「ルビィっ、大丈夫?」


 ガーネットは我が目を疑った。


「……え?」


 そこには珊瑚色の髪の……

 幼い頃のガーネットによく似た『ぬいぐるみ』が、横たわっていた。


 愛らしいぬいぐるみの薔薇色の頬に触れながら、ガーネットは胸に落ちた違和を小さくこぼした。


「どうしてこんなぬいぐるみが……ルビィは?」


 刹那――ガチャッッ。


 出口を塞ぐ無慈悲な音が室内に反響した。


 すぐさまガーネットは振り返る。


 視界が捉えたのは、内鍵に固く手を添え、穏やかに微笑むレオンハルト。

 その笑みはどこか歪(いびつ)で、底の見えない恐怖を孕んでいる。


 弧を描いた唇は、ゆるやかに告げる――


「……おかえり、ガーネ」


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