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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


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第40話 ママさまか、それともアイスクリームか

 風がざわめく。

 広大な湖は、太陽の輝きを受けて煌煌(きらきら)と揺らめく。


 湖から吹き抜ける涼風が、ガーネットの頬を柔らかく撫でていった。


 ――別荘区域の中央に広がる湖畔にて。


 ガーネットたちはピクニックシートを広げ、和やかな笑い声とともに団欒を楽しんでいた。


 シートの上にはサンドイッチやフルーツの盛り合わせ、ひと口サイズのタルト、食欲をそそる甘いレモネードが彩りよく並ぶ。


 その中でも、ガーネットの手作りのシフォンケーキがひと際存在を放っていた。


 シフォンケーキの切り分けを、ルビィとレオンハルトは競い合うように口に運んでいた。


「これはルビィのケーキなの!」

「いいや、それは僕が目を付けていたケーキのカットだよ!」


 火花を散らすように奪い合う2人。

 その争奪戦に早く終止符を打とうと、ガーネットは思案を巡らせる。


 早々にケーキの数を減らすべく、護衛にあたるコールとゲオルグにもケーキを取り分けていく。


 小競り合いの傍ら……

 コールはシフォンケーキの余韻に浸りながら、微笑みを灯した。


「うん、すごく好きな味だ。姫様の優しさがこもっているからか、すごく甘く感じて、不思議と嬉しい気持ちになる……なぁんて、カッコつけすぎか」

「ふふふ、ありがとうコール」


 照れをにじませながらも、コールは褒めてくれる。

 ガーネットも、つい口元がほどけていく。


 コールに褒められると肩の力が抜けて、胸の奥がそっとあたたかくなる。

 不思議と懐かしい気持ちになるのは、どうしてかしら?


 湖面に煌めく光の粒のようなときめきの中――

 のんびりとした、穏やかな時間が湖畔に流れていた。




 薔薇色の頬を両手で包み、ルビィは唇をほころばせた。


「んー、冷たくって、甘くって、お口の中でなくなっちゃうの!」


 ルビィが興奮気味に語るもの。

 ――それはアイスクリームだった。


 ほっぺがとろけるほどの甘やかな美味しさに、初めてアイスクリームを味わったルビィはもうすっかりメロメロである。


 ルビィが喜ぶだろうと、レオンハルトがシュナイダー家のシェフに用意させたらしい。


 その予感は見事に的中し、瞳をとろかしたルビィはすっかり骨抜きである。


 満足げに、ルビィは立ち上がった。

 足を弾ませながらガーネットのもとへ駆け寄り、肩にそっと手を添える。


「ママさま、一緒にお花畑にいくの」


 だがそこに、レオンハルトの手が遮るように立ち塞がる。

 そして、もう1つの案が紡がれた。


「花畑よりもさ。一緒にボートに乗ろうよ、ガーネ」


 その提案に、ガーネットの瞳は驚愕の色をはためかせた。


「え、レオンって湖は苦手でしょ。昔は湖が怖いって、水辺にも絶対に近づかなかったのに」

「ちょっと、ガーネは僕をいくつだと思ってるの? もう僕だって18なんだ。ボートだって漕げるし。ね、乗ろうよ、僕が湖上を案内してあげる」


 口をむっと引き結び、レオンハルトは拗ねた少年のように不服を訴える。


 すると、ガーネットの肩に添えていたルビィの指先に力が込められた。

 存在を知らせるように、ガーネットの肩を小さく揺さぶる。


「ママさま。ルビィも一緒に乗る」

「もちろんよ、ルビィも一緒に乗りましょうね」


「残念だけど、ボートは2人乗りだから3人は乗れないんだ」


 残念と言葉にしつつ、レオンハルトの瞳の奥は微動だにしない。

 思案を装ったのち、ちらりとルビィへ視線を滑らせた。


「…………そうだな。ガーネといる権利を僕に譲ってくれるのなら、特製のアイスクリームをプレゼントしようか。なんと、三種の苺のアイスクリームが三段になった特製だ……ふふ、どうする?」


「……さ、三段のアイス、くりーむ……!」


 ルビィの淡い青碧の瞳がキラリと輝き、生唾をごくりと呑む。


 ルビィの頭の中には、『ママさま』と『三段の苺のアイスクリーム』が天秤の上でぐらぐらと揺れていた。


 ママさまと一緒にいたいけど、いちごのアイスクリーム……もっと食べたいの。


 三段のアイスクリームってどんなのなの?

 すごくおいしそうっ。


 好奇心と想像が膨らむたび、心の天秤はぐらりぐらりと、左右に揺れては傾きを変えていった。


「うーん、うーん……」


 悩んだ末、ルビィが下した答えは――


「わ、わかったの。アイスクリーム食べて待ってる!」


「あはっ、いい子だね」


 レオンハルトは、目元を細めて満面の笑みを刻んだ。

 そんなレオンハルトの微笑みとは裏腹に、ガーネットは母親が案じるように眉根を寄せた。


「本当にいいのルビィ。アイスクリームを食べてからボートに乗っても」


 レオンハルトはシェフへと静かに目配せを送る。


「ガーネったら、せっかくああ言っているのだし、この子の自主性を尊重してあげようよ……ほら、お待ちかねの品も届いたようだしね」


 パチンッ。

 レオンハルトの指が軽やかに鳴った。


 その指の響きに応えるように、シェフがアイスクリームを載せた皿を儀式のような仰々しい所作で運んできた。


 皿の中央には、苺の果肉をふんだんに使用した三色のアイスクリームが三段に重なり、堂々と鎮座している。

 さらに、金粉が星屑のように煌めき、飴細工の鳥籠がアイスクリームを黄金色に包み込んでいた。


 ルビィの瞳は、宝物を見つけたように輝いた。

 すぐさまシェフのもとへと小走りで駆け寄り、わくわくと足を弾ませる。


 その純粋無垢な背中に、レオンハルトは思わず笑みを漏らした。


「ふふ、お気に召したようでよかった」


 レオンハルトの笑顔の裏に隠した思惑にガーネットがたどり着くのは、もう少し先の話だった……


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